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盗賊少年と偽物

「しっかしひどいねぇ、散々喋ったじゃないか」

白スーツの男は、ふてくされるように言う。


「……言っていいことしか、喋ってないでしょうに」

こいつの真の狙いがわからない今、帰すわけにはいかない。悪夢を見せるとか言っていたが、サフィアがいるなら心強い限りだ。


 魔王討伐前日、仲間だった魔法使いイヤドが、魔王の戦力と僕達の仲間が2人消えたのを見計らい、世界征服のために僕達を消そうとした。


奇襲を受け、苦戦を強いられたが、それでも勝てたのはサフィアの存在があったからに他ならない。


 今の相手はその時より格下、そして何より、勝利後はサフィアが襲ってこない。このまま一気に畳み掛けるとしよう。


「行きますよサフィア!」

「あぁ!」


「盛り上がってるとこ悪いんだけど、俺はまともにやるつもりはないんでね」

男はそう言うと、指パッチンすると同時に強烈な光を放つ。咄嗟に腕で目を覆うが、見えなくなってしまった。


「くっ、目くらましか……!」

「のわ!?」


 隣にいたサフィアが素っ頓狂な声を出しながら、体勢を崩したようだ。光に乗じて攻撃をされたのかもしれない。


「サフィア!!」

「だ、大丈夫だ!」

「私は平気だ!」


……ん??


何だ? 今、ほぼ同時に、まるでサフィアが2人喋ったような……


「……無事ですかサフィア?」

 混乱しながらも、恐る恐る尋ねてみる。


「私は問題ない!」

「無論、無事だ!」


「「……何っ!?」」


……一瞬何かの間違いかと思ったが、そうじゃない。確実にサフィアの声が2人いる。


驚いたな、声は全く一緒で、匂いすらもサフィアが2人いるように感じる。そして、視界が元に戻ると、その事実が如実に現れる。


 水色の短髪に蒼い瞳をし、性格と反比例した凛々しい顔立ちの女性が2人。


 そこにはサフィアが2人いた。


「「わ、私が……」」

 サフィア同士が困惑した表情で見つめ合う。ただの幻覚というレベルじゃない。視覚、聴覚、嗅覚といった知覚そのものを変換させてるようなものだ。


 直接的な攻撃魔法はできないと言っていたが、それ以外の魔法は高レベルってことか。


それにある意味、この状況は悪夢かもしれない……


「わ、私が本物だ、あんな悪趣味な格好なんかしないぞっ!」

「いや、私こそ本物のサフィアだ! あんなすぐ汚れるような服なんて、着たくもないっ!」

「これってどっちかが自虐なんですよね?」


まぁでも、変身? しているとしたら、本物を見分ける方法は簡単だ、僕とサフィアしか知らない質問をしてしまえば……


 そう考えてた瞬間、1人のサフィアがもう1人に向かって斬りかかる。


「フッ、至極簡単に、私が本物だと証明できる方法がある。私と貴様で闘い、勝者が本物の勇者サフィアということだ」

「……臨むところだ、そこで待っていてくれシフッ!」

「あ、ちょ……!?」


そう言って、2人は縦横無尽に駆けながら斬り合っていく。


……変身するだけはある、相手もこういった状況に慣れているのだろう。まんまと、一対一にさせられた。こっちは迂闊に手を出せない。


 他に何か方法はないか、辺りを見渡す。目に入ったのは、先程短剣で傷をつけた際に、床に飛び散った血痕だった。


「そうか、血ならあいつの肩にも……!」

 血痕に近づくと、血の匂いは変わらずにある。


判別する方法の検討はついた。急いで斬り合っているサフィアの元へ向かう。


「よもや、私がこの程度ではあるまいな!」

「ほう、言ってくれるではないかっ!」


 サフィア同士が斬り合い、掛け合うなか、深く息を吸う。血の匂いを漂わせてるのは、後者の方だ。


「……だとしたらなんで本物のサフィアが挑発してるんだ……?」

偽物が疑われないよう、本物を焚きつけるならわかるんだが……


 少しばかり疑問と不安を抱き、念のためもう少し特定するとしよう。


「このままじゃ埒があかないので、2人とも蹴り飛ばします! 大人しくしてください!」

「それはあんまりだぞっ!?」

「是非よろしくお願いしますっ!!」

「よし確定した」


 血の匂いがし、まともな反応をした方へと向かって飛び蹴りする。


足が偽物のサフィアの胴体へと当たる。が、あまりにも手ごたえがなく、まるで布を蹴ったかのようだった。


 そして、蹴った偽物のサフィアが崩れ始め、その正体が明らかになる。


「こ、これはスーツの上着……!?」

匂いを誤魔化せないから、血が付着したスーツと剣を魔法で操り、それを幻覚でサフィアに見せかけてたのか……!


それなら、男はどこに!? 声を出してるならまだ近くに……!


