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ちょこっと! パティシエ少女は異世界でおどる  作者: 笹桔梗
第3章 新米パティシエ、お店を持つ
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第41話 コロネ、『はぐれ』魔獣たちと再会する

「へえー、すごいねえ、みんな頑張っているんだね。はい、チョコだよ」

『きゅーきゅー』

『ぷるぷる』

『ぶーぶー』


 『果樹園』の山岳エリア。

 その中腹辺りに位置する、この盆地で、『はぐれ』魔獣(モンスター)ちゃんたちは一生懸命に生活をしていたのだ。


 オサムさんの話だと、『果樹園』で預かるって話だったから、てっきり、牧場みたいな場所で飼われているのかと思っていたんだけど、実情は大分違うみたいで。

 レイさんに案内されて連れてこられた、その盆地で、『はぐれ』魔獣(モンスター)ちゃん……ああ、もう、この呼び名だと長いから、『はぐモン』でいいや。その、わたしに懐いていた『はぐモン』たちが何をしていたかというと。


「まさか、集落を作っているとは思わなかったよ」

『ガウ♪』

「ふふ、コロネちゃん、びっくりしましたか?」

「はい、レイさん。飼育とかそういうわけじゃなかったんですね?」

「もちろんですよ。『果樹園(うち)』に来た以上は、『果樹園(うち)』の流儀に馴染んでもらいますから。ふふ」


 無料のごはん(タダ飯)を食べさせるつもりはありませんよ、とレイさんが微笑む。


 おおぅ。

 思った以上に甘いところじゃなかったよ、『果樹園』って。

 生きるためにはきちんと役割を果たしなさい、きちんとお仕事をしなさい、ということを徹底している場所みたいだね。


 だから、ここでの『集落作り』という話になる、と。


 もちろん、生まれたばかりの『はぐモン』たちだけで、こんな森の中の盆地……というか手付かずの自然の中に『村』を作るなんてできないので、きちんと指導係も付いてくれているみたいだけど。


「はい、そこの子ー。きちんと『言葉』の意味を覚えてねー」

「まず、君たちに求めるのは『モンスター言語』を理解すること。言葉の意味を理解すること。『果樹園(ここ)』の常識と良識を理解すること。それをきちんとやってもらうよー」

「後は、必ず、自分の能力に合った役割が生まれるから心配しないでねー」


 遠くから響くのは指導係の声だね。

 随分と基本的なことから教えているみたいだけど、それも仕方がないのかな?

 この子たちもショコラと一緒で、生まれたばっかりみたいだし。


 というか、指導係さんも魔獣(モンスター)っぽいよね?

 服を着た二足歩行のもぐらさんみたいな人とか、切り株おばけみたいな樹の根っこに顔が浮き出た人とかが指導員をやっているんだよね。

 やっぱり、『はぐモン』たちを受け入れてくれるだけの下地はあるってことだろう。

 元から『果樹園』で暮らしている魔獣(モンスター)さんも多いようだし。


 ただ、それはそれとして。

 『はぐモン』たちも、それぞれの能力を生かして、せっせと穴を掘ったり、土を耕したり、樹を倒したり、水を運んだりと一生懸命なんだよね。

 たぶん、その作業がどういう意味か、とかはわかってないっぽいけど、監督してくれている指導員さんたちによって導かれているというか。

 何となく、どの子がどういうことができるのか、それを測っている段階のようだよ。

 うん。

 でも、みんなが頑張っていることは間違いないね。

 だから、わたしもちょっとだけ力になるよ。


 そんなことを考えながら、頑張っている子たち全員に、ひとりひとり、ボンボンチョコを食べさせていく。

 何となく、わたしが好きって言うより、わたしが与えるチョコレートが好き、っていう風にも感じなくもないけど、それはそれ、店長印のチョコレートを喜んでくれる相手(ひと)に悪い人はいない、ってのがわたしの基準でもあるから。

