表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/98

魔法使いと白バラ

 時は少し遡り、シフ達一行がウィッチ村に着く前、“白バラ“の集団は既に制圧していた。


 村の長であるリック相談役は意識はあるも横たわり、“白バラ“のリーダーが問い詰めていた。


「リックさん、これ以上抵抗しないでいただきたい。御老体を痛ぶるのは私とて心痛む故」


少し癖毛ながらもサラサラとした淡い桃色の長髪に、気品溢れる美男、リーダーのパル。槍を下ろし、穏やかに笑いかける。


「やめろテメェら……! 何が目的にせよ、あのロクでもない娘を解放するなんて、後悔するぞ!!」



「ーー誰がロクでもない娘ですって? クソじじい」


必死に忠告するリック相談役に、ドスを利かせた声を返す1人の女性。透き通るような銀色のツインテールに、長いまつげをした美麗な目。豊満な胸部の下で手を組み、ジリジリと詰めよっていく。


 魔王レイキングスが討たれる前日、世界征服を目論んでシフとサフィアによって倒された、魔法使いのイヤドであった。


「出、出おった……」

「人を腫れ物扱いなんて良い度胸じゃない?」

「いやそうだったから監禁してたんだし」


「『ウォーターボール』!!」

「ゲホォ!?」


イヤドの頭上から水の球が精製されると同時に発射、勢いよくリック相談役に命中する。



「ま、これくらいにしといてあげるわ。命があることに感謝なさい」

「ドちく、しょう……」


その言葉を最後に、リック相談役は意識を失う。イヤドはくるりとパルの方へ向き、高慢な態度で話しかける。


「そこの変な格好、よくやったわ。アタシを助けるなんて目の付け所が良いわね。褒めてあげる」


「いえいえ、礼には及びませんとも。しかし……」

パルは微笑を浮かべながら答え、指パッチンをする。すると、背後に総勢8人の“白バラ“が集結した。


「救出した恩として、我ら“白バラ“に加わっていただきたい」

「不許可よ」


ざわつく“白バラ“の構成員達。しかし、リーダーのパルだけは取り乱さず、冷静に口を開く。


「理由を、お聞かせいただいてもよろしいかな?」

「簡単よ、雑魚と肩を並べるつもりはない。それと、凄くダサいから」


「テメェ……自分の立場がわかっているのか!?」

呆れ気味に答えるイヤドに“白バラ“の1人、トパという坊主頭の男が声を荒げる。


「何? 助けてくれたことは褒めてやったじゃない」

「それはそれでおかしいが……この人数差でよくもまぁ、断れるもんだなぁ?」


「あ〜、そういうこと。なんでわざわざ雑魚を連れてきたのかしらと思ったけど、脅しのつもりだったわけね。でも無理があるわ、蟻が数倍に増えた程度で恐怖なんて感じないでしょ?」


「この(アマ)ッ……! リーダー! やはりこんな頭がイカれた奴を仲間になんて反対だ!」

「はぁ!? 何よこのハゲ!!」


「よすんだトパ……失礼したイヤドさん、お詫びしよう」

「リーダー!? 冗談じゃねぇ、こんな唯我独尊女を入れたら崩壊しちまう! なんだってそこまで……」


「彼女の力は、次の依頼に不可欠だ。それも組織の存続に関わるほど重要なもの。再三説明したろう?」

「うっ……しかし……!」


「ふーん、アンタ達の事情はどうでもいいけど、私がいなきゃできない依頼ってのは気になるわね。いいわよ、聞くだけ聞いてあげる」

「どこまでも上から目線な……」


「勇者サフィアの捕縛です」


パルの発言に一瞬止まるイヤド。自慢げな表情から一転、殺気立つような歪な笑顔をみせる。


「……へぇ、面白いじゃない」

「興味を示していただけたかな?」


「あったりまえじゃない! アタシとサフィアの関係、アンタも知ったうえで話を持ちかけたんでしょ?」


「左様、お考えは変わったかい?」

「そうね、うん……アタシじゃないとそれは無理ね……丁度いいわ! 特別に手を貸してあげる!」


「……負けたくせにえっらそうに……」


トパのぼそりと呟いた言葉が、イヤドの耳に届いた。


「あ゛ぁ?」


睨み殺すような勢いでブチ切れ、魔力を解放するイヤド。その場にいる全員が身構えようとした瞬間、トパの足元から黒く大きな手が出現し、身体全体を握り締める。


「誰が……負けたですってぇ!!」


 サフィアとシフに討たれたことは、イヤドにとって逆鱗に触れる過去となった。彼女はそれまで負けたことがなく、非常に高い自尊心を著しく傷つけていた。


「あ、ががっ……!?」

「あれはねぇ! 卑怯にも2対1でやってきたのよ!! 大体、あのガキんちょがあんな変態に付くなんて……ともかく!! アタシはまだ正式に負けちゃあいない! 取り消しなさい!」


