盗賊少年と魔王の再会
荒れ狂う暗雲にそびえ立つ魔王城……から遥遠くに離れた緑豊かな山に、いくつもの耕された畑と小屋が1つある。そこにお邪魔していた。
お茶の間に佇むのは、黒髪に薄紫色の肌、猛者の顔立ち。黒くて禍々しい大剣と鎧が戸棚に飾られている。
「いやー、お久しぶりです魔王レイキングスさん! これ、カンダル王国名店『甘極』のスイーツ詰め合わせです、よかったらどうぞ!」
「あ、あぁ、どうもね……」
「いやーしかし! 承諾してくれて助かりましたよ! 魔王レイキングスさんが来てくれたら、もう百人力! この戦、勝ったも同然ですよ!」
「あぁ、そう……でも君、儂に勝ったじゃん……」
「あっ! ご挨拶が遅れましたね! コレが会いたがってた勇者ですよ!」
「ど、どーも、勇者サフィアです……」
「いや今来ても意味ないから!?」
「何を言ってるのですか、魔王に会いに来たというのに勇者がいないという愚行、2度も犯せるわけないじゃないですか! ほらサフィア、頭をついて謝ってください」
「あ、あぁ……前回はいたいけなこの少年に手を出して捕まってしまい、最終決戦を果たせず申し訳ありませんでした……」
「あ、それ本当だったんだ……」
「サフィア、誠意が足りないんじゃないですか? 魔王レイキングスさんから、許しをもらえてないですよ」
「いーよ許すって! それにもう魔王じゃないし、今は名を変えて『バン』と……ほら、レイキングスだと魔王として知られてるし……」
「それは失礼しましたバンさん!」
「あの……ずっと聴きたかったのだが、2人はその、最終決戦後はどんなふうに……どうしてここまで友好的なのだ?」
「あーはいはい、それはーー」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
死闘を終え、横たわる魔王レイキングス。立ち上がることはなく、そのまま口を開く。
「強いなお主……負けを認めよう」
「ハァ、ハァ、勝て……たのか……?」
魔王の言葉が半信半疑に聞こえる。嘘を言っているというわけじゃない、苦悩苦難を乗り越え、最終目的である魔王倒せたという事実が、まだ受け入れられなかった。
「あぁ、お主の勝ちだ……鬼気迫る闘志、卓越した技、幼きながら天晴れだ。敗れてなお、魔王
最後の戦いとして誉れに思う」
勝利と魔王の言葉に、瞳から熱い涙が溢れる。
そうか、そうだった……認められたんだ、あの強敵である魔王に……やっと、やっと報われたんだ……
「……哀愁が凄いな。しかし、とどめを刺さないとは、甘いな」
「できるわけないじゃないですかっ……貴方みたいな聖人……!」
「あぁ、ありがと……まず人ですらないんだけど……まぁこれで、儂はもう魔王ではない。土いじりでもするとしよう。さぁ行け、お主にも待つべき人がいるだろう?」
「いや、そこまでの人はいません」
「……ごめん」
「さ、最後に1つだけ……聞いていいですか……?」
「いいだろう……褒美と言ったらなんだが、儂に答えられるものなら何でも答えよう。この世界の理か? それとも異世界についてか?」
「連絡先教えてもらっていいですか?」
「えっ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「というわけで、今に至ります」
「よく連絡先聞いたなぁ……」
「でもおかげで、希望の光が見えてきたじゃないですか! オニス相手に僕とバンさんの2人でかかれば、勝てる見込みしかない!」
「あの〜、でも儂って前ほど強くないよ? 魔王という特典で、人類が少なくなればなるほど強くなる、っていう要素があるんだけど、魔王じゃなくっなったし」
「大丈夫ですよ、バンさんの鬼気迫る闘志と卓越した技があれば問題なし!」
「それ丸々儂がかけたセリフじゃん!?」
「だが確かに、味方で来てくれたら非常に心強いのだが……い、色々とよろしいのですか? 魔お……バンさんを討とうとした国で、魔族にとっては宿敵だったのでは……」
「まぁ、儂の部下が躍起になって人類潰そうとしたから、そこはお互い様であろう。本来なら人類同士のいざこざに、首を突っ込む気なかったのだが……儂自身情けで生かしてもらった命だ。協力しよう」
「これぞ魔王だった者の品格……寛大な御心に感服します」
「あー、すまんがシフよ、ここを出る前に、全部の作物に水を与えてなくてはな。家の裏に井戸があるから、手伝ってくれんか?」
「お安い御用です!」
せっかくこの戦に参戦してくれるんだ、バンさんの手を煩わせてはいけない。自分1人で終わらせよう。2人を置いて、井戸へと直行する。
「……して、勇者よ」
「あ、はい!」
「あの子大丈夫??」
「それが私も困惑していて……」
「いやほらね、実を言うと手紙では1度誘いを断ったけどさぁ……」
「えぇ、初耳……」
「追い手紙が来ちゃってさぁ……」
「な、何っ……」
「中身見てみ」
拝見 魔王レイキングス殿へ
前回、戦のお誘いですが、なんとか考え直してくれませんか。ピンチなんです、やっと大切な人達ができたのに、負けたら殺されてしまうんです。
勇者は中立で加勢が難しく、僕が倒れたら他に強い味方がいなくて。そう思うと重圧で、いっそのこと楽になりたいです。
お願いします、助けてください、助けてください、助けてください、助けてください
シフより
「これ見たら、断られなくてね……」
「ここまで追い詰められてるなんて……ハッ! そういえば、組み手でも焦燥感に駆られていて……!」
「敵だった儂が言うのもなんだけど、仲間で頼れる人いないの……? セクハラしたとはいえ、ここまで一緒に来れた仲なら、もう少し踏み入ってみないと……」
「返す言葉もありません……つい最近もしてしまって……」
「生粋の異常者なのね……しかも、今度の敵って仲間だったんだって? まともなメンタルなら崩壊してると思うんだけど……ちょっとしかかってそう」
「本当に返す言葉がっ……」
「……今回ばかりは協力するよ? 妙に慕われちゃったし……しかし、いずれは頼りになる仲間がいなければダメじゃない?」
「以後、気をつけます……」
作物に水をやりつつ、聞き耳を立ていた。事実であるが、やや大袈裟に書いた追い手紙で、バンさんは同情して了承してくれた挙句、勇者に説教とは……口角が上がるのを止められなかった。
「計画通り」




