盗賊少年の実力
その後、ルビ姫様はどれも昔に読んだ本ばかりだったので、結局しりとりで遊ぶことになった。
「では僕から、しりとりの『り』からで……リンゴ」
「ゴキブリ!」
ゴキ……お姫様がなんてこと言ってるんだ。
「り、リスク」
「薬!」
「えーと、また『り』か……リサイクル」
「瑠璃!」
ま、まさか……
「り……リストラ」
「ラリー!」
こ、これは、的確な『り』攻め……! 本気で勝ちにきてる……!
「……リミット」
「鳥!」
「利益」
「霧!」
「……リアリティ」
「碇!」
くっ、全部即答で返される。なら……!
「りょ、料理!」
「倫理!」
「り、リハビリ」
「リカバリー!」
「……もう参りました」
ダメだ強い、覆らせる気がしない……というか子供がやるしりとりですかこれ……?
「ふふっ、ごめんね。ちょっと本気でやっちゃった!」
「えぇ、それだけはよくわかりました」
そんなこんなやってると、廊下の階段から誰か昇る足音が聞こえてくる。この時間だと、いつも従業員がデザート持ってきてくれる。
ただ、足音が今まで聞いたことのないリズムと大きさだ。ここの従業員ではない……?
ルビ姫様には不安にさせないよう、密かに警戒する。段々と足音が近づいてきて、部屋の前で止まる。
「失礼します。午後のデザートをお持ちしました」
ノックと共に声が聞こえる。やはり聞いたことのない声だ。それに……
「デザートだって! 楽しみだね!」
「そうですね……どうぞー!」
部屋に従業員の格好をした男が入る。手にはいつものように、お盆の上に何かデザートが乗っている。
「お待たせしました、シナモンロールでございます」
「わぁ〜! いい匂い!」
「シナモンと蜂蜜ミルクをかけた、特製のものです。お熱いうちに、お召し上がりくださいませ」
把握している従業員じゃないが、振る舞いとしては、今まで見てきた人達と変わりない。ただ、歩き方や身のこなしが一般人と比べて、微かに違和感がある。
「美味しそう!」
「えぇ、本当に美味しそうではありますね……で、何が入ってるんですか?」
机に置いといた本を、手に取っておく。
「シフ……君?」
ルビ姫様はキョトンとした顔でこっちを見る。けど、説明してる暇はない。これは罠だ。
「え……? 先程申しました通り、シナモンと蜂蜜ミルクを」
「いえ、聞いているのは、それ以外の何を入れたかですよ」
シナモンの香りで誤魔化すよう、何か特有の匂いが僅かに感じる。
「お、おっしゃる意味が……」
うろたえる男だが、袖から刃物を出す。その瞬間、手に持っていた本を、男の顔めがけて投げる。
避けられるが、避けた先で顎に掌底を入れてダウンさせる。
「ええ!?」
「ルビ姫様、この男は従業員ではなく、暗殺者です。驚かしてすいません」
落ちたシナモンロールを拾って、男の口に入れようとさせる。
「んん!?」
男は意識が虚ろながらも、頑なに口を閉じる。やはり毒が入っていたか。
男を拘束し、完全に気絶させて部屋の隅へと投げる。
「そ、そんな……ここでも……」
青ざめて、ここに来た時と同様に不安な表情になるルビ姫様。今まで襲われていたけど忘れて、せっかく楽しんでくれていた……僕だって。
「ご安心ください、必ずお守りします」
気休めにしかならないが、笑顔で気遣う。だが、ここにルビ姫様が来て数時間経ち、もう場所が割れている。ここからはあまり油断はできない。
「ど、どうしよう……ここにいるのがバレてるから、またどんどん……」
「ええ、でも全部迎え撃ちますので大丈夫です」
「え!? 逃げないの!?」
「ここは宿屋の最上階で、敵の攻撃手段も限られます。外に逃げて、どこに敵がいるかわからないよりも、ここで待ち伏せたほうが得策ですので」
「シフ君て、やっぱりすごいんだね……」
「やっぱりにちょっと引っかかりますが……ありがとうございます」
ドォォォン!!
話していると、外から爆音が聞こえ、急いで窓から確認する。こちらに砲弾が向かってきていた。
今のは大砲の発射音か。宿に火を放たれるは覚悟していたが、まさか大砲を撃ってくるとは。敵もなり振り構わないようだ。
そう考えながらも短剣を投げ、砲弾に当てて、空中で爆発させる。
「ひっ!?」
「大砲で爆撃してくるようですね……」
「た、大変だよ! 他の宿泊客が……! それにこのままじゃシフ君だって!」
「……絵に書いたような善人も、この世にいるんですね」
驚いた、ちゃんと自分以外のこと思いやる人がここにいる。今まで出会った人の中で、1番の善人だ。
「ふぇ?」
「いえ、僕の心配は無用です。しかし、確かに他の宿泊客にも危険が及びますね。移動しないと言いましたが……」
呪いの効果で戻ってきた短剣をキャッチし、今度は遠くの砲手に向けて投げる。
「……面倒かけてごめんね」
「ルビ姫様は悪くありません。でもちょっと覚悟を決めてもらいます」
「か、覚悟?」
「えぇ、ここから一緒に飛び降ります」