 そう思った矢先、背後から殺気を感じてすぐ後ろへ飛ぶ。完全に避けきれず、肩に攻撃をかすめて血が滴る。


「これでお揃いだな」

 背景と同化していた男が、今度は僕の姿へとなって現れる。


やられた、これでもう匂いでの判別は難しい。身の潔白を証明しようにも……


「今度は僕へ化けたか、偽物めっ!」

自分の姿になった男はそう言いながら、容赦なく襲いかかってくる。


ーー仕方ない、ここは自分の力だけで打ち負かすしか……


「タイムストップ」

その瞬間、サフィアの一言で、迎え討とうと武器を構えるも、動かせなくなる。偽物の自分も同様のようだ。ただ、偽物の方は訳が分からなそうだが。


 勇者特有の『時』の力。物体の時間を操り、魔法をも超越した力。今は武器だけを時間停止させ、何も干渉を受けなくなっている。


「さて、これで少しは落ち着いて話せるな」

 サフィアはそう言って、自分と偽物の間に割って入る。


「助かります、サフィア。あ、僕は偽物であっちが本物です。どうぞお好きにしてください」

「い、いや僕が偽物だから手を出すならあちらに……」

「本物を譲り合うんじゃない!!」


サフィアのツッコミに少し怒りが感じられる。何に対して怒っているんだ……?


「それにしても……それにしてもだ……」

 サフィアはワナワナと手を震わせ、剣先を偽物へと向ける。ここまでサフィアが怒るのは珍しいことだ、今までの冒険でも余程のことがなければ怒ったことがないというのに。


それに加え、偽物と本物の区別がついているようだ。


「……どっちが本物かわかるんですか?」

「当然だ……」

「な、何!?」


「甘すぎる……」


……甘い??


「作り込みが甘すぎる!! 本物のシフより0.6cm身長が高い! 首の右下と左手の親指の付け根にホクロがない! 」


サフィアの発言に唖然としながらも左手を見る。


あ、ホントにあった……


「何より! アメトから聞いたが、少し前にシフは用を足しに行っている! その証拠に下半身から僅かにアンモニアの臭いがーー」


「敵になんて気持ち悪い説教をしてるんですか!?」

 黙っていられる訳もなく、サフィアの頭を思いっきりどつく。


「あいった!? ま、待てシフッ! 私はただ証明しようと……」

「何が証明ですか!! セクハラを超えて人権侵害です!! 最近良くなったと思ったらこれですか!」


「み、見直してくれてたのか!?」

「たった今、評価は地に落ちましたけどね!!」


「…………じゃあ俺帰るわ」


「す、すまない、排泄物(はいせつぶつ)猥褻物(わいせつぶつ)に例えて……」

「それが言いたいだけでしょ!? もう限界です! トイレ行った後まで嗅ぎ回られてるなんて……」

「いや誤解だ、感じ取れるだけで、それで興奮するようなことは決してないっ!」

「そういう問題じゃなくて、プライベートも何も……ってあの男は!?」


サフィアの衝撃的発言に気を取られ、男の行方を探す。すると、窓の外で遠くから手を振ってる。


「あー! もう逃げられたじゃないですか!?」

「す、すまない……」


サフィアの落胆ぶりを見て、自分も我にかえる。感情的になって、敵が眼中にすらなかったのは、自分の落ち度でもある……


「……相手の幻覚も完璧じゃないってことがわかったし、今後の対策も練っておきましょう……それに僕も言い過ぎ、いえ取り乱しました」

「……以後気をつける」

変態的言動を容認するわけではないけど、結果的に止めに入ってくれたわけだし……いや、待てよ……?


「……ねぇサフィア? あなた程なら、自分が闘っている時でも、さっきみたいに武器の時間停止できたんじゃないですか?」

「あ、い、いやその……」


 ツギハギぐちに言うサフィアを見て、何か事情があったのかと感じる。


「……その、い、良いところを見せたくてな……」

 視線を泳がせながら、呟くように言う。


「……全く、裏目にしか出てないじゃないですか」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 カンダル王国の外れにある農村で、白スーツの男は待ち合わせの場所へと向かう。それは、王と姫の暗殺を依頼した人とは()()()()()()と。


空き家の中に入り、白スーツの男は立て続けに喋り出す。


「いや〜、遅くなって申し訳ありません。でもあなたが教えてくれたおかげで、王宮内とその付近での逃走が簡単でした。しっかし、奇妙な依頼を出しますね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()なんて」


依頼人はそのことを言及し、白スーツはさらに言葉を続ける。


「王宮にあれだけのことをして、おびき出した甲斐がありましたよ。えぇ、勇者がえらくお気に入りで、戦闘能力もずば抜け、特徴も一致しています。自分も腕に自信はありますが、まともに闘かえば命はないでしょう。まぁ、想像以上に勇者がアレでしたが」



白スーツの男は一つ間を置き、依頼人が求めてる結論を言った。


「魔王討伐で勇者の仲間だった盗賊の少年は、生きている」

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