盗賊少年と魔王の実力
「まだ釣れないか……」
片っ端から敵兵士を蹴散らしてきたからか、散開して進軍する様になってきた。このまま裏からも攻められるか、もしくは自陣に攻め行ってるかもしれない。それはもう味方の兵を信じるとしよう。
「まだまだ暴れ足りんか……しかし、件の戦士は本当に来るんだな?」
「間違いないです。僕がいて、同等の者がいるとしたら食いついてきますよ」
「儂らは餌か……」
「ただでさえオニスは、魔王であった貴方と闘えず悔しがっていました。知ったら釘付けですよ」
「そんな需要いらんわ……だがまぁ早く現れてもらんと、大将であるお主の王が心配だ」
「単身突っ込まれたら割と危ないですけど……性格的に、早々と戦を終わらせる人じゃないですから。絶対大丈夫です」
「嫌な信用性だな……なら、呼び込みでもするかな」
そう言ってバンさんは大きく息を吸い込む。
「雑兵どもでは相手にならんっ!! 骨のある者だけ出て来いっ!!」
怒号が鳴り響き、思わず耳を塞いでしまった。バンさんの戦ぶりとこの恫喝を聞いて、自信のない者は来ないだろう。
「身なり同様、馬鹿でかい声だな」
「ケケッ、是非ともその死顔を飾りたいもんだな兄者」
前方から男が2人、佇まいだけでなかなかの強者だ。 暗い目つきに無精髭で、ほとんど同じ顔をしているが、武器は大刀で全く同じ物を携えている。
「顔が一緒っぽいんだが、奴らのどちらかが戦士か?」
「いえ違います。ただ気をつけてください、あの2人は『首狩り兄弟』と言われ、隠密部隊からマークされてた要注意人物です!」
「あぁ資料にあった奴らか。気に入った首を持って帰るとかなんとか……あれまさか気に入られた?」
「今だったら、痛みなく切り離してやるぞ?」
「だったら良いと言わんわ!?」
「ケケッ、兄者の慈悲を無碍にするとは罪深いな、楽には死ねんぞ?」
「ハァ、酔狂な人はオニスだけでお腹いっぱいなのに……ここは各個撃破で」
「いや、儂1人で構わん。久々に本気でやるのだ、入念にウォーミングアップはしとかんとな」
構えようとしたところ、バンさんに手で静止される。そう言うならお任せしよう。
「ケケッ、舐め腐ってるなぁ兄者よ」
「あぁ、こう言う者の首を狩った時ほど乙なものよ」
首狩り兄弟は大刀を抜き、バンさんへ襲いかかる。なかなか厄介なコンビネーションだ、攻撃するタイミングがぴったりで、攻撃箇所はバラバラ。受ける方はやりづらいだろうな……
「オラオラどぅした!?」
「逃げてばっかでちったぁ反撃できねぇのか!」
煽りつつも、首狩り兄弟は攻撃パターンを変えてくる。一呼吸を置いた時間差攻撃で、反撃する機会さえ与えない気だ。
「……こんなもんか」
バンさんはやや呆れた表情で、距離をとり、居合の構えをする。
「「プッハハハハハ!!」」
「そんな重っ苦しい大剣で抜刀術だぁ?」
「ヤケになるには早すぎだぜぇおっさん!」
盛大に笑うも、安易に近寄らない首狩り兄弟。それにしてもあの構えは確か……
「……そんなに自信あんなら、見せてもらうかなっ!」
2人同時に暗器のナイフを投げつけ、そのまま駆けつける。意外にもクレバーな戦法だった。だが、相手が悪すぎる。
「『八つ裂きの一振り』」
暗器のナイフはおろか、大刀すら壊されて地に伏せる首狩り兄弟。何が起こったかさえわからないだろう。
読んで字の如く、一振りにて八つの斬撃を放つ、技の極地。自分でさえ、目で追うのがやっとだ。バンさんと戦ったとき、4つほど斬撃を喰らってしまい、危うく意識を持ってかれそうになったな……
「ふむ、鈍っとはらんようだ」
「お疲れさまです。でもおかげで、大本命が来てくれましたよ」
手を出す気はなかったようだが、溢れんばかりの邪気を出しながら、悠々と歩いてくるオニス。
「いよいよおでましか……一瞬同族かと思ったぞ」
「そうでしょうね……人外と思って挑んだほうがいい」
オニスは一定の間隔で止まり、拍手しながら語りかける。
「ブラボー♪ 満点合格だ。で、アンタはどこの誰なんだ? そんな実力があって、俺が知らないとはな」
「あの魔王レイキングスですよ」
「あ、ちょっ、勝手に名乗らないで!?」
「……マジか……オイ、オイオイオイッ!! とんだサプライズプレゼントだぜ! どうやって……いややっぱ言わなくていい。正真正銘魔王っていうことはわかったからな。裏切った甲斐があるってもんだ!」
「あ〜あ……」
「遅かれ早かれ気付かれますって。どのみち……ぶっ倒すことに変わりはない」
「最高だ……絶好のシチュエーションに、極上の獲物が2匹も……楽しくいこう」
オニスが斧を引き出すと同時にこちらも臨戦体勢をとる。万事は尽くしてきた。後は全力で闘うだけだ。




