隠密部隊長の王手と盗賊少年の危機
"白バラ"の捕縛と逃走、死霊マスターの再起不能。これらの報告を受け、イントゥリーグ王は焦りを隠せなかった。
「なんてことだ……犯罪集団はともかく、あの死霊マスターさえ敗れるとは……しかも、オニスは2人がかりでやられてる……まずい、奴が負けたらもう後が……いや、まだ魔獣使いがいる! こちらも守りに専念して、魔獣を主軸に攻め入れば……」
項垂れるイントゥリーグ王に、1人の女性兵士が駆けつけ、片膝を付く。
「ご報告を、魔獣使いが魔獣共々腹を下し、動けそうにありません」
「戦争だってのに、病欠とは何をしとるんだ!! 至急治療させろ!」
「国王……もう降参なされてはどうですか?」
「一端の兵ごときが、私に進言など……待て貴様、見ない顔だな……何者だ」
「おや、流石に側近兵の顔ぐらいは見分けできますか。隠密部隊の長……と言えばわかりますか?」
「……なるほど、隠密部隊長アメトか。ここまで容易く侵入できたのも頷ける。よくもまぁ、散々嫌がらせをしてきたものだ」
「それはこちらも、先に色々と痛い目見ましたからね」
「フン、まぁよい……王手というわけか」
「えぇ、ご理解早く助かります。既に包囲していますので」
「ふむ、ならば……酒でも飲むか」
「はて……? 降伏せずに酔って現実逃避ですか」
「私が降伏したところで、あの戦闘狂は止まらん。何より負けず嫌いだ。奴に委ねるしかあるまい。元同僚ならわかっていよう」
「……痛いところをついてきますね。クソでも王族なだけはあって賢明です」
「クソ言うな」
「ではオニスが敗北するまでここでお待ちください」
「……奴の強さを知ったうえで断言するとは。余程あの盗賊を信用しとるか……それともその化け物達に介入している猛者に、余程自信があるのか」
「えぇ、私も助っ人の詳細は知りませんが……オニスとまともに闘えているので大丈夫でしょう。それに盗賊……あの子こそが勝利の鍵です」
「ほう……1度会ったが、そこまでの素質は感じられなかったがな」
「それは見る目がない鼻垂れカスですね。あの子は理不尽に対して、火事場の馬鹿力が超絶発揮されるので」
「誰が鼻垂れカスだ」
(後はもう頼みましたよ、シフ君……!)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
オニスとの闘いは泥沼と化していた。一撃を与えれば、一撃を喰らう。それでも徐々に追い詰めることができていた。
「ゼェゼェ……まだ倒れんとは、人間にしては強靭よ……」
「泣き言は後です。この調子でいきますよ!」
バンさんは疲れからか、大剣を地に突き刺し、もたれかかっている。魔王を退いての久々の死闘だ、無理もない。だが、彼がいなければここまで戦い抜くのは不可能だった。
この場にいる全員が、血と汗と泥にまみれている。中でもオニスが1番の手負いのはず、なのに1番元気そうに笑っている。
「フーッ、ずっとこうしていたいなぁ、オイ」
「血みどろなのに、何エモく言ってるんですか」
「……まぁ気持ちはわからんでもないが」
「ちょっとバンさん!? 毒されてますよ!」
「いやなに、こうも全力で闘え続けると気持ちが良いもんさ」
「わかってるな、魔王のおっさん! 定期的にやろうぜ!」
「それはちょっと」
「全く……でも僕は、平和に暮らしたいですよ」
「ハァ〜、相変わらずだなオメェは……じゃ、続きといくか」
会話は終わり、また殺伐とした空気になる。
「『十字閃』!」
「シャッラァ!」
バンさんが放った十字の斬撃を、オニスは一振りで強引に破壊する。その隙に『雷歩』で裏をとり、バンさんと挟むように攻め入ろうとする。
「『円波』」
察知したオニスは、一回転しながら斧を振り回すと、輪状に衝撃波が広がっていく。
バンさんと自分は寸前でしゃがみ、なんとか回避する。そして、この体勢だからこそ発揮できる技がある。
手刀ではなく、呪いの短剣を握りしめ、立ち上がりざまに最速の突きを繰り出す。
『噴槍』
ブシュ! と音を立てながらオニスの右肩をえぐる。急所は外したものの、オニスはあえて避けなかったのだ。何故なら、タックルしてバンさんに掴みかかり、
「フンッ!!」
「うおっ!?」
一本背負いして、こちらに投げてきたのだ。
「くうっ!?」
投げられたバンさんをキャッチするも、勢いを殺しきれず、そのまま後ろへ転んでしまった。
「ってて、すまんなシフ……」
「僕は大じょ……やばっ」
返事とともにオニスを視認したが、もう既に遅いと気づいた。斧を両手で高々と挙げ、上半身を限界まで捻っている。街を半壊させた、災害級の一振りが来る……!
言わずともバンさんは直感したのだろう。同じく技を繰り出そうとしていた。逃げるのも阻止するのも不可能。ならば少しでも対抗するしかない……!
『大地烈斬』
『風薙車』
「『災撃』」




