女勇者と白バラの決着
“白バラ“の男が出現させた黒い弩は、呪いの武器。狙い定めたものに当たるまでは追尾する。デメリットととしては、放った本人でさえキャンセルはできない。
斬り払った矢は、真っ二つになろうとも地に落ちるとなく、曲がりながらもサフィアに飛んでくる。致し方なく、サフィアは2人から距離を取った。
(何故だ!? 『時』の力が通用しないのではない! 使用できない……だと!?)
呪いの弩で放った矢を止める術はいくつかある。物理的で力づく止めたり、矢を完全に破壊するなど。無論、『時』の力でも容易に可能である。使うことさえできれば。
「本当に封じられるとはな……後輩! 援護するから存分に暴れろ!」
「ラジャーッス!」
"白バラ"の女は呪いの棍を取り出す。シフによって分断されたため、三節棍使用となっていた。
(あれがシフの言っていた、衝撃を倍加させる棍……男の持つ弩の方は初見だが、これも呪いの武器で間違いない。加えて、さっきの怪しげな宝石が『時』の力を封じたのか……?)
迫り来る呪いの三節棍と、追尾してくる矢が増え、サフィアは大きく後退せざるを得なかった。
「いいんですか〜? 大事な大事な王女様から離れちゃって!」
女はニヤニヤしながら言うと、やぐらの柱を壊す。支えきれずにやぐらは傾き、倒れそうになる。
「しまっ、貴様っ!!」
(まずい、やぐらに施したのも解除されてるか……!)
「姫ー!! 魔法で身を守るんだー!!」
急いでやぐらへと駆けつくが、すかさず女が邪魔をする。
「させないッスよ! 『ランブル・カーニバル』!!」
女は三節棍も自身も回しながら突撃し始める。男の方は次弾を装填し、第3の矢を撃とうしていた。
呪いの武器を最大限に活用し、遠近両方からの攻め。苦戦を強いられているも、サフィアは1つの疑念を感じていた。
「『風身一体』」
衝撃を倍加させる三節棍へ安易に受けないよう、紙一重で躱すサフィア。風の流れを読み取り、回避に専念する妙技である。
「うっそ!? なんで当たらないの!?」
「いかん! 離れろ後輩!!」
サフィアは女の目の前まで近づき、そのまま肩を抑える。男は慌てて近寄ろうとし、ルビのいるやぐらは音沙汰がない。この光景を見て、サフィアの疑念は確信へと変わる。
「あの宝石で、貴様らは魔法が使えんのだな?」
「……へへ、だったらなんッスーー」
「『天地足頭』」
「ごふっ!?」
女は虚勢を張るも、身体が180度回転し、頭から地面に落ちて倒れる。そして続々と迫ってくる矢をキャッチしていく。
「おおかた、あの宝石は互いの長所や能力を封じるものだろう? 私の力は、魔法とは次元が違うんでな。一体どこでそんな物を……?」
最初のように魔法を一切使わない立ち回り。加えて、ルビが気を失っている可能性もあるものの、忠告したのにもかかわらず魔法を使う気配がないこと。この2点から、サフィアは躊躇わず接近戦を試みた。
「ハァクソッ、こうなったら王女様を人質にーー」
「せいやぁ!!」
硝子を破る音とともにルビは飛び出し、男にドロップキックを喰らわせる。
「ぐぁ!?」
その後ルビはいち早く男にのしかかり、首に剣を当てる。
「降伏してください!」
「……ハハッ、まいったね、こうもわんぱくな王女様とは……」
男は弩を手放し、両手を上げて降参アピールする。
「油断するな姫、意識があるうちは何をするかわからんからな」
「マウント取られたあげく、勇者様は五体満足。この状況じゃあ俺は何もできないよホントに」
「信じられるとでも?」
「こりゃひどいねぇ……あっそうだ、勇者様の力と他の魔法を封じた、摩訶不思議の宝石が右のポケットに入ってる。良かったら調べてみ? 王女様」
「え、えっと……」
「いや、私が調べる。姫はそのまま」
サフィアが気を取られた隙に、倒れてた女が立ち上がり、すぐさま離れる。
「くっ、落としきれてなかったか!」
「よし、後は任せたぞこうはーー」
「了解ッス! アニキの勇姿は忘れません! お達者で!!」
「は、ちょ、そうじゃなくて助け……ガネットー!!」
男の叫びも虚しく、女は逃走して姿を消す。苦しくも1人逃してしまう結末となったが、サフィアとルビは同情しかできなかった。
「……立てますか?」
「いや、立ち直れねぇ」




