盗賊少年と先人達
王宮前に、次々と馬車が現れては、各国の王、または重鎮達が王宮の中へと入っていく。
「遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます。お荷物があれば、こちらでお預かりさせていただきます」
肥えた王女様らしき人に笑顔でご挨拶し、荷物を差し出しされたので受け取る。
今は王宮入り口で、荷物の預かり役と案内係を担っている。みんな忙しいうえ、執事服なんて着てるんだ、何もやらず黙っているわけにもいかない。
荷物を奥へ運ぼうとすると、渡してきた肥えた女性が、嫌味ったらしく声をかけてくる。
「はんっ! こんな子供を雇ってるなんて、余程優秀なのか手が足りないのかしらね」
「……これはこれは、疑問に思われても仕方ありませんね。恐縮ですが、前者であるよう務めさせていただいています。それでは真っ直ぐ進んでいただき、ホールでの各指定席へとお願いします」
「……ふんっ! 子供なんだから、間違ってもくすねるんじゃないよっ!」
からかい甲斐がなく、つまらなかったのか、その女性は渋々歩いていく。
「……そうだね、僕は子供で盗賊だから、自国に帰ってから盗んでもしょうがないか」
後で盗んでおくリストに追加しておこう……ここで前日に王様が言ってたこと思い出す。
この王族会議で、面倒を起こしても旨味がない。特定のターゲットがいれば尚更だ、わざわざ、各国が集まるこのタイミングでやることはない。
だから"白バラ"の襲撃も、王族会議前に王様達を暗殺しようとしたのは、説明がつく。
「それ以降襲って来なかったのは、僕とサフィアの存在を知って……か?」
考察していると、次の来客が来ていた。続きを考えたいとこだが、今は目の前のことが優先だ。不手際があれば、カンダル王国の失態になりかねない。
急いで向かおうとするが、一瞬硬直してしまう。何故なら、目の前の人物達があまりにも有名だからだ。
各国の王族を全員把握してるわけじゃない、むしろ僕は疎いくらいだ。それでも知っているし、知らなくちゃいけない存在と言ってもいい程だ。
国がというより、その人物の英雄譚で名が知られている。歴代の魔王の中でも強大で凶悪であった、前魔王を倒したパーティの1人。
リオストロ城下町の女王、マリア。淡い栗色のロングヘアーに、色っぽい目をし、唇の左下にホクロがあり、魔性に近い美貌を放っている。
かつての魔王は王族を中心に狙い、人類の統率を乱そうとした。だからこそ、今でも王族の制度が残っているのは、武力と権力の象徴として讃えられている。
しかし、リオストロ城下町は違う。その前魔王により消され、王族の制度は1度廃れたのだ。だが、唯一の生き残りであったマリア女王が奮起し、魔王討伐に貢献し、王権を取り戻し、王族の中でも一目置かれている。
そして、もう1人。この王族会議にて、唯一王族ではない人物。マリア女王と同じく、前魔王を倒したパーティの1人でもある。
魔法使いの集落、ウィッチの長、リック相談役。白髪混じりの茶髪に、老練のような勇ましい顔立ちをした、王族達の相談役だ。
僕達の仲間だった、魔法使いイヤドの出身でもあり……イヤドが悪に目覚めて倒した後、身元を預っているところでもある。
2人とも、僕やサフィアの先輩にあたる人たちだ。
「お、御二方、本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。ご荷物はありますか?」
「俺はないぜ! 若いのにしっかりしてんなぁボウズ!」
「私もないわ。それにしてもそうね、若いのに優秀な人材がいるとは、カンダル王国も基盤は盤石なのね」
「お褒めいただきありがとうございます……」
2人とも凄まじいオーラが伝わってくる……特にマリア女王は、魔王レイキングスさんに似たような、底知れない強さを感じる気が……
「もしかして……隠密の隊長クラスかしら?」
「っ!?」
じ、実力を見抜かれた!? いやそれだけじゃない、隠密部隊を知っている……!
もちろん、隠密部隊は非公開の部隊だ、じゃなかったら隠密じゃないし……事情を知ってるのか……?
「んん? 褐色の肌に、白髪の少年……ひょっとしてボウズ、魔王討伐時の勇者一行にいた、盗賊の野郎じゃねぇか!?」
「そ、それは……!」
ま、まさかそこまで知られてるとは……いや、待てよ? イヤドを預かっているのなら……
「魔法使いのイヤドから……ですか?」
「あぁ! コテンパンにされてガミガミ文句言ってたぜぇ! だっはっはっ! ま、悪りぃのはアイツなんだけどなっ! ウィッチの中でも、魔法は一級品なんだが、中身は傍若無人の塊だからよう! 迷惑ばっかかけたろう?」
「え、えぇ、そこそこ、かなり……」
なんせ、最後は人類も魔王軍も制圧しようとしてたからな……
「あら、それなら納得ね」
「ん? でも確かその盗賊って、戦死したって話を……」
「よく働いてくれたからのう、世間的にはそうしてるんじゃよ」
「お、王様!?」
なんて弁明をしようかと目論んでいたら、割って入るように王様が現れる。
「というわけで、このお話はお口チャックでよろしこ」
「大分話しちゃったような……」
「この2人なら大丈夫じゃよ」
「よぅチャラ男! いや、今じゃチャラ王って言わなきゃ失礼か! だっはっはっ! 偉くなったなぁ、オイ!」
「お久しぶりね、カンダル王。この度は魔王討伐、おめでとうございます」
どうやら旧知の仲のようだ。リック相談役にいたっては、親友みたいに思える。
「いやまぁこの子1人で倒しちゃったんだけどね」
「なんだって!?」
「お、王様! それもダメですって!?」
「……想像以上の功績ね」
「ま、会議じゃあ建前で話すけど、本当のことは後で話すわ。んじゃま、御二方よ、一緒に行こうかね」
「お! 王様が直々にエスコートととは太っ腹だねぇ!」
「フフ、その武勇伝を楽しみにしてるわ」
意気揚々なリック相談役と穏やかに微笑むマリア女王は、王様と共に王宮内へと入っていく。
「……世界は広いな」
「お疲れ様ですシフ君、今の方達で終了ですよ」
さっきの3人を見送っていると、アメトさんが来てくれた。
にしても、機密事項をああもベラベラと喋っていたけど、王様もちゃんと周りを把握してたのか……危うく、知れ渡るとこだった。
「お疲れ様です。アメトさん、あの2人は王様とかなり親しげでしたけど、何かあったんですか?」
「あぁ、リック相談役とマリア女王ですね。前魔王の時に大分お世話になったみたいで。それに、イヤドさんを派遣してくれたのは、王がリック相談役に一声かけたのがきっかけなので」
「イヤドにそんな経緯が……なんか、倒してしまって申し訳ないと言うか……」
「ま、そんなこと気にする方じゃないので、ご安心を。じゃあ我々も中へと入りましょう」




