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ちょこっと! パティシエ少女は異世界でおどる  作者: 笹桔梗
第3章 新米パティシエ、お店を持つ
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第42話 コロネ、相談する

 かわいい『はぐモン』たちとのふれあいで心は癒されたけど。

 やっぱり、根本的な問題は解決していないんだよね。


 レイさんの能力で『果樹園』の『北門』まですぐのところへと飛ぶことができたので、そこで『足』となってくれた『カールクン1号』さんとは別れて、今は門に向かって歩いているところなんだけど。

 癒しの時間が終わった後、再び解決しないといけない問題が頭をよぎる。


 さて。


 『夜の森』を通って、どうやって自分のお店までたどり着くか。

 この難題に対応しないとお店を開けないのだ。

 毎回変化するのは『森』の様子だよね?

 うーん……。

 どうすれば、変化する迷い道を通過できるんだろう?


「コロネちゃん、どうしました? 浮かない顔をしていますけど?」


 わたしが頭を悩ませていると、横を一緒に歩いていたレイさんから、こちらを心配する声をかけられた。

 うん……そうだね。

 レイさんもすごい能力の持ち主だし、相談してみるのも悪くないよね?

 せっかくの機会なので、ちょっと聞いてみようか。


「レイさん」

「はい、なんでしょう?」

「レイさんは『夜の森』って聞いたことはありますか?」

「ああ、はい。訪れたことはありませんがね。その存在はしっかりと認識していますよ。『果樹園(うち)』にとってもご近所さんですしね」


 うん。

 やっぱり、レイさんは『知っている人』だね。

 オサムさんの話だと、『夜の森』については存在自体を知らない人も多い、って言ってたけど、レイさんはそうじゃないってことだ。


 だったら。


「わたし、『夜の森』の入り口付近で迷ってしまって、奥にある集落にたどり着けないんですが、何かお知恵をお借りすることってできますか?」

「そうですね……」


 訪れたことがないレイさんだと難しいかもしれない。

 けど、わらをもすがる思いで聞いてみた。

 お菓子を売るお店を作るところまではできたけど、今度はそこまでたどり着けなくなってしまった、という一連の流れも説明した。


「なるほど……あの『森』はルナルちゃんの管轄ですよね? おそらく、管理者権限による妨害ではないでしょう。それでしたら、そもそもコロネちゃんを『森』に入れようとはしないはずです。ドロシーちゃんが無理を言ってお願いしても、それに押されるような『使い魔()』じゃありませんしね」

「その、ルナルさんというのが、ドロシーの――?」

「わたしが知る限りでは召喚獣のはずです。ふふ、コロネちゃんとショコラちゃんの関係と同じですね」


 そうだったんだ?

 だから、ドロシーもショコラが生まれた時、色々と助言してくれたんだね。


「だとすれば、考えられるのは住民の方による妨害ですね。あの『森』は森自体が意思を持っているわけではありませんし、ドロシーちゃんと一緒ならたどり着けるのですよね? でしたら、管理者が敵対しているわけでもありません。ということは、『森』そのものの仕掛けというのは除外して良いと思います」

「なるほど」


 すごい――――!

 レイさんってやっぱりすごい人だね!

 わたしの少しの話から、ここまで気付きができるなんて!

 やっぱり、相談して良かったと思うよ。


「住民の人たちがわたしを嫌っているってことでしょうか?」

「コロネちゃんといいますか、『他種族』を、でしょうね。あの森で暮らす方々はやや、そちらの傾向が強いはずです。精霊種や妖精種、それに妖怪種、ですか。同じ種族の方でも『果樹園(うち)』にいる方たちは『他種族』への警戒心もそこまで強くないのですが」


 仕方ありませんね、とレイさんが苦笑する。


「ですが、迷わせる、というだけでしたらそこまでの悪意は感じられませんし、コロネちゃんはドロシーちゃんの紹介で『森』に入ったのでしょう?」

「はい」

「でしたら、その方々もドロシーちゃんやルナルちゃんの顔に泥を塗るようなことはしないでしょう。おそらく、コロネちゃんたちを純粋に試しているだけだと思いますよ」

「『森』を抜けられる力があるかどうか、ですね?」

「そういうことです」


 なるほど。

 何となく、邪魔される理由はわかった気がする。

 となると、やっぱり、どうにかしてあの迷路を突破しないといけないわけだけど……。


「そうですね……ちなみに『果樹園(うち)』にも似たような仕組みの区画はありますよ。参考までにご説明しましょうか?」

「良いんですか!? お願いできますか?」

「構いませんよ。わかりやすいのは『迷いの森』の区画ですね。こちらは単純です。地形などは特にいじっておりません。今ある自然状態の森に『正しい道』と『間違った道』を設定して、間違った方に進むと『番人』のいる区画へと飛ばされるようにしています」

