盗賊少年とお姫様
頼まれたのは、まさかの姫様と護衛だ。
「な……お断りです」
「えー、お姫様と1つ屋根の下で過ごす、熱いシチュじゃないですか」
「何がシチュですか!? 僕が散々人間関係で苦しんできたの、知っているでしょう!」
「安心してください、謙虚でいい子です。それに国王の娘なのですよ? 国王はまともに会話できるじゃないですか。遺伝的にセーフですって」
「そうは言っても……頑張って護衛してくださいよ」
「ですが、次々と狙われたため護衛も怪我人ばかりで、いよいよ守る人がいなくて」
「じゃあアメトさんが護衛して、僕が狙う輩を始末しますよ」
「私は隠密部隊です。得意なのは暗殺であって、戦闘や防衛は管轄外です」
「……僕だって盗賊で、戦いは専門外なんですけど」
「魔王を正面から堂々と倒した方が何を言ってるんですか」
うっ、それを言われると反論できない。今まで鍛えてきたのが仇となった。何か他に手は……
「あ! 勇者に守られせればいいじゃないですか! 中身はアレですけど、戦闘力は僕にも引けをとらないですし、一緒に牢屋に入れとけば安心ですよ!」
「お姫様にえげつないことさせますね……それに国王は、勇者と娘を2人きりにさせるのを嫌がってます。あのヤバイ人、可愛いものには目がありませんから。シフ君だって痛い程経験したでしょう」
「うぅ、確かに……」
トラウマが蘇り、身震いする。女性同士でも、あの勇者なら何をするかわからない……
「と、いうわけでよろしくお願いしますね」
「ま、待ってください! するとは一言も……」
「あー、こんなとこに魔王を倒した少年が」
アメトさんは棒読みで、他の人に聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声量で話す。これはもはや、やらなければ公表するという脅しだ。
「……鬼っ」
「可愛い。勇者が執拗に食べようとしたのも、頷けますね」
「ア、アメトさんまで身が凍るようなこと言わないでください……」
「冗談です。それに、姫様の方が歳は上ですが、いいお友達になれるんじゃないですか?」
「そう言われても……」
人と長く関わったことで、苦い思いしかしたことがない。はっきり言って、1人の方が気楽だ。
「それに王族の血筋を持つ人が少ないのは、今後も問題です。ついでに子供作っちゃてください」
「僕がまだ子供ですから!!」
「……そういうの弁えてる時点で、シフ君はもう大人みたいなもんですよ」
「ハァ、わかりました。どうせダメと言っても、ダメなんでしょう……お引き受けします」
「それはよかったです。ちゃんと報酬も渡しますので、期待しててください。では後日、姫様と共に訪問します」
テンションがダダ下がりながらも、唐揚げを平らげ、酒場を後にした。
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宿屋で朝日を浴びながら、読書をして、カフェオレを飲む。あぁ、スラムに居た頃が懐かしい。あの時には余裕や娯楽なんて、微塵もなかった。
こうした幸せなひと時を味わえるのは、今までの人生を犠牲にした甲斐あってのことだろう。今まさに、夢を実現したんだ……
「もしもしシフくーん! 姫様連れてきましたよー」
そしてその夢はノックとかけ声によって、終わりを告げる。
渋々ドアを開ける。そこにアメトさんの袖を掴んだ少女がいる。僕より頭1つ背が高く、きれいな真紅の髪と瞳に、少し目にクマがある。不安そうにしているこの人が、ルビ姫様か。
「どうもルビ姫様。あなたの護衛を務めさせていただく、シフと申します。よろしくお願いいたします」
「えっ……?護衛??」
ルビ姫様は困惑して、さらに表情が曇る。あれ? 聞いてないのかな……
「あ、ごめんなさい。姫様にはお友達の所へ連れて行くとおっしゃっていたので」
「何故後でわかるような嘘を……」
「おや、嘘をついたつもりではありません。護衛のことを言ってなかっただけです」
本当に友達にする気なんですね……
「……立ち話もなんですから、お部屋へどうぞ」
「あ、はいっ!」
姫様はおどおどしながら、部屋へ入っていく。
「それでは姫様、お元気で。シフ君、くれぐれもヤりすぎないように」
「何言ってんですか」
「え!? アメトは来ないの……?」
「仕事がありますゆえ。落ち着いたらお迎えに来ます」
「……うん」
ドアを閉め、2人きりになる。ルビ姫様は部屋を見渡しつつ、モジモジして明らかに緊張している。
まぁ緊張しないわけがない。でもちゃんと打ち解けるよう、対策はしといた。
「ルビ姫様、本はお好きですか?」
「う、うん……お城にいる時は1人でやることなくて、よく本は読んでたから」
「う、羨ましい……」
「え?」
「あ、いえ、何でもございません」
思わず本音が漏れてしまった。でもいいなぁ……理想の過ごし方じゃないか。
「いくつか本を読んでいたので、ルビ姫様もどうですか?」
先程自分が読んでいた机に案内する。一応女の子が読みそうな本も揃えている。
「えっと……『ドラゴンボウズ』に、『苦労人健診』、『マクドの拳』……『ホラ吹き姫』に『ヤンデレラ』……クスッ」
「え!?」
笑われた!? な、なんで……
「シフ君も年相応の男の子なんだね! 立ち振る舞いが私より全然しっかりしてるから、すごいと思ったけど、少し安心した!」
クスクスと笑いながら、喋っている。
そ、そんな……チョイスがそんな子供ぽっかたのか……
「えー、ルビ姫様はどんな本を読んでるのですか……?」
「私は『蜜と唾』とか『人間失態』、『先輩は金である』とかだよ!」
あ、これ知性敵わないやつだ……
「そ、そうでしたか……流石はお姫様、教養に優れているのですね……あ! カフェオレ飲まれます?」
それならカフェイン入った、コーヒー攻撃だ! これなら本のレベルが低くても、優雅な読書タイムと切り替わるはず……
「ありがとう、いただくね……ブフッ! ケホッケホ!」
「だ、大丈夫ですかルビ姫様!? お口に合いませんでしたか!?」
むせるルビ姫様だか、顔はまたしても笑っている。
「う、ううん。とっても甘くてちょっとびっくりしただけ……プフッ、お、美味しいよ。フフ」
ルビ姫様は堪えるように笑っている。ま、また小馬鹿にされるとは……でも緊張は取れたみたいだから結果オーライとしよう……