第43話 コロネ、再び『夜の森』に挑む/(騒がしきものたち)
「それじゃあ、ショコラ、お願い」
「ぷるるっ!」
一夜明けて、また『夜の森』の入り口までやってきたよ。
昨日、『果樹園』でレイさんに教わったこと、助言を受けたことを頭にしっかりと入れて、もう一度、この『森』の迷路に挑戦するよ。
まず、どっちの方向に進むかは、ショコラに頼ることにした。
もし仮に『幻影』を見せられているとしたら、わたしの見えている景色自体が当てにならないからね。
だったら、最初からショコラに先導してもらう方がいいよ。
『任せて!』と言わんばかりに、ぴょんぴょんと地面を跳ねながら進んでいくショコラ。
そのスピードがゆっくりなのは、わたしに合わせてくれているからだね。
ショコラだけだったら、身体の反動を利用した大ジャンプとかもできるから、実はけっこう早く進めたりもするんだ。
粘性種特有の移動方法として、ショコラがボール君から教わったんだよね。
何となく、ボール君もショコラに対してお兄さんぶってたりして、どこかほのぼのする光景だったり。
それはそれとして。
「今度こそ、お店までたどり着くよ!」
「ぷるるーん!」
◆◆◆◆◆◆
「ありゃ、また来たねー」
「また来たね」
「でも、あんまり強くないよ?」
「頼りなさそうだもんね」
「……じゃあ、いじめない?」
「うん、その心配はなさそうだね」
「こわくない?」
「こわくない、こわくない」
「でも、弱そうだよ?」
「だからいいんじゃないの?」
「でも、それだと、僕らが会うための許可がおりなさそうだよ?」
「うーん……せめて、僕らの『森』に入れるぐらいじゃないとねえ。グリードは笑って許してくれそうだけど、フローラがだめっていいそうだよ?」
「むずかしいね」
「うん、むずかしい」
「ドロシーが言ってたよ。甘くてとってもおいしいものをつくる人だって」
「言ってた言ってた。甘いもの」
「甘いのー?」
「うん、そうだって」
「それって、くだもの?」
「くだものもだけど、くだものだけじゃないって」
「ふうん、たべてみたい」
「だから、ダメだってば」
「今のまま会ったら、フローラに怒られちゃうよ」
「ぜんにんってだけだと、とらぶるを『森』に持ち込むんだって」
「いいひとってだけじゃダメなの?」
「だめだね。前にそういう人を『森』で受け入れて、ひどい目にあったんだって」
「むずかしいね」
「うん、むずかしい」
「じゃあ、だれならいいの?」
「ドロシーとか、オサムとか」
「強くて優しくておいしいひと、ならいいんじゃない?」
「ふうん」
「あれっ……?」
「うん? どうした?」
「今日は、最初の道を正しいほうに進んでるよ?」
「へえ?」
「ふうん?」
「それって、もしかして……?」
「うんうん、もしかするかもね!」
「……いじめない?」
「だいじょうぶじゃない?」
「あれれっ?」
「どうしたのー?」
「あのこ、へんなものを道に置いていってるよ?」
「へんなもの?」
「変なもの?」
「ちょっとちょっと、わたしたち見えてないんだから、教えてよ」
「そう言われても、へんなものなんだもの」
「……もうちょっと、みんなで近づいてみる?」
「うん!」
「それがいいねっ!」
◆◆◆◆◆◆
「うん、これをちょっと試してみようね」
「ぷるるっ♪」
レイさんに教わった『森』の迷路の可能性のひとつ。
同じところをぐるぐると回らされているかも知れない、って。
確か、仙人さんの技術で作った『陣』だと、そういうことが起こったりするんだよね?
右に曲がっても、左に曲がっても、いつの間にか元の場所に戻ってしまう、って。
だから、そのための手段として。
「一定間隔にボンボンチョコレートをまいていくよ」
「ぷるるーん!」
『チョコ魔法』で出したチョコレートを目印に置いて――――と。
もしかすると、これ、ヘンゼルとグレーテルのお話みたいに、鳥や動物……あとは魔獣さんに食べられちゃう可能性もあるけど。
うん。
それなら、それでいいんだよ。
それも含めて、わたしの狙いのひとつだからね。
とりあえずはショコラを信じて、『森』の奥へと進んでいくよ。
「じゃあ、ショコラ、次はどっちに行けばいいの?」
「ぷるるーん! ぷるるっ!」
現れた右と左の分かれ道の前にぴょんぴょんと近づいていくショコラ。
そして――――。
「えっ!? ショコラ、そっち!?」
「ぷるるーん♪」
ショコラが選んだのは、右でも左でもなくまっすぐ、茂みの中へと進んでいくという選択だった。
うん。
やっぱり、この『森』って……。
「どうやら、レイさんが言っていたことが正しかった、ってことかな?」
「ぷるるーん!」
◆◆◆◆◆◆
「……行っちゃったね」
「うん、行っちゃった」
「ねえねえ、これ、なんだろ?」
「土?」
「土じゃないよ、ノームのぼくが言うんだから、間違いないよ」
コロネたちが茂みの奥に消えたあと、わらわらとゆっくり姿を現したのは、この『森』に住む、単なる動物系の魔獣でもなければ、虫系の魔獣でもなく。
『彼ら』の姿は何かの『生き物』に似た形だったり、ゆらゆらと揺らめく魂のような、煙のような姿だったり、と千差万別だった。
同一の種族でありながら、個々で、バリエーションに富んだ姿を持つ種族。
『彼ら』のことを人はこう呼んでいる。
――――『精霊種』、と。
無邪気でいたずら好き。
天真爛漫な騒々しいものたち。
だが、その本質は。
自然の現身、である。
時に穏やかで、時に荒々しく。
純粋であるがゆえに、警戒心が強い。
だが――――。
「あっ! これ、甘い匂いがするよっ!?」
「本当っ!?」
それと同時に、甘い果実を主食とする。
甘くておいしいものに目がない種族でもあった――――。