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盗賊少年と王様

 勇者サフィアが他人のベッドでよからぬことをした、次の日の朝を迎える。


「本当に悪かったよ、シフ。だから機嫌を直してくれ」

「……そう簡単に許しませんよ、僕だって怒る時は怒るんですから」


 あの後、僕はあまりサフィアと口を聞かないようにしている。それを見兼ねて、サフィアは謝ってくれている。内心はそこまで怒ってるわけではない。襲わなくなっただけ、進歩はしていると思っている。


 僕が魔王討伐前に検挙して以降、少なからずサフィアは変化した。このことから、ちゃんと嫌だと怒りを見せつければ、多少はわかってはくれると学んだ。つまり、こうやって態度に表せればいい。


「……そうか、ひどく傷つけてしまったようだな」

サフィアは明らかに落ち込んでいる。よしよし、順調だ。少し気が引けるが、このまま罪悪感を育んでいこう。


「あ、それなら私が寝たソファで、同じことをしてくれて構わない! むしろ大歓迎だ!」

「やりません! 第一したことなんてないですから!!」

 くっ、あまり変わってない。ちょっと怒り方が弱かったか……


「……何? したことないのかシフは……? 本当にやっていないのか!?」

「あ、しまっ……って何でそんなに食いついてくるんですか!?」

「なんてことだ! シフの身体は他人はおろか、自分ですら汚してないとは!!」

「いや自分で汚すって言わないでしょ!?」


「これは辛抱たまらん! 嫌なのは充分承知しているが、その無垢な身体に触れさせて……いや! 匂いだけでも嗅がせてくれ!!」


「やめてくださいこの性犯罪者!!」

「うがぁぁ!?」

サフィアの身体が硬直し、床に崩れ落ちる。魔刻印の効果だ……にしても、久々に恐怖を感じた。


「ハァハァ、シフにこの痛みを与えられていると思うと、悪くないかもしれん……」


あ、ダメだこれ。魔刻印に頼りすぎると、罰の仕打ちからご褒美になりかねえない。多用は控えよう……


 そうこうしてるうちに、窓際からカタッと音がする。そちらの方へ目を向けると、1匹の鳩が止まっている。足には紙が結び付けられている。


「あ、私宛ての鳩だ」

 サフィアはそう言って、鳩に近寄る。勇者用の伝書鳩のようだ。


「ふむふむ、どうやら至急に王宮へと向かわねばならぬようだ」

「そうですか、いってらっしゃい」

 このタイミングでサフィアから離れられるのは、ラッキーだ。上手くいけば、今日一日はセクハラから逃れらる。


「いや、シフも一緒にとのことだ」

「……何ですって」


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


靴を脱いで、王宮内の王の書斎に入る。またどうせ、アメトさんからのお願いだろうと思っていたら、なんと今回は現カンダル国王が直々に呼び出してきた。それなりに大事なのだろう。まぁそれでも大体察しはついているが……


「来たか、サフィア。シフも、よく来てくれた」

 厳格な顔つきに、長い髭を蓄えた王様が口を開く。その横にはアメトさんがいて、片膝をついて頭を下げている。

「勇者サフィア、馳せ参じました」

「お久しぶりです、王様」

アメトさん同様、僕とサフィアも頭を下げる。さて、こんな真面目な雰囲気がいつまで続くだろうか……


「お久、シフ! それに崩していいって! こっちが疲れちゃうわ! アメト、茶出して茶っ!」

王様はニカッと笑いながら、チャラく言う。真面目な雰囲気なんて1秒も持たなかった……


「相変わらずですね、王様……」

この人は顔に似合わず、王としても相応しくないくらいフランクなのだ。


なんでも、昔のカンダル王国の内政は厳粛で、それ故に民の苦情も多く、「つまらない国」とすら言われていた。それを何とか変えようと色々あって、こんな王様になっている。それでも、魔王軍討伐を代々担ってきたカンダル王国で、現国王が初めて魔王を討伐した。


