盗賊少年の過去との相違
「く、来る! あ、あのサフィアが……」
「なんで味方が来るのに、そんな怯えてるの?」
「条件反射で」
「……医者行ったら?」
サフィアの気配がどんどん近づいてくるのに対して、1回深呼吸する。大丈夫だ、サフィアはもう改心したじゃないか……いつもみたいに、迎え撃たなくていいんだ。
そう身体に言い聞かせ、身体の震えを抑える。
「……なかなかやりますね、言葉巧みに誘導し、魔法をかけたとみせかけ、僕の仲間を利用するなんて。やはり、あなたは侮れない……!」
「何を言ってるのかわかんねぇから、全部お前さんの思い込みだよ」
遠くにサフィアの姿を捉え、あちらも視認したようで、こちらに跳躍してくる。
「ほー、あれが噂に名高い『蒼玉の英雄』魔王を倒した勇者様か。美しいねぇ」
「な……!? 蒼玉と英雄という単語に、あまりにも失礼じゃないですか!!」
「なんで!?」
そうこうしているうちに、サフィアが到着し、息荒げに寄ってくる。
「無事かシフっ!? 怪我はしていないか!? 変なことをされてないか!? 精通はした?」
「大丈夫ですよサフィア、そんなに心配しなく……最後なんて言いました?」
「そうか、私としたことが愚問だったな」
「最後のは正にそれだな……あ、さっきのお前さんの言動がわかってきた気がする」
「ルビは大丈夫なんですか?」
サフィアが加勢に来てくれるのはいいが、ルビの安全が気になる。他にも敵がいればだが……
「問題ない、アメト隊長がいる所に運んだ」
サフィアは白スーツの男へと振り向き、口を開く。
「貴様が襲撃者か」
「……全く、こうも俺の魔法にかからない奴がいるとはショックを隠せないなぁ。まぁ、勇者なら仕方ないか」
「いえ、この人はバリバリ寝てましたよ」
「あっれぇ?」
なんかイマイチ緊張感がなくなったが、せっかく来てくれたんだ、さっきの問答の答え合わせとしよう。
「サフィア、他に敵は?」
「周囲を確認しながら来たが、いないようだ」
「な、俺が言ったことは本当だったろ?」
「……」
男はニヤリとこちらを見つめてくる。
「シフの方は何か被害はなかったか?」
「兵士の剣を盗られて、破壊された程度です」
「いや壊したのはお前だろ!?」
……そう、逆に言えばその程度しか被害がない。大規模な睡眠魔法による鎮圧、そこまではいい。
だが、わざわざ姿を表す必要はない。気配も音も簡単に悟れず、本気で暗殺にかかれば、王様の命へと届きうる可能性もあった。
腕に自信があり、そういう性格だったと言われたらそれまでだが……何か詰めが甘いような……
「……何はともあれ、我が王に愛しの姫を犯そうとした罪、ただではすまさん。その愚行、この剣にて正してくれる」
そう言ってサフィアは剣を引き抜き、男に向けて構える。
ーーいや、あなたの普段の行いは?
と声を大にして言いたかったが、サフィアがやる気になった今、余計な茶々を入れるのは控えて、男を捕らえるのが先決だ。
「バケモンじみた少年と、魔王を倒した勇者様が、俺なんかを相手に2人がかりとは……嫌になるね」
「フッ、魔法使いを相手に共闘するのは、あの時以来だな」
「えぇ……闘い終わった後、英気を養おうと言って押し倒すのは勘弁してくださいよ」
「勿論だ。一時なんかではなく、ずっと隣で歩みたいからな」
ごくごく自然に話したサフィアに対して、思わず目を見開いて驚く。
本当に後悔してくれているんですね……
感心と、不思議な高揚感を覚えながら、呪いの短剣を構える。
今度は普通に、勝利を分かち合えるようだ。




