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ちょこっと! パティシエ少女は異世界でおどる  作者: 笹桔梗
第1章 はじまりはじまり編
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第4話 コロネ、町をめぐる

「へえー、色んな人がいるんだね」

「なのです。この町も大分にぎやかになってきたのですよ」


 お人形さんみたいな妖精さんのピーニャに連れられて、町の中を歩くわたし。

 なぜこんなことになったかというと、先程の顔合わせの後、オサムさんがピーニャにおつかいを頼みがてら、一緒にわたしも連れて行くように言ったからだ。

 『迷い人』のわたしにはびっくりしたりすることも多いだろうから、って。


『まず、コロネにはこの町に馴染んでもらおうと思ってな。『町』というより『世界』か?』


 まあ、見ればわかるさ、というのはオサムさんの言葉だね。

 そんなわけで、ピーニャのおつかいに同行している。


 町の規模はヨーロッパの地方都市、という感じかな?

 道は割と広めで、空間としては余裕のある造りになっているようだね。

 自動車が走っていないのは、そういう技術はないから、ということらしい。代わりに車道っぽいところを、結構なスピードを出した荷車が走り抜けていくのをちらほら見かけた。正確には、手押し車なり、引き車を軽々と動かしていく人や、大きめな動物……たぶん、怪物(モンスター)だろう、それらに曳かせている馬車みたいなものだ。

 少し驚いて、ピーニャに尋ねたところ、一口に怪物(モンスター)と言っても、色々な性格の怪物(モンスター)さんがいるらしく、人懐っこいタイプの怪物(モンスター)なら、こうやって、お仕事を手伝ったりしてくれるそうなのだ。


「この町にはしゃべるタイプのモンスターも多いのですよ。そのままだとうまく話せない怪物(ひと)もいるのですが、少なくとも言葉は理解しているのです」


 なので、こちらが話しかけると、肯定や否定などは頷いたり首を振ったりと仕草で示してくれるそうだ。

 わたしのスキルの説明にもあった『共通言語』。

 いわゆる、この世界で最も広まっている言葉は種族を問わず、習得しているケースが多いのだとか。

 ただ、怪物(モンスター)の場合、もっと便利な意思疎通手段があるので、わざわざ人に合わせてくれないこともあって、それで通じないように感じることもある、とのこと。


 ふうん?

 すごいんだね、その『共通言語』って。

 だから、前に会った狼さんも、話しかけた言葉を理解してくれたのだろう。


 ちなみに、町を歩いていると文字が書かれた看板なども見かけるんだけど、なぜか見慣れない文字で記されているにも関わらず、何が書かれているかはわたしにもしっかりと認識できた。


 うん……不思議だ。

 これって、どういうシステムになってるんだろ?

 わたしの場合、母国語である日本語の他に、いくつかの言葉は使えるけど、そのどれとも異なるのに、自然と読み書きができるようになっているのだ。

 あ、そういえば、世界規模でのゲームとかだと、そういう『翻訳』システムとかも使われているんだっけ? どこかで小耳にはさんだ気がするよ。

 お店のゲーム好きの先輩が話していたような。


 すごいねえ、便利だね。

 だから、あえて、未知の言語に基準を合わせているのかな?


 そんなことを考えながら、妖精さん(ピーニャ)と町を行く。


 あ、あっちの建物が酒屋さんなんだ?

 酒屋さんというか、バーっぽい酒場?

 そして、隣の建物が……えーと?


「『冒険者ギルド』……?」

「なのです」


 看板に書かれていた文字を読み上げたわたしに対して、ピーニャが頷く。

 あ、もしかして、ここが案内してくれる場所のひとつなのかな?


「コロネさんは『迷い人』なのですよね? でしたら、『冒険者ギルド』で身分証の登録をしておかないと、町中の移動などに制約ができてしまうのです」

「そうなの……?」

「なのですよ」


 ピーニャによると、今のわたしは、この『サイファートの町』に不法侵入している形になるのだそうだ。正確には『緊急避難』的な感じかな? この町って、実は周囲に生息している怪物(モンスター)が獰猛なことで有名らしくて、割とわたしのように、怪物(モンスター)の被害にあって、町まで運ばれてくるケースも少なくないのだとか。


 ちなみに、わたしを町まで運んでくれた狼のウーヴさん。

 あの(ひと)も町に対して友好的な怪物(モンスター)さんで、町の外で警護のようなお役目も持っているとのこと。

 他の非友好的な怪物(モンスター)から、旅人を救い出したりとかもしてくれる、って。

 たぶん、最初の豚さんを追い払ってくれたのもそのためだろう。


 へえ。あとで会った時にでもお礼を言っておかないとね。

 ただ、その後、わたしが出したチョコレートを食べておかしくなったのは何だったんだろう?

 助けてもらってなんだけど、あれはちょっと怖かったよ? うん。


 で、町に運び込まれた際、門のところで、わたしの所持品などのチェックは済ませてあるのだそうだ。

 ほとんど着の身着のままで、何も持っていなかったから、そのチェックもすぐに終わったみたいだけど、その結果として、わたしがその『冒険者登録』ってものに『未登録』であることも判明したのだとか。


「それで、たぶん、『迷い人』だろうと判断されたわけなのです。なので、オサムさんのところに運ばれたのですよ」


 その『迷い人』に関しては、オサムさんの管轄なのだそうだ。

 なるほど。

 単なる料理人ってだけじゃなかったんだね?

 たぶん、このゲームを始めたばかりの新人さんのお世話もやっている人ってことなのだろう。


「ところで、この『冒険者ギルド』ってどういう施設なの?」

「簡単に言いますと『なんでも屋』なのです。この町のような辺境の場合、衣食住に関わる手続きや住人の困りごとへの対応、お仕事の斡旋とか、まあ、色々なのです。色々なことを引き受けてくれている組織なのですよ、『冒険者ギルド』は。ここはそんな組織の出張所なのです」


 ふうん?

 つまりは、お役所みたいなところ?


「なのです。『王都』のお役所に近いのです。ですが、もっとそれよりも実戦的な内容も含まれるのですが」

「え……? 実践的……?」


 ピーニャの言葉の意味がよくわからないんだけど。

 この町が辺境にあるらしいってことも含めて、現場主義ってことなのかな?


「ではなくて、戦闘全般のお手伝いのことなのです。特に、この町の場合、それぞれが強くなければ、生きていくのが大変なのですよ」


 弱肉強食なのです! と強く言い切るピーニャ。


 えーと……?

 大分、ピーニャの見た目の雰囲気と違うけど?

 えっ? もしかして、わたし、結構過酷なところで働くことになったのかな?


「大丈夫なのです。コロネさんが強くなれるように、ピーニャもお手伝いするのですよ。それはオサムさんからも言われていたのです」

「いや、あの、ちょっとちょっと――――」


 妙にやる気になっているピーニャに手を引かれて、わたしは不安を抱えたまま、『冒険者ギルド』の門をくぐることになった。

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