盗賊少年と魔王参戦
元魔王レイキングスこと、バンさんを連れてカンダル王国へと帰還する。迎え入れるは王様とルビ、マリア女王にリック相談役と重役揃い……それだけ一大事ではある。
「リック相談役、転移魔法ありがとございます」
「いいってことよ! しっかし、こいつはまたドえらい者を呼んだもんだ……」
冷や汗をかき、驚きを隠せないリック相談役。この場にいる全員が似たような反応だ。何故なら魔王討伐を指揮した国と、魔王の対面なのだから。
「よく来ていただいた、感謝を申し上げます。魔王レイキングス」
「あ、王様、今は名前変わってバンさんです」
「そうか、バン殿か」
萎縮しないにしても、王様はいつものおチャラけた話し方はなしに、バンさんへ話しかけていく。
「どうも……」
「それで……いくら出せばいいでしょう?」
「ちょ、王様!? バンさんはそんながめつくないですよ!」
「ま、まぁ少し貰えるなら……」
「いくら出せるんですか王様!」
「うーん、前金は限られますが、勝てば踏んだくれるので、ご期待通りには」
「いやぁ、そこまでは別に……」
「我が国は今危機に瀕してます。どこの誰であろうと手を貸していただけるのなら、報酬は惜しまみません。バン殿に遺恨がなければ、友好を築きたい所存です」
「……それなら構わない。理由は単純、この少年シフに敗北し、あまつさえ生を授かっている。敗者が勝者に付き従うのは当然の理だ。過去など一切関係ない、貴国のために刃を振るうと誓う」
気まずい空気に腰を引いていたバンさんだが、先程とは違って、魔王たる風格を漂わせ、皆の疑問と不安を打ち払う回答をしてくれた。
やっぱこの人良い人……!
「ありがたきお言葉……そこでご相談であるのだが、元魔王が来たとなると大変混乱するので隠し通したいのだが……」
「是非そうしていただきたい! 戦が終わっても、狙われるのは御免被るし……」
「承知いたした、トップシークレットといたしましょう……じゃあ早速作戦会議にしちゃおっかな! 茶菓子持ってくるわ!」
「じゃあ私はお茶を用意しますね」
厳粛な空気から一転、いつもの緩々なモードへと切り替わる。過去に敵対してたからといって、所詮は粗末な問題。しっかりた人間性がある王様と元魔王なら、わかり合えると思っていた。
「なんか急に軽くなったね……」
「本来はずっとこんな感じです」
「ほ〜ん、人間も結構適当なのだな……やりやすいからいいけど」
「バン様、そのお肌がどうしても異なってしまうため、人間用にメイクを施したほうが良いかと……」
ルビが恐る恐る話しかける。確かに人と違う薄紫の肌は目立つ。誰かに見られればあらぬ噂をたてられるかもしれない。
「あぁ、じゃあよろしく頼むよ」
「……かしこまりました、お待ちください!」
元気よく返事をし、ルビは道具を取りに行く。
「人間の子供にしては純粋だな」
「誰と比較してるんですかねぇ?」
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いよいよ戦争当日の朝を迎える。国境の決戦地で見晴らしのいい野原に陣取る。遠巻きにはワラワラと湧いて出てくるイントゥリーグ国の兵士達。開戦になるのももう間もなくだろう。
「にしても大胆奇抜な発想だな。最前線に儂ら2人しか配置せんとは……」
バンさんの言う通り、我が軍はギリギリまで後退させている。狙いは2つある。1つは数で劣るため、待ち伏せして守りを固めている。攻撃3倍の法則と言って、攻める側は守る側の3倍の兵力が必要とされるからだ。
2つめはごく単純に、僕達の闘いに巻き込まれないため。
「人間は頭を使う個体が多いものだ。儂ら魔族では珍しい部類なのだが」
「そうなんですか? だってバンさんはまともなのに?」
「フッ、だから儂は統括するために魔王へなったんだ。と言っても、言うこと聞かない連中ばかりで、苦労は絶えんかったがな」
「それはそれは……誰かさんと一緒ですね。お、来たか」
迫り来る敵兵士達から、続々と放たれてくる火の玉。上空から放物線を描いてこちらに向かってくる。遠距離での攻撃に乏しい自分にとっては、こういう時は羨ましい。
「僕が払いますよ」
「ふむ、では儂がやり返すとしよう」
『風薙車』
ギリギリまで引きつけた火の玉を、回し蹴りで消しとばす。風圧によって、後続のも寄せ付けない。
「『大地裂斬』」
バンさんは目もくれず、大剣を上段に構え、勢いよく振り下ろす。斬撃が地を走り、遠くの兵士達へと突っ込んでいく。幾人に当たろうが衰えることなく、どこまでと突き進む。
「よっこいせ、後2、3発はぶち込んでおくか」
地面にめり込んだ大剣を引き上げ、再び構えるバンさん。本人は前より弱くなったと謙遜していたが、疑う余地はない。魔王としての実力は健在だ……




