盗賊少年の口調
歩いていると、王宮へと着く。後は大臣のマサイという人を捕まえれば、解決だ。ただ、僕が生きていることは、一部の人だけしか知らないので、こっそりと侵入する。
「確か、大臣の部屋はこっちで……」
「シフ君、お城の構造知ってるの?」
「ちょっと前に王様と会って、少し案内してもらったんだ」
そう、まだ勇者が変態を隠してた時、王宮の案内を含め、色々教えてくれた。もし変態じゃあなかったら、共に魔王に挑み、勇者が魔王を倒したという嘘は、本当になってただろうに。
「じゃあお父さん知ってるんだ! それなら王宮に仕えてくれれば、いつでも遊べるよ! 」
「いやそれはちょっと無理そうですね……」
王様にまた仕えるとなったら、わんさか仕事を回され、むしろお城にはほぼ居れない。
そして大臣への部屋へと向かっていると、アメトさんの気配があり、首謀者を伝えるために近づく。アメトさんも気づいたようで、天井から降りてこっち寄ってきた。
「えー、シフ君、ルビ姫様。何故ここにいるんですか?」
「宿に大砲撃ってきて、他の宿泊客が危ないから、避難してきたの!」
「そういうわけで、もうとっと首謀者を捕まえた方がいいと思ったんです。襲った人から口を割らせたら、マサイっていう大臣がそうでした」
「そうでしたか……それにご存知だったのですね」
「あれ、アメトさんも知ってたんですか?」
「えぇ、特定はしたんですけど、大臣という重役でもあるので、簡単に手出しできないのです。何の証拠もなしに捕まえようとしたら、私の首が飛びます」
「捕まえた輩の証言をもとにすればいいんじゃないですか?」
「それだと弱いです。陰謀だー、と言われてしらを切り、逃れられることもできます。
それに、口封じのためにさっさと処刑して身の潔白を証明されるかもしれません。もうちょっと確固たる証拠が欲しいところなんですよ」
「それじゃあ、証拠を盗んでくればいいんですね?」
「あ! 盗賊の出番!」
「……結局、姫様の護衛と首謀者の判明を1人でやってしまうんですね。まぁ、私の仕事は減るので大歓迎ですが」
「安全のためですから。それじゃあちょっと行ってきますので、アメトさんはルビ姫様をお願いします」
ルビ姫様を降ろして、一旦2人から離れ、大臣の部屋へと侵入する。
「姫様、シフ君とは楽しかったですか?」
「うん! スリリングでエキサイティングだったよ!」
「ふふ、それならよかったです」
「それに甘党で、歳相応の本読んでた!」
「それは可愛い」
「証拠持ってきました」
「「早っ!?」」
「証拠隠滅を徹底していましたが、今日の暗殺経過報告書みたいのが1通だけありました。それに大臣の印鑑押しといたので」
アメトさんに、持ってきた証拠の紙を渡す。
しかし、机の裏にあるとは、またベタな隠し場所だった。
「それって捏造じゃ……」
「紙自体は本物ですし、それで揺すればボロが出ると思いますよ。後は証言と合わせて」
「なるほど……ありがとうございます。夜までには必ず捕まえますので」
そしてアメトさんはその紙を握りしめ、去っていった。
「さて、それじゃあ僕とルビ姫様は、宿に帰りますか」
「うん! ありがとシフ君!……それとお願いが1つあるんだけど」
「な、なんですか?」
ここにきてのお願いが、何なのか全く読めない。街を見回りたいとか? でも、こういうお願いは聞く度に、要求がどんどんエスカレートしていく。前の仲間がそうだった。
1度でも許してしまえば、前の要求程度なら叶うと思われ、苦労が絶えなくなる。かといって王国の姫君の願いを断るわけには……
「シフ君のそのかしこまった口調じゃなくて、気軽に話してほしい。歳も近そうだし、なんだか歯痒いよ」
「いえ、ですがルビ姫様……」
「姫様もなしっ! 私さ、友達に憧れてたんだ。その、ずっと1人だったから……私もシフって呼ぶし!」
「そうでしたか……でも、この口調は年上の人ばかりと接してきたので、癖みたいなもので……」
タメ口なんて、勇者の仲間に加わった時以来だ。あの時は無知で、年上な人への話し方なんて知らず、勇者に教わって直したんだっけ。それに年上で王国の姫君とあれば、気軽にタメ口は抵抗がある。
「お願いシフ……」
まさかのお願いだったけど……断らないわけいかない。それにやっとまともな友達ができる。
「善処しま……するよ、ルビ」