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盗賊少年と王族会議前夜、後編

 ルビがゆっくりと近づいてくる。髪や瞳と一緒の真紅なドレスを身に纏い、ティアラが金色に輝いている。それに遜色することなく、おめかししたルビの顔は美しく見えた。


「……えっと、お待たせ……お父さんは……?」

「あ、あぁ、クールに去っていったよ」

「ぷっ、お父さんが……?」

「お、王様がそう言ってたんだって!」


 見惚れていて、思わず王様の言ってた通りに答えてしまった。そんなことありえない、といわんばかりにおかしくて笑い出すルビ。


「……綺麗だね、すごく似合ってるよ」

「えへへ、そう言ってくれるのは嬉しいなぁ……お母さんが生前に用意してくれたものでさ、このティアラはお母さんも付けてたから」


「きっとルビは女王さまに似たんだね。正直、王様の子とは思えないもん」

「あはは! 容姿はそうかもね! 性格は似てないと思うよ? 男勝りでいつもお父さんを叱ってたし!」


「それじゃあきっと、はっちゃけた王様と勝気な女王様がブレンドされて、丁度普通なルビが誕生したんじゃない?」

「クス、人を飲み物みたいに言わないでよ!」


「そうだね、ごめんごめん。でも、この様子だと明日は大丈夫そうだね」

「やー、また明日になると緊張するよ絶対。各国のトップが勢揃いだもん。しない方が無理だって!」


「練習通りやればきっと平気だよ。ルビならきっとできる」

「ありがと……でも私、会議後のダンスパーティーの方が不安だなぁ」


「国際間の親交を深めるものなんでしょ? ルビが無理に参加する必要はないんじゃない? 子供なんだし」

「シフ君に言われたくは……まぁ一応顔見せして、挨拶くらいはしとかないと……う〜、上手く話を合わせられるかなぁ〜」


「ルビは聡明なんだし、むしろいい意味で驚かれるんじゃないかな」

「う〜ん、でも尋常じゃなく緊張する……」


 ルビはうつむき、少し間を置いてから、両手でパンッ! と勢いよく頰を叩く。


「……よしっ、吹っ切れた! 明日は頑張るぞー!」


 曇っていた表情が、打って変わって明るい笑顔になるルビ。気持ちの切り替えも容易に行えてる、もう王妃としての心構えは充分できてるだろう。


「強いね、ルビは」

「お母さんに散々言われて、鍛えられたからね! 涙や泣き言は惚れた男の前でしか出すんじゃないよって!」


「随分と渋いこと言うお母さんだね……」

「うん! だからいつかはーー」


ルビの言いかけていた言葉が、不自然な風に中断する。


「ど、どうしたの? 今確か、いつかはって言いかけーー」

「な、なんでもないっ! なんでもないったらなんでもないから!!」

「君達親子は3回言うのが流行ってるの……?」


ガタッ!!


「誰だ!?」

 壁の外側から物音が聞こえ、戦慄が走る。怪しい気配は1週間前の襲撃以降、今の今までなかった。しかし、その1週間前に、近づかれるまで気配を察知できなかった人物がいる。


 急いで壁に耳を当てて、音を探る。すると、微かに乱れた呼吸が聞こえる。位置がバレて動揺したのだろうか……?


だとしても、物音がするまで察知できなかった者だ。あの時の賊か、それとも新たな手練れか。


どちらにせよ、相手を確認して、応戦しなければ……だが、ルビを1人にするわけにはいかない。


「ルビッ! 初めて会った時と同様、僕が君を背負う! 説明は後でするから、今は言う通りにしてくれ!」

「うん……敵、なんだね……?」


「察しが早くて助かるよ」

ルビを背負いながら言って、窓へとジャンプする。


 大した敵でなければ、ルビを背負いながらでも倒せるが、今回ばかりはそうはいきそうにない。ルビがターゲットにされたら尚厳しい。確認次第、逃げるのが先決だ。


前回の襲撃時の体験を思い出しつつ、外へ出て、正体が露わになる。


そこには、白いハットに、白いスーツ、黒髪の長髪男()()()()ーー


「や、やぁ、シフに姫よ、ご機嫌麗しゅう。そんなに慌ててどうしたのだ?」


ーーそれは、勇者サフィアだった。


「ってアンタかいっ!?」

「なーんだ、サフィアでよかったね!」


「いや、だとしても良くないよルビ。サフィアは僕達の会話を聞いてたんだよ?」

「え、でもサフィアもシフ君同様、耳がいいから聞こえちゃったんじゃない?」

「そ、その通りだ、聞こえてしまったのでな」


「いーや違うよ、聞こえるとかじゃなく何故聞いてたかに注目を置こうか」

「こらこら、あまり姫に変なことを吹き込むんじゃない。ただでさえ、明日は大事な日なんだぞ」


「その大事な日の前日に、隠れて盗聴してた人が言えるセリフじゃない。それに自分で変なことって言っちゃったよ」


「すまん、何も不安がらせることなく立ち去ろうと思ったのだが……あまりにも姫が可愛いくて、身震いしてしまってな」

「それであんな物音立てたあなたに、こっちが震えるよ」


「や、やだなぁ、サフィアにも聞かれたんなんて、恥ずかしいよ……」

「もっと恐れ(おのの)いた方がいいよ?」

「そこまでは思わないから!?」


「しかし2人とも、良い格好してるな?」

「えへへ、ありがとうサフィア!」

「ダメだよルビ、今のはお礼を言うんじゃなくて、これ以上近寄るなって警告するんだ」


「さっきからどうしたのシフ君!?」


「シフも疲れているのだろう。さぁもう明日に備えて寝るとしよう、3人で」

「もう、サフィアったらそんな冗談言って!」


「これが冗談に聞こえたら、どんなにいいか……」




 結局のところ、何も起きずに今日が終わる。そして、こんなやり取りが愛しいくらいに思えるほど、波乱が続く明日を迎える。

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