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盗賊少年と潜入

 まさか思わぬところで出番が回ってきた。久々に本業での仕事になる。王族会議では、友人の危機をただ傍観するだけで何もできず、正直悔しくもあった。それが今、ルビを救えて、あのイントゥリーグ王の鼻を明かすなら願ってもない。


「……これは腕が鳴りますね」

「シフ君が私を……」

「うむ、引き受けてくれて感謝する……と言いたいところだが、やっぱなしにしよ」


「へっ!?」

王様の突然の撤回に驚きを隠せない。せっかく乗り気になっていたのに……


「い、いきなり言ったのに、また急になんで……」

「ノリで言ったから」

「そーなの!? 割と正当性あったのに!?」

「ま、そーなんだけどさぁ……これだいぶシフの負担でかいよ?」


王様が急遽踏み止まったのは、自分に対して引け目を感じいたからか。手間がかかるなんて、正直全然思っていない。討伐や護衛などではなく、やっと自分らしい仕事ができるんだ。寧ろ、引き受ける気は満々である。


「ご安心ください、僕自身は抵抗を感じてませんから」

「いやでも、めちゃベリーハードになるよ? あちらさんに汚名を着せるなら、イントゥリーグ国の首都部に入ってから実行したほうがいい。それだと警備はぱないし、他国の姫君が攫われたとなったら血眼になって捜索される。ただでさえ見知らぬ土地で逃げ果せるのは、素人目でも厳しいとわかるわ」


「望むところじゃあないですか」

「もし仮に捕まれば、極刑は免れん」

「その時は容赦なく見捨てて構いません」

「ダメだシフッ!! そういうことなら私が行かせんぞっ!」


「大丈夫ですよ、そんなヘマしませんから。サフィアはそれとも、僕が失敗すると思っているんですか?」

「うぐっ……べ、別に全然思ってないぞ! ただもし捕まり、私も余罪を作って追いかけるのは周囲に多大な迷惑をかけてしまうと思ってな……」

「うわこれ絶対ミスできない」


「私がルビ姫様の護衛兼世話係として同行しますよ。何かあれば守れるし、一芝居打つのに手を貸せます。王族会議でもメイドやってたんで、そこまで不自然に思われないでしょう」

「ほら、協力者がいるなら一気に難易度は下がりました。これでもまだ王様はーー」


「それでもやっぱりシフ君の重荷が半端ないのは、否めませんねぇ」

「ちょっ、アメトさんまで!? なんでさっきから、言い出しっぺの人達が尻込みしてるんですか!」

「子供に頼る大人としての反省というか、嘆き的な?」

「嘆いてる人なら、そんなフラットに言わない! もう決行しますよ!」


「よし、なら私も応援に行こう!」

「不要です。いやねサフィア、勇者のあなたが王族のプライベートに関わったら、勇者の面目丸潰れですよ。このくだり何回やる気ですか」


「無論、死ぬまで」

「まともな信念を抱いて!! このままじゃキリがないからもう行きますよ!」


「え!? もう行くの!? 私向かうの1週間後だよ!?」

「ひっそりと付いて行くより、イントゥリーグ国に潜伏して地形を把握したほうが圧倒的にいい。道具の準備もあるしね。善は急げ……この場合は完全に悪事だけどね。時間があるからこそ念入りに最善を尽くすよ」

「あ、ありがと……」


「サフィア!」

「ど、どうしたシフ……?」

「留守は頼みましたよ?」

「……あぁ、任せてくれ!」


サフィアとの会話後、皆の元から離れていく。別れを惜しむ必要はない、何の懸念もなく笑い合えるために出向くんだ。少しでも失敗しないよう、先を急ぐとしよう。


 書斎から出て早速街の方へと向かおうするが、ドア越しから皆んなの声が聞こえてくる。歩みは止めなかったが、おのずと耳を傾ける。


「押してダメなら引いてみる、上手くシフ君を焚きつけられましたね」

「あぁ、真面目でいい子だから絶対率先してやってくれると思ったわい。効果覿面やね」

「なんかちょっと可哀想な気が……」

「あぁもう本当、そういうところが好き」


……言いようのない感情が湧き上がってくる。すぐさま足を止め、大きく息を吸って壁越しでも伝わるよう整える。


「そういうのは!! 本人がちゃんといなくなってから!! 言ってください!!」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 月明かりが照らす夜中、木々の間を猛スピードで駆けていく。次第に、枝葉の隙間から巨大な壁が見えてくる。高さは数十mあろうもので、横幅は際限なく続いている。


これがイントゥリーグ国の首都部にある外壁だ。外壁の手前には深い溝があり、上部にはいくつもの砲台が連なっている。争いになった際、容易には攻め込まれない作りだ。魔王打倒ではなく、ひたすら自衛に力を入れていたのだろう。


「これじゃあ好んで喧嘩を売る国もいないだろうな……さて、見張りが少なそうなところは」

 スコープを望き、様子を伺う。アメトさんから事前に仕入れた情報では、東西南北にある門周辺は警備が厳しく、門と門の中間地点は壁の上で適時巡回をしている程度だそうだ。


観察した結果、その情報と遜色はない。広大な分、人員が回らないのだろう。それに、わざわざ高い壁を登って侵入する輩や魔物はいないと思うのが普通だ。だからこそ、そこにつけ込める。


 潜入する場所に目星をつけた後、カンダル王国隠密部隊が着用する黒いマスクをつける。アメトさんと同じものだ。王族会議で少なからず顔は割れているし、"白バラ"にも晒している。接触することはなさそうだが、今後のためにも変装は必須だ。


また、頭には黒いターバンを巻き、目立たないよう少しでも白い髪を隠す。所々髪がはみ出ているが、大方問題ないだろう。


「よし、行くとしますか……!」

準備を整え、助走がてら全速で外壁へと走り出す。溝の前でジャンプし、勢いを殺すように壁の上で転がりながら着地する。


 壁の上から見渡す街の光景は表裏一体だった。壁から離れた中心部になるほど、高い建物が多くなって華やかになっている。しかし、壁付近はぱっと見、店もない。人通りの多い門があるならともかく、栄えなく居住区と化しているのか。それも、しっかりとした建築物は少なく、ボロ屋がほとんどだ。


 この国の事情も気にかかるところだが、本来の目的はルビを盗み出すこと。そのための下準備が最優先だ。空き家があれば寝床として利用しよう。


「にしても、人を盗むのは初めてだ」

ターゲットは人間で、敵は国そのもの。かつてない大役に、プレッシャーよりも挑戦し甲斐が上回り、思わず笑みがこぼれていた。

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