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盗賊少年とダンスパーティ

 王族会議が終わってからは、ダンスパーティの準備に追われていた。ホールの椅子を片付け、長机を並び直し、豪華な食事ができては所定の位置に運んでいく。そうこうしているうちに、すっかり日が暮れて、辺りは暗くなっていた。


 ホール内にはすでに各国の王達が入り乱れ、グラスを片手に談笑しているのがほとんど。先程見張りをしていた二階席では、他国の音楽団が優雅で落ち着いた演奏を奏でている。


 今は給仕としての仕事を兼ねつつ、怪しい者がいないか見回り中だ。今のところ問題はないものの、油断はできない。前回同様に下準備なく、魔法による攻撃を仕掛けられる可能性もある。


せめて挙動やしぐさに少しでも違和感があれば……


そう考えていると、どこかの王子の方が少し戸惑ったように取り巻きと話している。


「不可解だ……」

「どうされたのですか王子!?」

「さっきな、勇者に今度食事でもどうですかと誘ったんだが……」

「こ、断られたのですか?」

「あぁそれも……」


『年下にしか興味ありません』


「とな……」

「な、なんと!? い、 いや、待ってください。王子はさほど勇者様と変わらないはず……」

「勿論、そう伝えたさ。そうしたら……」


『もっとだ』


「と言われて、相手にされなかったんだよ……」

「それは奇怪な……王子よ、きっと疲れていたやもしれません」

「そうか……そうだよな。あの勇者がそんなこと言うわけ……いや、確かにそう言ったと……夢でも見てたのか?」


……お気の毒に。


 ここにまた勇者の被害者、いや正確には手を出されなかったのだから、回避できたと言えるかもしれない。だとしても、完璧な人望で魅了させ、本性は底知れぬ変態。酷いギャップである意味、サフィアは罪深い人だ。


……実際に捕まったし。


「お、シフじゃないか! やっと会えたな!」

サフィアに巻き込まれた王子を哀れんでいると、当の本人が機嫌よくやって来る。


「また1人、あなたによって儚い犠牲が出ましたよ」

「はて? 少年少女など数えるほどしかいないし、実行に移してはいないのだが」

「計画はしてたんかい」


「そう怒るな、シフにしかしないさ」

サフィアは僕をなだめるように、肩に手を置く。そして、するりと手は落ちて、お尻の方へと到達する。


「ちょ、中年みたいなセクハラしないでください!?」

お尻に置かれた手を勢いよく払い除ける。あまりに自然なボディタッチで、警戒していなかった……


「し、仕方ないじゃないか! シフがそんな格好して誘っているのに、長時間お預けされたんだぞ!」

「開き直らないでください!! ハァ、さっきのファインプレーはどこにやら……」


「シフだけにはもう、ありのままの姿を晒していたいからな。いわゆる、愛情表現」

「それ自分で言う? それと9割程抑制(よくせい)してください」


「それはできぬ相談だ。だって並び替えたら、性欲(せいよく)になるじゃないか」

「何がだってなんですか!! 何が!!」


「そうだ、こうしている場合じゃない!」

 サフィアはハッと何かを思い出したかのように、詰め寄ってくる。

「な、何ですか?」


 そういえば、会った当初にやっととは言っていた。てっきりいつもの変態的衝動かと思っていたが、どうやら何か用事があったみたいだ。


「せっかくの機会なんだ、一緒にダンスを踊ろうじゃないか!」

「……えぇ!? 正気ですか!?」

「正気で本気だ」

「む、無理ですって……第一に王族達の社交場なんですよ……?」


「問題ない、私はこれでも勇者だ。それくらいの横暴はなんかこう、なあなあで許されるさ」

「この勇者色々ダメだ」


「……では、この場に相応しい誘い方をするとしよう」

サフィアはそう言って、片膝をつき、澄ました笑顔で手を差し伸べてくる。


「カンダル王国の真の英雄、愛しき少年よ。どうか私と一緒に踊ってはくれまいか?」


真剣なのか、それとも真剣にふざけているかは不明だが、他意はなさそうだ。だとしても、気が引ける。周りの反応はどうなるだろうか……


「あらあら、勇者様が執事の少年を誘ってるわ!」

「なんて子供に優しいのでしょう! きっと一生の思い出になるでしょうね!」


くっ、外面の良さを利用して外野を味方につけてくるとは……!


