盗賊少年の成り立ちと苦難
盗賊少年の名はシフ。生まれつきの白髪頭に褐色肌。6歳の時、スラム街に捨てられて以降、毎日を生き延びるのに精一杯だった。子供に出来る仕事なんてなく、盗みを働くことでしか、飢えを凌ぐことはできなかった。
最初は露店などの店、一般人のスリをしていたが、回数を重ねる度に被害が有名になってしまい、どんどん警戒されるようになった。
致し方なく、大金持ちの商人や領主をターゲットにして大金を掻っさらい、なくなったらそれを繰り返していた。だか、その分リスクも大きく、見つからず逃げるだけでは厳しくなり、強くなろうとした。
金品だけでなく、強者の戦闘技術を目で盗み、試行錯誤の中で実践し続け、今では魔法以外の動きなら完全に模倣できるようになった。
そして、夢は大金持ちになること。盗みや働くこともせず、平和に暮らすという怠惰な幸せを夢見ていた。そしてさらに稼ぐために、悪党や同業者にも手を出して盗みを働いていた。
そんなある時、盗んだ物の中に呪いの短剣があった。呪いの効果は、万物を切り裂く斬れ味に、捨てようとしても決して戻ってくること。
ただ、手に入れた当時は呪いを気にするどころか、重宝していた。リーチは短いが、どんな武器、防具をもスパスパと斬れる。そして投げて使っても、勝手に戻ってくるため、正直リーチは関係ない。自分の中では最強の武器を手に入れたと自負していた。
しかし、今思うと本当の呪いは、不幸を招くことではないかと疑い、手離したくて仕方がない。いや、はたまた盗賊なんて邪まなことをした罰が下ったのだろうか……
そう思うきっかけになったのは10歳の時。大金・金品を掻き集め、そろそろ盗賊稼業から足を洗おうとしていた頃だった。だが、腕利きの盗賊として名が知れ、魔王に敵対している最大勢力、カンダル王国から声がかかった。
内容は、勇者の仲間として加わり、魔王を討つこと。僕は大変喜んで引き受けた。報酬だけでなく、名実共に讃えられる。スラム出身の盗賊だったのに、英雄として称されるのだ、引き受けないわけない。
そして肝心の勇者は、女性で凛々しく、とても綺麗で優しかった。知らないことを全て一から教えてくれ、スラム出身の盗賊なのに差別することなく、まるで弟のように面倒をみてくれた。
こんな女性とずっと一緒に入られたらいいと、一時期は年甲斐もなく惚れ込んでいた。しかし、勇者の本性は度を越えた変態だったのだ。
全ては僕を手中に収めるための策略で、とある日に息を荒げて、涎を垂らし、夜這いをかけられた。僕はその豹変ぶりにドン引きし、色々なものを奪われそうになったが、かろうじて守り抜いた。
それでも勇者はめげずに何度でも僕を襲おうとした。時には力ずく、時には媚薬を盛ろうと。仲間に助けを求めようとしても、ろくな人がいなく、自分でどうにかするしかなかった。
それでもなんとか我慢してやっていき、いよいよ魔王軍の主力は魔王だけとなった。そんな中、問題が起き続けた。
戦闘狂の戦士は魔王そっちのけで、戦闘に明け暮れ、魔王討伐10日前に失踪。
面倒くさがりのわがまま回復術師は、魔王討伐5日前に、手紙を残して帰郷。
腹黒魔法使いは悪に目覚めて、魔王討伐前日に勇者と共闘して討伐。
そして勇者は魔法使い討伐後、僕が疲れているところを押し倒したので、最後の力を振り絞り、拘束して検挙。
こうして誰もいなくなった。
魔王討伐予定日、戦力を増やすか迷ったが、この憤りのない怒りを早く誰かにぶつけたくて、単身で魔王城に乗り込み、なんとか倒したのだった。
結局、魔王を討伐した名誉は捨て、カンダル王と相談し、僕は戦死して勇者がやったことにした。王国のメンツもあるし、勇者一行が問題児だらけで1人で倒しちゃいました、なんてのは避けたかったのだろう。
それに僕が戦死したことにすれば、もう周囲から頼られることはない。勇者の仲間として更に名が知れてから、民衆に魔物退治や荒事を大量に頼まれたのだ。魔王を討伐したと讃えられたら、より依頼が殺到してしまうからだ。
最終的に、自分の世間的な死とともに、自由と報酬を手に入れた。
今は齢12にして、カンダル王国の高級宿屋で、VIPルーム生涯パスポートをもらって暮らしている。
最上階の窓から景色を眺め、ベーコンエッグトーストに、最高級エビのサラダ、ミルフィーユケーキ、そしてカフェオレを飲みながら、モーニングを堪能している。
「あぁ、やっと平和に暮らせる……」
思わず笑みがこぼれ、このまま余生を過ごせればと願う。
そしてその願いは叶わなかった。