姫様と黒バラ
「オラオラァ! 逃げてばかりじゃないッスか! 啖呵を切った割にはその程度かい!」
ガネットは呪いの三節棍を振り回し、ルビへと追撃し続ける。掠っただけでも衝撃は倍になってしまうため、まともな近接戦闘は避けなければならない。
「『グランドランス』!」
逃げ惑いながらも唱えたのは、大地から穿つ岩の槍。それを見たガネットは小馬鹿に笑って、全く同じ魔法で相殺させる。
「もしかしてぇ、近接じゃあ勝てる見込みがないから魔法だったらいけると思ったんッスかぁ? しかもウチに土の魔法で歯向かうとは、随分甘くみられたもんッスね〜。だったら! お望み通りにしてやるッスよ!!」
「『ガトリングロック』!」
「小粒小粒ぅ! モノホンはこうッスよ! 『ガトリングロック』!」
双方から放たれる岩石群が激しくぶつかり合う。しかし、ルビよりもガネットのほうが大きさを上回り、押しつぶされていく。
「ホラホラァ、ご自慢の魔法はそんなもん……うぷっ!?」
優越感に浸っている隙に、ルビは煙玉を投げつけていた。
「小癪ッスね……目を眩まされば当たるって? 『バリアドーム』!」
ガネットは煙に包まれながらも周囲にバリアを展開する。
「あーとは、どこにいようと当たるもんぶちかませばいいだけッス! 『グランドクエイク』!!」
大地が揺れ始め、ガネットの周囲の地面は勢いよく盛り上がり、極小の山脈を築き上げる。
「キャアア!?」
「良い声で鳴くじゃないッスか! 後数年もすれば美人に……っとダメダメ、ウチにはイヤド……様が……!?」
ガネットが自身の異変に気付いた時には既に遅かった。抗い難い強烈な眠気に襲われていることに。
「まさかそんな、元アニキの魔法に……? いや、戦闘中でアドレナリンがドバドバなのにかかるはずがーー」
「まだ俺は何もやってねーよ。つーか誰が元アニキだ」
「なっ……!?」
ガネットが虚な目で見上げた先に、バリアの上で立つマイトがいた。
「からくりはな、てめぇがバリアの中にも取り込んじまった煙よ。強力な催眠作用付きのな」
「ク、クソッ! こ、こんなので……!」
「『悪夢誘眠』」
マイトの言葉とともに、ガネットの意識はプツリと途切れて倒れる。
「まだ、って言ったろ? 俺を見捨てた仕返し、夢の中でたっぷりやらしてもらうぜ」
「フー……マイトさん、ありがとうございます!」
額から血を流すも、ルビは元気よく言葉をかける。
「何言ってんだい、王女様が寝やすい環境にしてくれたからコロッと堕ちたんだ。助かったよ」
「いえいえ!」
「コラァ!! この俺を差し置いて何をしておる! 正々堂々勝負せんか!」
青筋を立てて近づいて来るのは“黒バラ“のトパ。マイトと闘っていたが、途中で幻覚を使って撒いていたところだった。
「うへぇ、来ちゃったよ」
「全く、お前という奴は相変わらず汚いな! だから脱退なんて目に遭うのだ」
「そう言うトパの旦那は相変わらず頭が硬い。だから髪が芽吹かないんだよ」
「これは剃ってるんだ!!」
「まぁまぁ。ここには後輩の恨み晴らしと、選手交代に来たんだよ」
「なんと……この小娘が俺の相手をするってのか!?」
「アンタの能力は話してる。そのうえで勝算あるとよ」
「ほう……大層な発言だ。小娘よ、俺は女子だからとて容赦せんぞ?」
「……構いません」
その言葉を皮切りに、互いに魔力を練り上げ、最大の魔法を繰り出さんとする。
「『灰炎猛虎』!」
「『フェニックス』」
トパからは燃え盛る虎が、ルビからは不死鳥が放たれて激突する。不死鳥の方が小さく、劣勢であったが徐々に力が増し、大きくなっていく。
「こ、これは……!? 俺の魔法から魔力を吸い取ってやがるのか!」
「ご明察です。私では未だ、強力無比な技も魔法も会得できていません。ですから、勝つためには道具も他人も相手ですらも利用しましょう」
「ぬぅぅぅぅ!! ぐぅ……!! うがぁぁぁぁ!?」
抵抗虚しく、不死鳥は燃え盛る虎を喰らい、そのままトパをも巻き込んだ。
「ブラボー! 火力特化のトパの旦那をまさか本当に正面突破で倒しちまうとは! たまげたぜぇ」
「同じ火の魔法だったからできた芸当です。それよりも早く、アメト達の援護に……うっ!?」
ルビの意気込みは身体が追いつかず、よろめいてしまう。
「無茶しなさんな、2人も倒したんだ。大金星だろうよ。ちょっくら休んでな」
「は、はい……少ししたら追いつきます!」
マイトはルビの元から離れ、村人達が相手をしている“黒バラ“の方へと向かう。
(しかし、マジで勝っちまうとはな……ガネットの時は呪いの棍があったから避けまくってたが、近接でも良い筋してる。最後の魔法は格上にも有効……信念を体現してやがる。化けるなアレは……既にこの国には、あの狂戦士を倒した化け物盗賊と、とんでもな勇者がいるっつーのにねぇ)
「こりゃ本気で転職を考えるかね……」