 そうそう。

 イタリアのマフィアの人でも、甘党の人って多いんだよね。

 甘くて美味しいものを食べている時間は万国共通だ、ってね。

 まあ、たまに店長の横のつながりに驚かされることもあったけど。


「ふふ、やっぱりいいですね、コロネちゃんは」

「そうですか?」

「ええ。わたしの見込んだ通りです。やっぱり、この子たちが惹きつけられているのは、その『チョコレート』ではないです。コロネちゃんのその空気感があってこそ、です」

「……そういうものですか? よくわかりませんけど」


 うーん。

 随分とレイさんはわたしのことを買ってくれているみたいだけど、当の本人がまったくピンときていない有り様ですけど。

 そう言うと、レイさんが真っすぐに頷いて。


「ええ。穏やかな感情の波長です。だからこそ、この子たちのようにまっさらで何にも染まっていない子たちも、一緒にいて落ち着くのですよ。生まれたてのこどもはそういう感覚に敏感ですから」

「そういうものですかね?」


 でも、わたしも『はぐモン』たちに襲われそうになったりしたから、やっぱり、『チョコ魔法』の力だと思うけどね。

 レイさんは、そういう場面を見ていないから、そう感じるんだろうと思う。


「まだ、この集落が形になるには時間がかかると思いますけど、時々で良いですから、コロネちゃんも顔を見せてあげてもらえませんか? きっと、この子たちも喜びますから。ふふ、ご褒美があると作業も捗ると思いますしね」

「はい、それはもちろんですよ。わたしもこの『村』がどうなるか、興味がありますから」


 『はぐモン』たちが作る『村』って、どうなるんだろう?

 少しずつ、この集落が大きくなっていくのなら、それを見に来るのも楽しそうだものね。

 もちろん、懐いてくれている子に会いに来る、ってのが一番の目的だけど。

 最初にチョコレートをあげちゃったのはわたしだから、その辺は責任を持ちたいしね。

 自分だけでこの子たち全部を世話するのは無理だったし、そういう意味では『果樹園』の人たちにも助けられているし。


 そんなこんなで、『はぐモン』たち全員にチョコを配り終えて。


「今日のところはこの辺で帰ります。この子たちの顔が見たかっただけですから」

「ぷるるーん♪」


 どうやら、ショコラも同じスライムの『はぐモン()』と仲良くなったみたいだし。

 うん、十分に気分転換にもなったよね。


 ――――あ。


 そうだ。

 そこで肝心なことに気付いたよ。

 この場所って、『果樹園』のどの辺にあるんだろ?

 さっきはレイさんの魔法? あの『領域循環(シャッフル)』っていう、瞬間移動か何かみたいな能力で、瞬く間にたどり着くことができたけど。

 毎回、ここに来るのにレイさんにお願いするのもまずいよね?


 どうしよう……さすがにここまで自分たちだけで来る自信はないし。


「ふふ、大丈夫ですよ、コロネちゃん。はい、これをどうぞ」

「――――これは?」


 レイさんに手渡されたのは、手首にちょうどはまるぐらいの大きさのものだった。

 植物で編んだ……腕輪?

 ブレスレットのようなもの、かな?


「それは『草冠』ですよ。これを持っていれば、コロネちゃんが入り口からすぐに、ここに着けるようにしておきますね。ふふ、『草冠』だけに『送還』できるというわけですね」

「えっ――――!?」

「あら……? 面白くありませんでしたか?」

「いえ、純粋にびっくりしましたけど……」

「そうですか……」


 残念です、としょんぼりするレイさん。

 あれ?

 ……もしかして、今のってレイさん流の洒落のつもりだったのかな?


 というか、内容が内容だけに、そっちの衝撃の方が強かったんだけど。


「これを付ければ、ここまで飛ばしてくれるってことですか!?」

「ええ。ふふ、ひとまず、そういう風にしておきますね」

「これ、わたし用みたいですけど、ショコラも一緒だとまずいですか?」

「いえ、大丈夫ですよ。ショコラちゃんも一緒で」


 問題ありません、と微笑むレイさん。


「ふふ、わたしが楽しませて頂いた、そのお礼のようなものですよ」

「ありがとうございます、レイさん」


 今日は本当にお世話になったものね。

 おかげで、この子たちにも会えて、また元気な姿を見ることができたし。

 集落を作るためにみんな頑張ってる、ってわかっただけでも大収穫だしね。


「じゃあ、また来るね、みんな」

『――――!!!!!――――』


 そう、『はぐモン』たちみんなに声をかけて。

 みんなからの叫声の大合唱に送られて。

 わたしたちはレイさんと一緒にその場を後にした。

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