通りすがりの王族達がこぞって様子を見てくる。これ以上注目を浴びるのはごめんだ、答えはもう出ている。


「……僕は勇者のあなたと違って、表舞台に立てる人間なんかじゃない」

「そうか? 私より断然まともなのに?」

「自覚があっ……いや、それでもです。身分を偽っていても、盗賊なのは変わらない。どこまで行っても僕は盗賊です」


「……そなたの場合は、それしか生きる道がなかったんだろう!」

「でも選んだことには変わりはない。それにもう十分だ、そんな僕を王様達から頼りにされてるだけで光栄なんだ。肩を並べようとするのはおこがましい」


「大層に考えなくていいではないか、 ただ踊るのに身分や資格なんて関係ない! 物事を楽しむのは皆平等なんだぞ!」


……シリアス風に断れば引いてくれると思いきや、それに合わせてグイグイ押してくるんだけど……いい加減に察してほしいわ本当。


第一そもそも、踊ったことなんかないんだよ!! 目で盗み見ても、一部分しか見れないし、体格差が違うのに即興で合わせるのはできない。なのに出ていっても子供のお遊戯と笑われる! ルビだっているし、アメトさんに絶対後でからかわれる! なんとしても断られねばならない!


「ごめんよ、サフィア。どうしてもこればっかりは気が乗らないんだ。引いてくれるとありがたい」

「そ、そうか……」


自分の気持ちを正直に伝える。サフィアと再会したときも、これが効いていた。嘘は言ってない、大袈裟にちょっと言っだけだ。


「ならば! こんな煌びやかな舞台ではなく、勇者としてでもなく、ただのサフィアとしてまた今度踊ろう!」

「あ、うぅ、えっと、それならまぁ……」

「ぃよしっ!!」


もう断る理由がなく、成り行きで言ってしまった……時間があれば覚えておこう。


「では、これで次回への手向けとしよう」

サフィアはそう言って、僕の手を取る。そして、サフィアが頭を下げると、手の甲に柔らかい唇の感触が伝わってくる。


恥ずかしいものの、今回はサフィアのお人好しと、王子顔負けの紳士っぷりに免じて黙っておこう。


「……」

「……」


サフィアはキスをしてから微動だにしない。もう10秒は経っているが……


「ねぇサフィア、流石にもういいんじゃないですか?」

「……」


「ちょっと、聞いてます? ていうか止める気あります?」

「……ジュル」

「吸うな!?」


「おい聞いたか! ホールの奥で大変なことが起きたらしいぞ!」

てっきり勇者が未成年の手をしゃぶったところを見られたと思ったが、どうやら別件らしい。王族達がホールの奥へと集まっていっている。


 騒ぎにはなっているが、悲鳴などは聞こえない。むしろ、王女や王妃はニヤついている人が多い。一体何事かと疑問が浮かんだが、その答えはすぐ明らかとなる。


「たった今、求婚した王がいるぞ!」


こんな場で大胆なことをする人がいるもんだ。なんだんかんだ気になり、僕とサフィアはどうにかして人々の隙間から覗こうとする。


「くっ、まさか先を越されるとは! これでは2番煎じにも程がある! インパクトが霞んでしまった!」

「企んでたのってそれなんですか!? ……って、あれ?」


 人だかりの中心にいたのは、会議で予期せぬ発言をしたイントゥリーグ王。そして、小柄で見慣れた紅い髪をした後ろ姿の女性だった。


「……ルビ……?」


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