「ば、『番人』ですか……?」

「ええ。つまり、『正しい道は決まっていて、それ以外を通れば強力な存在の元で打ちのめされる』ようになっているわけですね。もっとも、『番人』に力を見せることで、資格を得られるという救済措置もあります」


 つまり、不審者は一度審判を受けてもらうシステム、という感じらしい。

 真っ当な手順で進めば、『番人』に襲われたりはしないそうだ。


「ですから、基本は外敵対策寄り、ですね。こちらは今のコロネちゃんのような『試練』とは少し色合いが異なりますね」


 一応、参考までにお話ししましたが、とレイさんが付け加えて。


「それとは別に、『森』を迷路と化す方法、手段ですね。いくつか考えられますが、まずひとつめは『森そのものを組み替えてしまう』ことです。こちらは『ダンジョン化』を施したりすれば可能です。毎回、道が変わってしまう、というのはこちらに当てはまる可能性がありますね。もっとも、『その管理を誰がするか』という問題はあります。『夜の森』の場合、ルナルちゃんが管理権限を持っているはずですから、ちょっと考えにくいですね」

「はあ、なるほど」

「ふたつめは『森』を、『地形』をいじらずに迷路を生み出す方法になります。『曲がり道、分かれ道、似たような風景が続く』などの地形そのものを利用する方法ですね。『(じん)』と呼ばれる迷宮形成です。『虹彩国』の仙人さんたちが得意としていたかと思います」

「えっ!? 仙人さんがいるんですか!?」

「ふふ、ええ、そうですよ? もっとも、『夜の森』にそちらの国の方が引っ越されたというお話は耳にしていませんから、こちらも違うとは思いますが、その技術を持つ方がおられれば、その可能性もありますね」


 みっつめです、とレイさんが続ける。


「『普通の森に幻影で上書きをする』方法ですね。こちらは光属性の『幻惑(イリュージョン)』などを用いることで可能です。人によってどのぐらいの規模の幻影を作り出せるかは異なりますが、区画を絞れば、その中にいる相手に『迷路』にいるかのような錯覚を起こさせることができるはずです」

「――――っ!?」


 そっかそっか。

 もしかしたら、毎回変わるあの道自体が『幻』である可能性もあるってことだね?

 すごいね、そんなことまでできるんだ?


「あるいは、コロネちゃんとショコラちゃんに標的(ターゲット)を限定して、認識阻害のようなことをしているのかも知れませんね。それでしたら、小規模でもコロネちゃんたちを惑わすことができますから」


 なるほどね。

 レイさんの考えでは、みっつめかよっつめの可能性が高いんじゃないか、って。

 つまり、わたしが狐に化かされている状態ってことだよね。


 うん!


 …………うん? 

 ちょっと待って?


 理屈はわかった気がするけど、結局、問題が解決してないよ!?

 そう、わたしが肩を落とすのを見て、レイさんが苦笑して。


「ふふ、今のコロネちゃんでは幻影を見破るのは難しいですかね?」

「……おそらく、そう、ですね」


 どうすればいいのかもわからないもの。

 幻影に対抗するにはどうすればいいんだろう?


「大事なことは目に頼り過ぎない、ということなのですがね。まだこちらの世界での経験が浅いコロネちゃんには難しいかもしれませんね」


 でしたら、とレイさんがショコラを手に取って。


「ここはショコラちゃんに頼ってみるのも手ですよ」

「ぷるるっ?」

「えっ? ショコラ、ですか?」

「はい。粘性種(スライム)は目で外部のものを認識していませんからね。もしかすると、『本当の森』が見えているのかもしれませんよ? おそらく、ショコラちゃんはコロネちゃんの眷属として、一歩引いた立場で従っているのでしょう。ですから」


 一緒に迷っている、と。


 なるほど。

 少なくとも、あの『森』に挑戦するためのヒントはもらえたね。


「ありがとうございます、レイさん。何から何まで」

「ふふ、あくまでわたしの意見ですからね。間違っているかもしれませんよ? 何しろ、わたしは『夜の森』のその迷路を直接目にしていませんからね」

「それでも十分です」


 うん。

 きっかけはもらえた。

 後はチャレンジあるのみ、だよ!


 改めて、レイさんにお礼を言って。

 もう一度、明日、『夜の森』に挑戦してみようと心に決めて。

 わたしとショコラは『果樹園』を後にした。

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