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盗賊少年と女勇者の再開

「サ、サフィア……」

「シフ……やっと会えた……やっと会えたぞシフッ!!」

 サフィアは凛々しい表情から一転し、目を輝かせ、満面の笑みで近づいてくる。


「ヒッ……く、来るなぁ!」

「サフィア様、まずやるべきことがあるでしょう」

「ぐぁっ!? ……う、うむ、そうであった」

 一瞬顔をしかめ、ビクッと身体を怯ませて、サフィアは止まった。


 状況がよくわからない。今のサフィアの行動は何だ……? それに、止まれたのに驚きを隠せない。今まで何と言おうと、躊躇なく襲ってきたサフィアだが、中断するなんて初めての光景だ。


そして、アメトさんも謎だ。明らかにサフィアと内通してる口ぶりだ。今こうやって、肩を掴まれてるのは、僕を逃げないようにするためだろう。しかし、そんなに力強くない。本気で逃げ出そうと思えば、逃げ出せる。しかも、勇者が近づいてきたのを注意するよう、割って入ってきた。本当に和解させるようとしてるのか……?


「一体これは……?」

 思わず、アメトさんの方を見上げて言う。そして、マスクで隠してるものの、アメトさんはにっこりと笑ったように答える。


「まぁ聞いてやってください」

 サフィアはその場で片膝をつき、頭を下げる。

「シフ……今までの非礼、本当にすまなかった!!」


「な、謝った……? 今までなら謝ったところで一目散に襲ってきた、あのサフィアが……襲うのを中断してまで謝るなんて!?」

「謝罪が違う意味で響いてますね、これ」


「それと……私に代わり魔王を討伐してくれたこと、深く感謝している」

「……」


 な、なんて言えばいいのだろうか……そんなの別にいいよ、と簡単に水に流せることではない。ただ、こうも改めて謝罪と感謝を述べられると、今までのことを怒る気にもならない……


「シフ君、何か言ってあげてください」

頭を下げたままのサフィアを見かねてか、アメトさんが催促してくる。


「えっと、でも……」

「今までのシフ君の気持ちを、正直に伝えるだけでいいんです。良いことも悪いことも。これからはこうして欲しいことも」


 正直に……か。せっかくの機会かもしれない。こうやって真剣にサフィアとやりとりすることは……


「サフィア……僕も少なからず感謝はしている。僕にとって、他人に優しくされたのは、あなたが初めてだった。そればかりか、色々教えてくれた。言葉遣いも、この世界の常識も。あなたがいてくれたから、スラム出身の盗賊だった僕が、真っ当に生きられてるかもしれない」


「シ、シフ……!!」

サフィアは涙目で、喜んでいる。嘘は言ってない。これは本心だ。ただ、他に言いたいことが山ほどある。


「だからこそ、あなたが獣のように襲ってきたのは、とても幻滅しました。はっきり言ってトラウマです」


「うぅ……」

さっきとは打って変わって、落胆するサフィア。でもこれは、氷山の一角に過ぎない。


「それでも、ド変態という点を除けば、仲間の中では一番まともでした。一緒にキャンプ作りや、宿の確保、食料準備といった面倒ごとをやってくれたので。ですが、いつ手を出してくるかビクビクし、いやらしい目つきに背筋は凍ってたけど。


さらに、最後は本当に頭にきました。ただでさえ、仲間が次々といなくなった挙句、仲間内で戦うことになり、うんざりしてました。そこに、『勝利と魔王討伐に向けて英気を養おう』、とか言って襲ってきたのは、我慢の限界だったんです。だから、共闘して魔王を討伐するよりも、検挙を選んだ」


「そ、それは……」

「うわぁ」

「魔王を1人で倒しに行ったのも、8割は八つ当たりです」

「魔王を軽んじてません?」


「他にも、媚薬を食事に盛って、僕を発情させた時なんてーー」

「シフ君ストップストップ。もうサフィア様のライフはゼロです」


 サフィアの方を見ると、真っ白になったように意気消沈している。でも、少しスッキリした。


「それじゃあ、サフィア様の言い分も聞いてあげてください」

「……うん」

 謝罪された後、あれだけ言ってしまったのだ。少しは耳を傾けないと……


「私は……勇者として戦いに明け暮れていた。私が、1人の女性として生きる望みなんてなかった」

「……」

 サフィアが重々しく口を開く。常に凛として、時に変態な勇者にも、暗い一面が……


「そこに現れたのが、愛くるしいほど可愛いそなただった……シフゥ!! そなたは私にとって新たな光だ! そなたは私にとってのペアだ!!」


「すいません、帰っていいですか?」

「落ち着いてください2人とも」


「ハッ、すまない……私はシフのことを弟みたいに思っていてな。最初はこの関係を崩したくなかった。でもいてもたってもいられなくて、つい……それに関係を持ってしまえば、後は長続きするという、俗世の本を読んでな」


「そんなの大間違いですから!!」

「さてこれで、誤解も解けたことですし」

「何一つ解けてないんですが?」


「まぁ、過去は過去です。お次はサフィア様とシフ君が、お互いどうなってほしいかですね」

「どうって言われても……」

 襲わないでほしい、その一言につきる。だが、自制できてないサフィアが、それを受け入れられるとは思えない。話し合ったところで……


「私は前の姉弟のように戻りたい」


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