盗賊少年と終戦
「ゲホッ……途中からクソ強くなったな……何をしたんだ?」
地に伏すオニスは、息も絶え絶えながら話しかけてくる。あれだけやられて、命どころか意識があるのは、呆れるほどの生命力だ。
「自分でもよくはわからないですが……生きるために死ぬ気で闘おうとして……」
なんだか矛盾している気がするが、こう説明するしかない。
「つまり、気合いか……負けるとは、な」
「……2対1でこの辛勝なんです。実質は貴方の勝ちですよ」
「ハハッ……次はぜってぇ勝つ……!」
「もう勘弁……それ以上喋ると、いくら貴方でも死にますよ」
「へっ……」
そのまま気を失った。風前の灯火だが、この人が死ぬイメージがつかない。一応止血だけして、とりあえずこのまま引きずって帰るとしよう。
「っと、その前に……」
上空へ信号弾を放つ。オニスへ勝利した狼煙だ。他の戦況も気にはなるが、上手いことやってるだろう。バンさんの元へと向かう。
「バンさん! 大丈夫ですか!」
「……ぬぅ、飛んでたか……奴は?」
「コレです」
掴んでたオニスの足を見せる。どうやら平気そうだ。
「ほ〜、やりおるわい……割と元気そうだけど、ひょっとして儂いらんかったんじゃ?」
「いえいえ、体力を削って囮になって技まで借りパクして、やっと勝てたんですから」
「ワッハッハッハ! なら結構結構っ! しかし、また勇者以外に負けるとはなぁ……元魔王も名乗りとうないな……」
「安心してください、実力以外の人間性とか倫理ならウチのパーティーはボロ負けですよ」
「それ魔王的にどうなん?? 人類大丈夫?」
危機は去った。他愛のない会話をしながら、この場所を去る。何も不安なく話せるのが、久々に心地いいと感じた。
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手綱をされたイントゥリーグ王は、アメトと共にカンダル王の元へと連れて来られていた。
「どうもイントゥリーグ王よ。こっから逆転の策はあるかね?」
「いえ……兵士達はおろか、オニスですら打ち負かすとは……完敗です。この首好きにしてくだされ」
イントゥリーグ王は顔に冷や汗をかきながら、ひざまずく。散々カンダル王女のルビを狙い、オニスを裏切りさせ、戦争ともなった。死を恐れど、覚悟はできていたのだ。
「ハァ〜前も言ったけどさぁ、処刑する気ないよ? 血生臭いのヤダし。何でそこまで目の敵にしてたかは知りたいけど」
「あ、あれ? なんかキャラが違っ……まぁ理由はよく言えば野心、悪く言うなら嫉妬ですよ。偉業ある国を、屈服させたかった……ただそれだけのこと」
「じゃあ別にいいや。だけど、めいいっぱい使っていくから、覚悟しておいてちょ」
「……お優しいというより、甘いですね。それでいて、したたか……勇者様が肩入れするのも納得ですな」
「甘いとはまだわかりませんよ」
会話に割って入っていくのはルビ。物怖じせす、イントゥリーグ王に近づいていく。
「おやこれは、カンダル王女……貴女に関係が……? プロポーズがまさか受理されたとか?」
「ち、違います! 王族育成強化の件です! 率先して参加してもらいますよ! ビシバシッ鍛えていただきますから!」
「フッ……なんと太々しい、見違えましたな」
「修行の成果です」
ルビはにっこりと笑って、イントゥリーグ王に握手を求める。余裕すら垣間見えるその動作に、イントゥリーグ王は敬意を持って応じた。
「そんじゃ今日はもうお開きにしよか、早く宴したいし。有益なことあればどんどんつまみ食いしてくから、またね」
「んなっテキトーな……」
「お送りします、イントゥリーグ王」
カンダル王はそそくさと帰路の準備に取り掛かり、側にいたアメトが馬車へと案内をする。
「……敵わんな、王としても人としても」
「そうでしょう、これに懲りたらせっせと働いて、我が国に貢献してください」
「何で君そんな馴れ馴れしいの?」