僕がやったことだけど、そもそも声がかからなかったら何もしていない。王としての采配は見事かもしれない……いやでも、あんな問題児ばかり集めて魔王を討伐しようとしたから、やはりダメかもしれない。


「崩していいそうだシフ、私が膝枕してやろう」

「ちょっと発声しないでください」

「いつになくサフィア様に厳しいですね、シフ君。まぁ大体何があったか想像できますが」


「僕のベッドで勝手に自慰行為してました」

「ごめんなさい、全然想像できてませんでした」

「いやほんと、君らも相変わらず賑やかだねぇ! さてさて、何で呼んだかと言うとさ……」


「近々行う、各国の王族会議が絡んでるのでしょう?」

サフィアが前に言っていたことだ。王宮内も慌ただしく、見張りの兵も気を張り詰めていた。


「大アッタリ! うちが開催国だからさぁ、絶対何かやらかしてくるよ、多分」

「自国の陰謀の次は、他国とのしがらみですか……」

「まぁね」

「まぁね、じゃあないでしょう!? そんなゆるふわだから、大臣とかがクーデター起こそうとするんですって……」


「あっはっは! いやまぁこの前はありがとね、助かったよ。んでもって、今回もルビの相手と護衛を頼むよ」

「……あれ? そんなことですか?」


てっきり、他国の重要人物を仕留めたり、不正の事実を掴んでこいとか……


「おほぉ、余の娘をそんなこと扱いとは言うではないか! うちの娘はやっても、そう簡単にはヤらせはせんぞい!」

「王としても、親としても言っていいジョークじゃないでしょ!!」


「なら私も含めて3ぴ」

「発声しないでって言いましたよね?」

「う、うむ、すまなかった……」

本気で殺気を出して、サフィアを牽制する。はっちゃけた王様に、サフィアの変態が加わると収拾がつかなくなる。もう話を進めさせてほしい。


「うはっ、こっわぁ……でもその分頼りにしてるよ!」

「……でも王様、ルビも王族会議に出るんでしょ? 護衛はともかく、相手をする時間はないのでは……?」

「おっおっ? 呼び捨て? もう俺の女扱いかよぉ!」

「王様、ぶっ飛ばしますよ?」

「シフ君、気持ちはわかりますが、殺気を抑えてください。きっと周りの兵達も怯えますから」


「前に同じようなからかい方した人が、何を言ってるんですか……」

「めんごめんごっ! いやね、ルビも緊張しちゃってるのよ。だから今から相手してくんない? ほら、大人は忙しくってね」


「……わかりました、そういうことなら引き受けます」

「あっれぇ? アメトぉ、こんなあっさりと引き受けたんなら、余から頼まなくてもよかったんじゃね?」

「まぁ私が楽をしたかっただけなんで」

「本当にブレないですね……」


「んじゃま、よろしこ。あ、サフィアも王宮内に滞在しておくれ。万が一に備えてな」

「かしこまりました」

「それじゃあ失礼します、王様」

「うぃ。ルビは隣にいるから」


王の書斎を後にして、隣の部屋へと移ろうとすると、何故かサフィアも付いてくる。

「……何でサフィアまで?」

「私に命じられたのは、あくまで滞在だ。つまり、いれば好きにしていいとのことだ。好きな者とな」


「……言っときますけど、ルビに変なことしないでくださいよ」

「何を言う、ルビ姫様と私は仲がいいぞ」

「それは心配だ」


 そんなやりとりをしながら、ルビがいる部屋の扉にノックする。

「ルビ、遊びに来たよ」

 すると、少ししてからおそるおそる扉が開き、震えたルビが出てくる。


「ど、どうしたのルビ?」


「あ、シフ君……実はついさっき、隣からものすごい寒気と言うか、何か恐怖を感じて……」


「……あぁ、ごめん……」

 それやったの、僕だわ。


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