「う、うぅ、悪かっ、た……!?」

「そこまでに」


パルは冷静に黒い手へ触れ、その部分から光輝き出して消滅させる。


「あら? アタシの魔法を消すとはやるじゃない。猿山の大将にしてはそこそこね」

「貴女から一目置かれるのは光栄だね。私に免じて、この者の命は勘弁していただきたい」


「……まぁいいわ、許してあげる。けど、加わるのに条件を1つつけるわ」

「ほう、何をご所望で?」


イヤドは指パッチンすると、『白バラ』達の白いスーツが一瞬で黒くなる。


「ダサすぎるから染めてやったわ、感謝しなさい。これから“黒バラ“とでも名乗りなさいね。それと、アタシの命令は絶対服従ね」


「条件が2つになったッス!? しかも既に取り返しがっ!?」


黙って様子を見ていた“白バラ“の1人であるガネットが、思わず驚いてしまう。


「………………わかった、引き受けよう」

「「「「リーダー!?」」」」


冷静沈着であったパルも少々取り乱すも、渋々返答する。結成当初から変わらぬユニフォームであったため、メンバー全員が驚いた。


「リーダー流石にまずいんじゃ!?」

「いや……ただの伝統だったから別に」

「こんなの無茶苦茶ッス……!」


「落ち着くんだガネット。気持ちはわかるが君まで短絡的な行動をーー」


「滅茶苦茶カッケーッス!」

「えっ」


諭すように説得しようとしたパルだが、ガネットは目を羨望の眼差しでイヤドを見つめる。


「誰にも媚びず、無茶を押し通す実力……んでクソ美人! 完全に惚れたッス!!」

「あっそう……なら別にいいんだ」


「フッ、まぁアタシの魅力に魅入られるのも無理ないわ。特別に許したあげる」

「あ、その子はガチレズだから気をつけーー」


「イヤド様! なんなりとご命令を!」

「良い心がけね、手となり足となりなさい」

「ハハァ!」


慕ってくるガネットに、イヤドは機嫌を良くする。煽り耐性が低い分、賛辞はとても効きやすい性格であった。


「……さて、肝心の勇者サフィア捕縛ですが、対応策があります。カンダル王国に取られてしまいましたが、『時』の力を封じる奇妙な宝石があり、奪い返せればアドバンテージになるかと」


「何それ、そんな便利な物があるの?」

「えぇ、ただし能力自体は周囲の者の長所を封じるもの……我々だと魔法が使えなくなってしまいますが」


「はぁ!? 前言撤回! つっかえないじゃない! だったらそんな物使わずとも攻略できるわ!」

「……算段があると?」


「勿論よ! 横槍が入らなければね。つまり! アンタ達はサフィアの味方を食い止めること。特にシフっていうガキんちょは厄介だわ。すばしっこくて魔法が当たりやしないもの」


「た、確かにあの子も化け物したッス……」

「知ってるなら話が早いわ。倒せとは言わない、時間を稼いでくれたらそれでいい」


「ふむ……宝石を奪い返すにしろ、勇者サフィアと対峙する可能性は高い。ならば、貴女に任せた方が賢明か」


「その通りよ。ところで、アンタはサフィアを捕縛と言ったわね? 何に利用するの?」

「……『時』の力を思うままに操れる、と言ったら?」


「……益々面白いじゃない……!」

「しかし、捕らえられなければ夢の話。まだ不確定な要素も大きいので、期待はほどほどに」


「ふーん……ま、とっ捕まえてから詳しく聞かせて頂戴。そろそろ騒ぎを嗅ぎつけてサフィア達が来てもおかしくないわ。ここで出方を窺うわよ」

「了解した、ご協力感謝する」


 こうして、イヤドは“白バラ“を“黒バラ“に無理矢理改名し、加わった。互いに信用せずとも、世界征服と『時』の力の独占による、利害の一致。後に、世界を危機に陥れる発端へと語り継がれることへなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