盗賊少年と時間稼ぎ
カンダル王国隠密部隊隊長ことアメトは、“黒バラ“の1人であるクーツと攻防を繰り広げていた。
(ルビ姫様達は、決着が付いたようで……安心しましたが、こちらに応援を寄越してもらい状況ですね……不甲斐ない)
民家に潜み、息を吐くとともに身体の力を抜く。
派手に闘い合っているわけでなく、姿が見えたら襲い、すぐまた身を隠すのを繰り返す。それほど敵の銃弾操作に苦難していた。
身を晒せばそれだけ銃弾が追従され、どうにかして振り切りなければならない。しかし、遠距離戦では絶望的で近づかねば勝機は来ない。
「ハァ、私もシフ君みたいにキャッチできたら話が早いんですがねぇ」
弾速が変わらず、不規則に変化し続ける弾を防ぐのは容易ではない。それを易々と行えた仲間の名を思わず口に出す。
パリン!!
窓硝子が砕け、銃弾が室内を駆け巡る。それを慌てず伏せてジッと観察するアメト。
幾度か対峙したことで、相手の能力が細かく把握できていた。銃弾の操作は精密だが、ターゲットを視認してない限り、当てることは難しいと。
近づくのは困難なため、近づいてもらうことに決めていた。あえて居場所を知らせ、接近戦を持ち込むために。
クーツは格闘にも自信があり、接近戦で銃弾操作を自分に当てるなどのヘマはしない。決して敵を侮りはしていない。元軍人としての経験と冷静さで、“白バラ“だった組織では2番手でもあったほどに。
故に、勝負を急いだ。仲間の元へ一刻も加勢するため、隠密によって形勢を逆転された厄介な敵の芽を潰してから。
クーツは勢いよくアメトの元へと向かい、潜んでる室内の扉を蹴破る。すぐさま小銃で撃ち、銃弾とともにアメトへと距離を詰める。
完全に捉えていた、逃げ隠れしても追い詰めるのが当然の状況でもあった。だというのに、アメトの姿は一瞬で消えた。
混乱しながらも、身体はブレーキをかけ、迎撃体勢をとろうとする。
しかしその刹那、顎に衝撃を受け、身体は浮き上がり、頭部を天井に強打して倒れ込む。
『消歩・脳天二乃打』
隠密を極めし彼女にとって、姿を捉えられ、身を隠す場所がなくても、意識外へと消え失せられる。そして身を低くした状態から顎を蹴り上げ、ついでに天井にぶつけ、確実に意識を落とす技である。
「手強い相手でした……絶対に昇給申請しよ」
アメトはぶつりと呟きながら、クーツを拘束して、皆んなの元へと向かった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
"黒バラ“のリーダー、パル相手にシフは攻めあぐねていた。逃げては魔法の槍で迎撃、ひたすらそれの繰り返されている。
「……いい加減かかって来たらどうですか!? 子供相手に臆しすぎですよ!」
「ハハ、臆しもするさ。なんせ君は最大の危険人物。今でも命があって嬉しいよ」
「人をオニスみたいに……あー、ダメだ! 苛ついたら思うツボだ!」
決着が付かず、焦ったくなって煽ってみれば、爽やかに弄られる。完全に時間を稼がれている。
「『白爆槍・檻球』」
突如として、光輝く槍が四方八方から出現し、全てが向かってくる。
『雷嵐天駆』
魔法の槍を足場にし、瞬く間に一帯に駆け巡る。触れれば爆発するので、一気に加速し続け、あっという間に脱出する。
「流石の身のこなし。彼女が勇者相手に、君が加わるのを避けるわけだ」
「……だからと言って、そう簡単にサフィアはやられませんよ」
「それはどうかな? 彼女は自信ありげだったし」
「ふん、サフィアはゴキブリ並みにしぶとく、蚊のように執念深く、蟻の如き働くんですから!」
「全部虫で讃えられてもね……それに働き蟻はと言っても全体の2割はサボってるらしいけど」
「勿論それ含めて言ってます」
「認めるのか……」
やりとりをしていると、ルビ達がやって来る。どうやら全員無事に倒したようだ。
「大丈夫シフ君!」
「問題ない……けどごめん、完全に時間を稼がれている」
「仕方ないですね、連戦ですが手を貸しましょう」
「おやおや、皆はやられてしまったか……」
「残念だったなリーダーさんよぉ! 俺を見捨てたのが運の尽きだったな!」
「……そうか、なら戻って来る気はないかい? マイト」
「かーっ! 都合の良い野郎だぜ、俺はもう身も心もカンダル王国に尽くすって決めたんでなぁ!」
「えっ」
「……何が狙いなんです?」
「ひっでぇ!? 本当だって!」
「いいぞマイト君、その調子で潜入頼むよ」
「テメェまで乗ってくるんじゃねぇ!? おいお前ら、違うからな! 勝ち馬を逃す気がねぇだけだよ」
「良い本音が聞けましたね」
「……マイトさん、本当だったら嬉しかったのに」
「だーもうっ!!」
急に忠誠心を見せつけられ、疑ってしまったがこの様子じゃあ流石にないだろう。
「さて、それじゃあとっとあの人をーー」
「じゃあ降参」
「ぬっ!?」
両手を挙げて降伏アピールをするパル。あっさりと認めたため、拍子抜けしてしまう。
「そんな顔で見ないでくれたまえ、こちらも結構ギリギリだったのさ。一手でも間違えれば、私はやられていたよ。加勢なんてされれば、詰んだも同然。それにもう、充分だろうしね」
「くっ、この人の言う通りだ……! サフィアが危ない、急いで向かわないと!」
パルを速攻で拘束し、行く手立てと準備を考える。マイトさんでもウィッチの人々でもいいから、転移魔法してもらって……万が一サフィアがやられてたとしら……
「そうだ、エメルは?」
「村人達をほとんど治して、寝て休んでるよ!」
「よし、文句を言わない内に連れて行こう」
「扱い雑ぅ」
「では、私達はここで見張りを兼ねて待つとしましょう。彼女達に参戦できるのはシフ君くらいでしょうし」
「悪い皆んな、後は頼んだ!」
急いでこの場を離れ、エメルの元へと向かう。サフィアがやられても、治してしまえば振り出しに戻れる。そうすればイヤドだって、また止められる……!




