女勇者と魔法使い
シフがカンダル王国へと戻ったウィッチの村では、“黒バラ"は全員捕縛し一箇所に集められていた。リーダーのパルを除き、眠らせている。
「つーか、なんでこいつ寝ないんかね。ちょっと自信なくすわ……」
メンバーを眠りにかけたのは元メンバー、マイトの魔法。愚痴垂れるようにパルへと問いかける。
「私はこれでも光の魔法を使えるのでね、浄化はお手の物さ。これから起きるイベントに、寝てるなんて勿体ないからね」
「……なぁリーダーさんよぉ、見込みが甘くねぇか? 何か起きるにしても、もう戦力がねぇし、あったとしてもあの化け物達を容易に覆せるとは思わねぇ。なのに、なんでそんな余裕なんだ?」
「それは後のお楽しみで。なぁに、すぐ判明するさ」
「……そりゃ、乞うご期待で」
どうせはったりだろうと、マイトは呆れる。少し離れて、周りの様子を伺おうとすると、村人達が騒いでいる。
「た、大変だ……リック村長が見当たらない……!」
「……なんですと?」
慌て出す村人達を神妙に調査するアメト。人質として捕らえられてはなかったので、村人やルビが捜索に当たっていた。
「そ、それどころか、探してた人達も何人かいなくなってる……」
「そんな……ルビ姫さまは!?」
「だ、誰か見たか?」
「いや、そういえば……」
村人達の反応を見て、アメトは血相を変えてパルの元へと参り、針を肩に突き刺す。
「貴様ら、何をした?」
「怖いなぁ。そう焦らなくても、答えはやってくるとも」
「まさか本当に、誰かいるのか……?」
見るに見かねて、マイトが口を出す。
「おや、君なら見当がついてもおかしくないと言うのに」
「はぁ? 俺がぁ?」
「そうとも。実際に会ってはいないものの、関わりはあるさ……例えば、物とか」
「何…………ってことは……!?」
つい最近、自分でも口走ったことがある。名は知らない、それでも思い当たる人物がいた。それを鮮明に思い出す。
『製作者から呪いの武器と共に配給されたんだよ』
「ま、まさか……ここに来ているのか、あの宝石を作った人物が……!」
「ーーあらまぁ、随分と滑稽な姿へと変わりはったなぁ」
「「っ!?」」
見知らぬ女性の声に、2人はさっと振り向く。
「これはアクマ様、お見苦しいところを。多少の手違いがありまして」
「見たらわかるわぁ。そやけど、なかなか興味深い人物がおったさかい、許すとしまひょ」
「貴様……その発言はどういうことだ、ルビ姫さまやリック相談役をどこへやった……!」
怒りを顕にして睨め付けるアメトととは裏腹に、マイトは青ざめて冷や汗が吹き出ている。何故なら、ある異変に気がついていた。
「な、なぁ? さっきまでそこで慌てふためいたよぅ、村の人々はどこに行ったんだ……?」
「ウフフ、この2人も艶やかな作品に変わるとええなぁ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
シフ達が“黒バラ“と抗争してる間、カンダル王国ではありとあらゆる超常現象が出現し、停止している。
今にも降り注がんとする隕石群、砂塵渦巻く大竜巻、大地を分かつ地割れ、山の如き氷柱。全てが静止画のように成していた。
サフィアは剣を地に突き刺し、滝の様に汗を流して肩で息をする。民に被害が出ないよう、災害級の魔法を『時』を止め続け、大きな負荷がかかっていた。
それでもなお、表情だけは凛と佇む。見据えるは幻覚ではない本物のイヤド。民の避難が完了したことで、なんとか見つけることに成功していた。
「やるわねサフィア。まるで勇者ね」
「そうだ、とも……これ以上は、好きにさせん……!」
「フラフラなのに虚勢張っちゃって……称賛はするわ、けれどこのまま潰してあげる!」
イヤドの周囲に黒き魔弾が続々と出現し、サフィアに向かって放たれる。
『風身一体』
サフィアはもう、『時』の力を使えば生き絶える寸前まで酷使していた。後はサフィア自身の力で対抗するしかない。
次々と迫る魔弾を避け、着実に距離を詰めていく。逃ればまた同じ戦法をされるため、立ち向かうことしか許されない。
「『シャドーチェイン』!」
サフィアの影から現れる鎖により、脚を固定される。すかさずイヤドは魔弾を放つ。何発も被弾し、よろめくも倒れるのを堪えた。
「しっぶといわね、いい加減負けを認めないさいよ!」
「……」
「アンタもう意識が……いいわ、せめてもの慈悲よ、楽にしてあげる!」
執念だけが彼女を突き動かす。重い足取りで前へと歩む。イヤドはやや怯みながらも黒い魔力を練り上げ、サフィアと放った。
「勝った! アタシの野望がここからーー」
ズドン!!
重く響く衝撃が大地を揺らすとともに、サフィアに到達する寸前で魔法は掻き消された。
「い、一体何が……?」
「ぃよう、久しぶりだなぁイヤドォ」
「な、なんでアンタが……!?」
地に振り下ろした呪いの斧を持ち上げ、愉しく笑み浮かべる男。
屈指の戦闘狂にて、大の問題児、戦士のオニスであった。
「同窓会といこうじゃあねぇか、殴り合いのよぉ!」




