盗賊少年と戦士の再会
「どうした? 久々の再会っていうのに言葉も出ないのか?」
「あ、いや、だって……」
……戦士オニスの言う通りだ、まず何を言っていいかわからないほど、疑問が溢れてくる。
今まで何をしていたのか、何故こんなところにいるのか、どうして今会いに来たのか……?
「あれ……? お父さん直属の戦士隊長だった人じゃ……?」
そうか、ずっと王宮にいたルビなら顔も知っているのか……
「……その人で間違いないよ。彼は戦士隊長で、サフィアや僕と同じで、魔王討伐に行った時の仲間だ」
「こ、この人も……!」
「おほっ、大事そうに抱えてんのがあのおっさんの娘か! 見ないうちに成長したなぁ!」
彼は不自然なほど自然に話しかけてくる。それが返ってとても不気味であった。煙を払ったなら、彼は敵になる……しかし、敵意を感じられない。それが余計に、頭が混乱してくる。
「今の今まで……貴方は何をしてたんですか……? どうして……どうして急にいなくなっちゃたんですか!?」
「おいおいなんだぁ、妬んでんのか?」
「そりゃあもう、たださえ一緒にいたときは迷惑かけられて……肝心なときにいなくなったし! あの後からも散々苦労して……! なんでか今出てくるし!!」
「落ち着けよ」
「な、なんか大丈夫シフ君……?」
「ハァハァ……色々思い出して急に怒りが……ごめん、取り乱した」
「くっはっはっ! 俺に劣らない変な奴しかいねぇからな!」
「笑い事じゃあないですよ! エメルは勝手に実家へ帰るし、イヤドは僕とサフィアを襲ってきたので倒したら、今度はサフィアが僕を襲ってきて……大変だったんですから!」
「なにそれウケる」
「……襲われすぎじゃない?」
……薄々わかっていたことだが、戦士のオニスに愚痴を言ってもこの様だ……まぁでもちょっとはスッキリした。少しは冷静になれたことだし、本題に入るとしよう。
「……それで、なんでこんなところに?」
「この状況で気付かないのか? この国にヘッドハンティングされたんだよ」
「えぇ!?」
「俺が旅の途中で消えたのもそれが理由。魔王と戦れなかったのは、ちと惜しかったけどな」
「な、何故……おかしいですよ……! 代々戦士隊長として仕えてきた家系なのに……そうまでしてイントゥリーグ国に加担する意味は……!?」
「魔王軍壊滅させてめでたしめでたし、じゃあ世の中つまんねぇだろぉ?」
「……は?」
「だからぁ、平和な世の中になっちまうじゃねぇかってこと。魔王軍は好戦的な奴らが殆どで、楽しかったよなぁ……でもよぉ、ほぼ全滅させちったろ? 今後は遊び相手がいなくなっちまう。だから、作ることに決めたんだよ。それにこの国は、いい具合に相手を斡旋してくれるしな。うってつけって訳」
「……えぇ」
く、狂ってる……そんな理由で主君を乗り換えるなんて……元々イカれたヤバイ人だとは思っていたが、常軌を逸してる。
「……そうか、イントゥリーグ王の言ってた引き抜きって、既にやっていたことだったなんて……!」
「ルビ……?」
ルビの顔が苦虫を噛み潰したようになる。イントゥリーグ王といた際に、何か心当たりがあるみたいだ。
「お前が死んだって噂が流れてたが、良かったぜぇ生きてて。楽しみが減っちまう……姫様を盗んだのも、大方王の指示だろ。つい最近までせっせと護衛してたお前が大金目当てに誘拐した、なんてありえねぇしな」
最近までって何故知っ……いやもし、"白バラ"と通じているのなら……まさか狙いは王やルビじゃなく、僕の存在有無だとしたら、あの襲撃で何もしなかったのは説明がつく。
「さて、お喋りはここまで……っと」
「囲め!! 賊を絶対に逃すなっ!!」
周囲に兵士達が取り囲んでくる。すっかり追いつかれていたみたいだ。
「ど、どうしようシフ君……!」
「いや、兵士達は大した問題じゃない。1番なのは……」
最優先に警戒すべきは戦士オニス。イントゥリーグ国に属しているなら、明確な敵だ。はたして、ルビを守りながらここを抜け出せるか……
「あーお前ら、手を出すな。つーか、お前らが束になったところで敵わん。それに鬱陶しい」
「いやしかし……! 此奴は一国の姫を攫った大罪人! 何もせずいるのはーー」
「あ?」
ごく一瞬の殺気に一帯は凍りつく。本人にとってはただ苛ついただけにすぎない。だが、兵士達は命を取られるかと恐れおののいている。
「で、出過ぎた真似を……」
「というわけでシフ、帰っていいぞ」
「……はい?」
「お守りがいるお前と戦ったところで、面白味がねぇんだよ。またな」
「敵ながら、無茶苦茶ですね……」
周囲の兵士達は驚き、物申したいところだが、さっきの殺気で完全に怖気付いている。
逃げたところを狙う罠……には思えない。楽しければ何でもいい主義のオニスだ。こればっかりは嘘はついてない。
「行こう、ルビ」
「え、うん……でも大丈夫なの?」
「戦闘にならないよりは断然いい。迂回して行くよ」
そう言ってルビを担ぎ、引き返すように離れていく。どのみち、素性がバレてしまった以上、任務は失敗だ。それでも、ルビだけでも無事届けねばならない。
「……オニス様、大変差しでがましいご意見になりますが、貴方様の存在がカンダル王国に知られたら、我が国はとんでもない非難を……」
「そしたら戦争じゃん。やったね」
「えぇ……」
「し、しかし、イントゥリーグ王からはカンダル王女の暗殺命令も……」
「ハハ、殺ってみろ。そしたらあいつカンカンに……いや待てよ?」
「ど、どうされました、オニス様……?」
「……姫様死んだら、シフも全力でかかってくるか……!」
「っ!?」
背後からの邪気を感じ、全身から冷や汗が吹き出る。急いで後ろ振り向くと、オニスが斧を振りかぶり、こちらに飛びかかって来ていた。
「なんーー」
問おうにもオニスは止まらない。気づくと同時に回避していた。
振り下ろした斧は空を切る。その影響で建物は半壊し、地をえぐる。
直撃せずとも、その衝撃は凄まじい。たちまちルビを庇い、なんとかその場で踏み止まる。
「ーーもう!! 本当になんなんですかアナタは!?」
「さっきまたなって言ったな。ありゃ嘘だ」
「見ればわかりますよ!?」
「いや〜な、考えが甘かった。お守りが死ねば、お前も全力で戦れるだろ?」
「……イカれてるとは思いましたが、ここまでとは……」
せっかく戦闘せずに済んだと思ったら、気分屋にも程がある……
向けられてるのは敵意じゃなく殺意、それもルビに向けてだ。
本気のオニス相手に、守るべき人がいる。圧倒的不利ではあるが、もうやるしかない。説得するのもどのみち力づくだ。
「うっし! ひっさびさにとことん戦ろうぜ!」
「やれやれ……これは骨が折れそうだ」




