盗賊少年と婿候補
視界が明るくなると同時に、ルビの姿が目に映る。
「2人とも見ーつけた!」
「僕達の負けだね……もしかして、ルビはドアだけ閉めて、ずっとこの部屋にいたの?」
「そうそう! アメトから、あの2人は五感がずば抜けてるって聞いてたからね。 だから出てったフリして、じっと待ってたんだ。さっきのやりとりを見て、2人ならきっとふざけ合うと思ったし!」
「油断したな全く、シフが大声を出すからだぞ」
「そりゃあ隣で吸引なんてされて、黙っていられるわけないでしょう。にしても、よくこの部屋にいるってわかったの?」
部屋から出ずに僕達の掛け合いを待っていたってことは、この部屋にいるという確信がなきゃあできない。まぁ、各部屋に手当たり次第やったという可能性もあるが……
「ん〜とね、最初はシフ君ならお城の外壁とか天井裏とかに隠れようとするんじゃないかなって思ったんだ。盗賊やってた言ってたし、この前王宮に潜入した時もなんか色々卓越してたし」
「うわ、まさかの読まれてたぞシフ……」
「そ、そんな……」
「でも、流石にサフィアが止めてくれると思ってね。私でも見つけられて、他の人の迷惑にならない所といったら、ここだろうなぁと……今、王族会議に向けてみんな忙しいもん」
「うわ、全部読まれてるじゃないですかサフィア……」
「ぐうの音も出ないほど、その通りだ……」
「えへへ、私の勝ちだね!」
ルビは嬉しそうに笑い、その後も僕達は日が暮れるまで遊んだ。トランプをやったり、鬼ごっこをしたり。生きてきたなかで1番和んだかもしれない、そう思えるほどに僕自身も楽しんでいた。
「あー! もうこんな時間だね……なんかあっという間だったなぁ、誰かとこんな目一杯遊んだのって初めてだから」
ルビはどこか寂しげに呟いた。
「あはは、僕もだよ。時間なんて気にならないくらいに遊んだのは」
「つまり、私は2人の初体験に立ち会ったということだな」
「あなたは一々台無しにしないと気が済まないんですか!?」
毎度のことのように、サフィアの酷い冗談に突っ込んでいると、ルビが僕に耳打ちをしてくる。
「……ずっと気になってたんだけど、サフィアとシフ君てどんな関係なの……?」
「あー、えっとね……」
一緒に打倒魔王として組んだ仲間、というのが正解だが、世間的に僕は死んだことになってるからな……今更打ち明けるのも照れ臭いし、説明がややこしいからなぁ……
「い、一緒に戦ったことがあるんだ、仕事でね。ほら、荒事なら僕も得意だし……」
「へ〜、確かにシフ君なら……でもそれにしては仲がすごく良いような気がするけど……す、好きなの?」
「好っ……そ、そんなことないって!? 今はただの加害者と被害者だよ!」
「ただのってどういうこと!?」
「2人とも、こそこそ話してないで私も混ぜてくれないか? 唆るじゃないか」
「……ね? こんなこと言うアレな人間なんだよ?」
「んー、サフィアの言うことは時々訳わからないから……」
あぁ、汚れを知らないピュアな人はこうなるんだな……
「おっつおっつ〜、楽しんでるかい? 若人達ぃ」
「あ、お父さん!」
話していると、王様が奥から声をかけてきた。
「その様子だと、いい感じにガス抜きできたようだねぇ」
「うん! お父さんは大丈夫? 疲れてない?」
「いや〜、もう肩コリッコリッよぉ!だからひとっ風呂入ってこようと思ってねぇ。お、丁度どうだいシフ? 君も一緒に入らないかい?」
王様は肩をトントンと叩きながら、僕に向けてゆっくりウィンクしてくる。ふざけて誘ってるわけじゃない、何か話しがあるようだ。
「……お供させていただきます」
僕も今後について話がしたい、丁度良い機会だ。
「女子組も、夕飯前に入ったらどうだい?」
「そうだね! じゃあサフィア、私達も入ろう!」
「あぁ素晴らしい、是非一緒に」
「ルビ、何かあったら大声で叫ぶんだよ」
「大丈夫だよ、サフィアがいるから!」
違うんだ、大丈夫だと思っている人が、大丈夫じゃない原因なんだ……
そうしてサフィアとルビの2人は、一足先に浴場へと向かった。
「いいんですか? 実の娘をあんな変態と一緒にさせて」
「大丈夫、アメトにも風呂行かせたから。それより、わざわざあんがとね、誘いに乗ってくれて」
「……そこそこ重要な話があるのでしょう?」
「流石、話が早くて助かるよ。ま、続きは風呂の中で語り合おうじゃないか」
王様はそう言って、浴場へと歩き出した。
「僕は後から行きますよ」
「えー、なんで? 一緒に行こうじゃん、寂しいじゃん」
「100歩譲って、僕がルビと遊んでいるのは友達とかに見えなくもないですが、王様の隣を歩くと、僕自身が怪しまれますよ? 王宮でも極一部の人にしか姿を見せてないとは言え、死んだ人間なんですから」
「へーきへーき、親戚の子って言ってるから」
「……いやそれ、王族ってことになるじゃないですか!?」
「だって君盗賊でしょ? 韻を踏んでるから、一緒っしょ?」
「ラップ感覚で言ったら、王族が世界で溢れかえりますよ……」
「あっはっは! そりゃそうか、でも嫁いで……いや婿に来てくれるのは割とウェルカムなんだけど」
「またそんなこと言って……お姫様なんだから、そういうのは由緒ある人と……」
「え、でも余の相手は居酒屋の女将だよ」
「えぇ!? ルビって居酒屋の娘でもあるの!?」
「そそ、だから血筋なんて気にせんでええんやで」
「だ、だとしても、自分で言うのもなんですが、犯罪者である盗賊なんかに……どっかの王子様とかの方がいいですって」
「いやね、見合いのオファーはいくつか来てるよ。でもさ、まだルビは13歳よ? なのに結婚したいって、権力狙いか生粋のロリコンだけだから。それに、君みたいな子供が望んで盗賊になるなんてないと思うけどなぁ」
「……」
「ボディガードにもなるし、本人がいい感じなら、全然オッケーよ。ま、無理強いせんけどね」
「……も、もし、仮にですよ? ルビがOKしてくれて、僕が婿になったら……」
「お?」
「……いっぱい働かされるんですよね?」
「そこかいっ!?」