盗賊少年の女難
「いっ!? そんなの無理だ……あなたが襲う以上、僕は関わりたくない……」
「つまり、襲わなければ関わってもいいと」
「でもそれは絶対に不可能じゃ……」
「いいやシフ! これを見てくれ!」
そう言ってサフィアは、自身の襟を掴んで肌を見せようとしてくる。
「な、何を!? こ、この痴女!」
「大丈夫ですシフ君。見ていいとこしか露出してないので」
背けた目を、恐る恐るサフィアへと戻す。すると、右肩に黒い文字が丸く刻まれてる。
「どこかで見たような……」
「魔刻印です。好きな条件を思い込みながら刻むと、激痛が走って思わず身動きが取れなくる代物です。主に奴隷や捕虜に使われますね」
「そして、私が選んだ条件とは『シフが嫌がる行い』だ! これで私は理性が外れても、襲えないのだ!」
さっき近寄ってきて止まったのは、その影響だったのか……というか理性外れるのを自覚してるんだ……
「……どうしてそこまでして、前のように戻りたいんですか?」
「それはその、さっきも言ったであろう……そ、そなたが、す、好きだと……」
「なっ!?」
そんな恥ずかしがって言われると、こっちまで恥ずかしい……
「さて、シフ君。あなたはサフィア様とそれなら一緒にいれますか?」
「いや……えっと……」
気持ちの整理がつかない、つくはずがない。今までのことがある。そう簡単に割り切れるもんじゃない。それに告白されて、ここで僕も戻りたいって言ったら、サフィアと同じ……
「シフ……」
サフィアが不安そうにこっちを見つめ。
そんな顔されたら、突っぱねにくい。だけど何て言ったらいいのか……
「シフ君、少しアドバイスです」
小声でアメトさんが囁いてくる。
「迷われているのなら、それを伝えてみるのもありですよ」
迷っていることをか……
「……サフィア、僕はどうしたらいいかわからない。あなたが変態と知った今、前のように接するのは無理がある……でも、あなたに恩もあるし、襲ってこないなら一緒にいても構わないとも思ってるんです」
「ほ、本当か!!」
サフィアは嬉しそうに食いつく。変に気を許したら、危なそうかもしれない……
「でも、魔刻印の制御があるからといって、それを耐えて襲ってくるのも、サフィアならありえそうなんですが……」
「うむ、その可能性は否定できんな。十分注意してくれ」
「そこは自信持って否定してくださいよ!?」
「さて、結論が出たところで、今日はお開きにしましょう。ぶっちゃけもう眠いです」
「ぶっちゃけた本人が仕組んだことなのに、よく言いますね……」
「でもお互いの望みは少なくからず、解消されたはずです。シフ君だって、毎日襲われるかビクビクするよりいいでしょう」
内緒にされていたとはいえ、アメトさんなりに考えてくれたのだろう。裏切り者だと考えてたけど、少し反省しよう。やっぱり良い人だ、この人。
「それなら帰るとしよう。シフ、是非魔王との話を聞かせてくれ」
「僕に同情してくれて、それでも尚悪役を演じようとした、素晴らしい方です」
「ベタ褒めじゃないですか」
久々に勇者サフィアとまともに会話し、カンダル王国へと帰っていった。いつもの宿屋に着き、アメトさんと別れを告げようとする。
「アメト隊長、此度の仲介感謝する」
「……突然のことでしたけど、悩みは解決できたので、ありがとうございます」
「いいえ、感謝を言われる筋合いはございません。それでは2人とも、ごゆっくりと」
そう言い残して、アメトさんは帰っていった。これだけのことをして、謙遜するなんて……何て良い人なんだろうか。
「ではシフ、部屋へと行くか」
「そうですね……え?」
うん? この人泊まる気? 僕の部屋に?
「ちょっと何を言ってるかわかりませんね。サフィアは別のところに泊まる場所があるでしょう?」
「そうか、言い忘れてたな。私もVIPパスポートをもらったのだ。ほれ」
サフィアが見せてきたのは、僕が持ってるパスポートカード、部屋番号まで全く一緒なものだった。
「え……? なんで!?」
「今後の親交を深めるため、側にいても、襲わないということを証明するためだ。それと、アメト隊長にも許可はもらった。なんでも、高級宿を1人で使わせるのも、勿体ないという声があったみたいでな。そこで私も住ませれば、私の宿泊費もなくなって一石二鳥ということだった」
「そ、そんな……」
さっきのアメトさんが言ってた、感謝される筋合いはないって、謙遜じゃなくてこのことがあるから……!
「というわけで、これからもよろしく頼む。……ハァ、懐かしいな。シフと一夜を共に過ごす日々がまた訪れるとは……堪らん」
うっとりした表情で吐息を漏らすサフィア。
嘘だろ、アメトさん……最後にとんでもない置き土産を残して行ったなんて……
「この……裏切り者がぁぁぁ!!」