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ふわふわ

作者: 織墓

初めて書いた小説です。チラシの裏みたいなもんですが的確なアドバイスがあると嬉しくおもいます。

 飛んでいる。空高くから落とされているのを飛んでいる、あるいは高いビルから落ちたのを飛んでいると感じているのではない。ただ単に浮いているわけでもなく。飛んでいる。


『自力で、または他からの力を受けて、地面を離れて空中を進む。』


 という辞書通りの意味で俺は飛んでいる。ただ、自由にどこへでも飛べるわけではない。空高く飛ぼうにも体の自由はきかない。動かせるのは頭だけで他の部位は動かせないのだ。

感覚もない。暑いとか寒いとかいう感覚もない。体調が良い悪いという感覚もない。どうやら視力はある。顔が動かせる範囲内ならば目で見ることができる。

 目で確認できるのはおそらく夏だということ。そして飛んでいるのは川の上を飛んでいるということ。その川は自宅すぐそばの汚い川であるということだ。


 川べりで釣り糸を垂らしている人の服装が夏のものであることで夏であるということがわかった。飛んでいる場所から見えるパチンコ屋の派手な看板や、道路などから自宅付近の川であることが考えられた。


 しかし、なぜ、俺が飛んでいるのか。それもこんな汚い川のすれすれのところを飛ばなければならないのかはわからない。気がついたら飛んでいたとしか言いようがない。

 だが、すべての記憶を失ったわけではない。自分の名前、家族構成、現住所などなどのことはすらすらと思いだせる。ただ、自分がなぜ飛んでいるのか。その理由だけがわからない。


 飛んでいて不思議に思ったことがあった。釣りをしている50代後半から60代前半にかけての初老の男、集団で自転車をこいでいる小学生、橋の下で寝ているホームレスなどの様々な人間に飛んでいるのを見られているのに誰も俺には見向きもしない、驚きもしない。

 これで、もうひとつわかった。俺は頭以外動かせないことと感覚がないこと視力があることそして他人からは見えないということだ。見えていたら相当の騒ぎになるだろうが、騒ぎは見た限り起きていない。どうやら見えていないというのは間違いではないようだ。


 ふと、一人の男が川べりにいたのが目に入った。中学時代の同窓生のようだ。顔に面影がある。おそらく、中学時代は『やんちゃ』していた奴だ。俺もかつあげされたことがあるし、喧嘩沙汰になったことがあった。正直、いい思い出がある奴ではない。

 風の噂で聞いたところ、高校在学中に同級生を孕ませ、そのまま学校を辞めて結婚したらしい。学校を辞めてからは親の経営する中小企業で働いている。同窓会などにも積極的に顔を出し、今では良いパパとして知れ渡っている。


 よく見ると奴の隣に小学校低学年ほどの子供がいる。おそらく奴に子供であろう。奴の子供は釣りをしていた。奴は餌のつけ方などを子供に教えたりしている。この川は汚いがハゼなどの小さな魚が取れるので時折釣りにくる人もいる。先ほどの初老の男もそんな人のうちの一人だろう。

 奴の子供がもっていた竿が動いた。どうやら魚が食いついたようだ。必死になって引っ張る子供。頭をなでている奴の姿。幸せそうだった。


 そのあとも、俺は空を飛び続けた。飛びたくて飛んでいるわけじゃないが、体の自由がきかないので飛び続けるしかない。いつのまにかあたりは暗くなった。釣り人もいなくなった。


 そんなとき、ふと一人の男を見かけた。今度は高校の時の同窓生だ。さっきの奴とは別人で、やんちゃをしていたわけではない。ただ別段親しかったわけでもない。ただ、同じクラスになったというだけの奴だ。奴は、クラスのまとめ役のような存在だった。学校行事では常に中心にいて物事を決めていた。高一の学園祭の催しが合唱になったのは奴の提案だった。

 俺は奴が苦手なやつではあった。勝手に合唱の時は朝練をさせたり、クラスを無理やりまとめようとしたり。昔から俺はそういう奴が苦手だった。そんな奴に唯一勝てるのが勉強だった。ほとんどの科目で赤点ばかりの奴に唯一勝てる点は勉強だけだった。


 無論、そんな奴だ。大学受験も失敗した。二浪してようやく、名前も知らないような大学に入ったらしいということを聞いた。だが、奴の生活は充実していた。私生活では女を欠かしたことがなく、人間関係も男女ともきわめて良好。嫌っている奴など俺だけみたいなものだった。その上、大学入学後は大学近くへ引っ越した。無論、親からの大量の仕送りと欠かしたことのない女の助けがあってできる一人暮らしである。

 ともかく、奴は恵まれた。勉強以外のことはほとんどでき、人間関係も良好、家も裕福だった。

 

 そんな奴が目に入った。どうやら電話をしているらしい。ニヤニヤと笑いながら話しているところを見ると女が相手のようだ。どこかぎこちないスーツ姿でいるところからおそらく、就職活動の帰りのようだ。視力はあるが音は聞こえない俺が電話で何を話しているのかを聞くことはできないが表情から楽しそうなのがうかがえた。幸せそうだった。


 また明るくなった。夜が明けたのだろう。ジョギングをする老人や、散歩をする中年の女性が見受けられた。


 また知り合いが目にとまった。奴も高校の同級生だった。奴は非常にまじめな奴だった。まじめに聞く生徒などいない高校の授業も彼はまじめに聞き、熱心にノートをとっていた。毎週月曜日に設けられた質問の時間には必ず先生のもとを訪ね、わからないところなどを聞きに行っていた。ただ努力は結果に必ずしも結びつかなかった。テストの結果はすべて芳しくなかった。誰よりもまじめに授業をうけ、ノートをしっかり書き留めていたにもかかわらず、良い成績とは言えなかった。学校行事や他人とのコミュニケーションも苦手ですべてがすべて空回りしていた。


 高校卒業後、奴がどうなったかは知らなかったが、角刈り、濃いひげは印象的ですぐに奴だとわかった。奴は浮かない顔をしていた。前の二人のやつらとは明らかに違う。幸せそうだった。とは言えなかった。うつむいた表情、服装はお世辞にもきれいとは言えない格好だった。


 奴のとなりに木があった。大きさはあまり大きくない子供が木登りするのにちょうどよいくらいの大きさの木だ。奴はその木に縄をくくりつけ始めた。その辺りから見えなくなった。常に飛んでいるため、奴から俺はどんどん遠ざかっていく。遠くからでは何をしているのかは見えないが察しはついた。


 まじめにやってきた奴は死んだのだと思う。自ら首をつって。まじめにやってきた奴だけ首をくくった。遊んで生きてきた奴。親の金にかじりついて女に養ってもらった奴が幸せそうに生きていた。


 あほらしくなった。俺はどうだろう。いつまで飛んでいればいいのだろう。川のすれすれをいつまでふわふわ飛んでいれば良いのだろう。三人の生きざまを見てきたが結局俺はわからなかった。自分がどうすればいいのか。答えは出せなかった。今日も俺は誰からも気づかれずに川のスレスレを飛んでいる。


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