盗賊少年と野盗退治
洞窟に追い込まれた野盗は、5人外に出て見張りをしている。それを僕達は遠くから観察している。
「見張りを倒して、催眠ガスを投げ込めば、お終いです」
「これいよいよ私いらないんじゃ……」
「後は痺れ針があるので、これを一斉に当てれば、騒がれることなく一網打尽です」
対勇者用に仕掛けた罠を、余っていたので持ってきた。罠にかかってなかったとはいえ、もう見破られているだろう。それなら他に有効な使い方をした方がいい。
「……至れり尽くせりというか、私の出番がないというか」
「じゃあ僕は勇者が来るか見張るので、アメトさんが全員仕留めれば、丁度いいんじゃ」
「なんなら役割を逆にしてもいいですよ」
「いえ僕の方が、勇者の気配がわかります。何度も襲われてるので、すぐ察知できますか
ら」
「流石、歴戦のストーカー被害者」
「そんな肩書きやめてくださいよ!?」
アメトさんはそう言い残し、洞窟の方へと向かう。木の枝の上を渡って行き、空中から痺れ針を放つ。そして、見張り全員が一気に倒れた。
普段は少しおちゃらけているが、隠密部隊隊長は伊達じゃない。綺麗な早技だった。魔王討伐の冒険時に居てくれたら、どんなに心強く、頼れただろうか。
「ハァ、アメトさんが魔王討伐の冒険に居てくれたらなぁ……」
「声に漏れてますよ? それに前にも言いましたが、私は正面から戦うのは得意ではないので」
「得意じゃないだけで、できなくはないってことでしょう? もしくは魔王含め、全員暗殺していけばいい話ですし」
「うわ、夢のない冒険話になりますよそれ」
そう言いつつ、洞窟の中へ催眠ガス用の粉塵をばら撒く。
「よし、後は野盗が寝てる内に、金品を奪い取れば……」
「シフ君、今回の趣旨が違います。後は閉じ込めて軍に渡せばいいだけですから」
「し、しまった……つい昔の癖が……!」
「根っからの盗賊ですね。まぁほとんどシフ君がやってくれたもんですし、報酬に色はつけますよ」
そう言ってアメトさんは、洞窟入り口の天井に火薬を仕込む。バンッと火薬が弾ける音とともに、天井が崩れ、入り口が岩で塞がれる。
「よし、それじゃあ対応策を一緒に考えてください! お願いします!」
「まぁ一応考えてはきたのですが……」
「ほ、本当ですか!? 」
し、信じられない。そこまで真面目そうな人には見えなかったし、今まで僕のことを考えてくれた人なんて全くいない。振り回されるだけの人生だったのに、ここに救世主が……
そう思うのも束の間、微かな地の振動と足音が遠くからやってくる。
「なっ……来る、あの人が……」
足が震える。今は迎え撃つ準備はしていない。匂いを誤魔化す処置だけだ。逃げないと早く……!
「なんだ、もう来ちゃったんですか」
……なんだ、アメトさんの今の発言がおかしい。いずれ来ることがわかっててるような……?
アメトさんは僕の後ろに回り、ポンッと両肩に手を置く。
「私が考えた案は、和解です」
「……え?」
今この人なんて言った? 和解? あの見れば襲ってくる変態勇者と……?
「正気ですか……? 破壊じゃなくて和解?」
「怖いですよ」
「ダ、ダメだ、通用するわけがないっ! 今までどんなに語りかけても……!」
「まぁ落ち着いてください、ちゃんと私が間を取り持つので。それに、サフィア様は少なからず、反省はしていましたよ」
「は、反省……?」
反省だって……今まで謝られたことはあれど、すぐ手を出してくる変態勇者が……?
「う、嘘だっ!? そんなわけがない!」
「信じられないと思いますが、本当のことです。考えてもみてください、魔王討伐前に検挙され、シフ君1人で魔王を討伐される。変態でも勇者、それで何も関心がないとは思えないでしょう」
「……だ、だとしても! 勇者でも変態、反省を上回る性欲が……」
「ちゃんとそこも、対応はしています。……そして、時間稼ぎもここまでみたいですね」
「し、しまった!」
近づいて来た勇者が、目の前に着地する。水色の短髪を揺らし、スッと面を上げる。蒼い瞳に、凛々しい顔立ち。
間違いないーー勇者サフィアだ。