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第36話 コロネ、心に決める

「すごい……こじんまりとしてるけど、ちゃんとお店っぽくなってる」

「ぷるるーん♪」

「うんうん、コロネのイメージ力が高い証拠だね。ただ、まあ、商品棚とかまで細工したのはいいけど、床と繋がっちゃってるから移動できなそうだけど」

「あ、そっか。ショーケースまでチョコで作る必要はなかったもんね」


 失敗失敗。

 うん、こんなの初めての経験だったからねえ。

 次の機会に備えて、ちょっと反省だよ。


 とは言え。


 わたしの出したチョコレートでお店ができてしまったよ。

 本当に『お菓子の家』ならぬ『チョコの家』だ。

 まあ、部屋も大きめではあるけどひとつだし、調理スペースのことは考えてなかったから、単純に販売用の仮設店舗みたいになっちゃったけど。


 それでも――――。


「これはれっきとしたお店だね」

「うんうん! ふふ、一瞬で建てたにしてはなかなかの出来だよねー。やったねっ!」

「ぷるるっ♪ ぷるーん♪」

「ありがとう、ドロシーのおかげだよ。それにショコラも手伝ってくれたから、ちょっと無理ができたんだよ」


 下手をすれば、『青空市』の露天商のお店よりも立派だものね。

 建物の色が濃い茶色一色っていう点を除けば、ちゃんとしたパティスリーの店舗部分を再現できていると言ってもいいもの。

 接客用のスペースにはレジなどを置ける棚もあるし、建物と一体化しちゃったとは言え、一人前のケーキ(プチガトー)とかを並べられるショーケースもあるし。


 建物に足を踏み入れるときは勇気がいったけど、ドロシーが魔法で強度を強めて、コーティングみたいなことをしてくれたらしくて、包丁とかを突き立てても、チョコの壁には傷ひとつ付かなかったのだ。

 少なくとも、わたしたちの体重がかかったぐらいじゃ、びくともしない造りにはなっているらしい。


 すごいよね。

 チョコレートの形を変えただけなのに。

 だから、わたしの能力というより、ドロシーの処置がすごいのだ。

 単なるチョコレートを建材として使えるレベルまで硬くしてしまうなんて、やっぱり、『魔女』さんの力ってすごいんだねえ。


「さっきのチョコレートを硬くしたのも魔法なの?」

「うん。一応、『空間魔法』の一種だねー。何をやったかに関してはないしょね。ふふ、もし、コロネも『空間魔法』を使えるようになったら、細かい部分を教えてあげる」


 一応、魔女の秘術なんだよー、とドロシーが人差し指を口元につけて笑う。

 へえー。

 てっきり、『身体強化』とか、そういう系統の魔法の一種かと思ったら、さっきのも『空間魔法』なんだ?

 確か、アイテム袋とかを作るのにも使っている魔法だよね?

 だから、秘密ってことなんだろうね。

 うん。

 土地を貸してくれるだけじゃなくって、わたしのお店のためにそこまでしてくれるなんて、本当にありがたいよ。

 というか、むしろ申し訳なくなってしまうかな。


「何だか、悪いような気がするよ」

「あー、コロネ? コロネは気にしなくていいよ。こっちにも色々都合があるの。うん……例えば、『もうお茶会でのレパートリーはマンネリだ』っていう相手ばっかりの時とかね。そういう時に、コロネがお菓子を売ってくれれば、それだけで冷たくなってる空気がまろやかになって円滑に事が進んだりとかね」


 えへへ、と頭をかきながらドロシーが苦笑して。


「もちろん、友達の力になりたいってのも理由だけど、そういう事情もあるの! だから、私のお店の近くでコロネもお店をやってくれるとそれだけ嬉しいのね」


 だから、秘術を使ってまで手伝ってくれた、と。

 うん。

 別にドロシーの事情はどうあれ、結果的に『わたしがこの町でお菓子を売る』計画が前進したわけだから、全然それで問題ないよ?

 むしろ、申し訳ないのはこっちだもの。


 というか、今日一日でここまで前進するのは想定外だよ。


 これだったら、もうちょっと準備すれば、普通にパティスリーを開けるよね?

 考えなくちゃいけないことはいっぱいあるけど、それをひとつひとつクリアしていけば、短期間でお店をオープンさせることはできそうだよ。


 ふふ、面白くなってきたよ。


「差し当たって、お店を開くのに足りないものを埋めていかないとね。ねえ、ドロシー、この『町』でお店を出す時って、申請とかって必要なの?」


 確か、『青空市』の場合、『商業ギルド』ってところに申請する必要があるんだよね?

 この『夜の森』はドロシーの管轄みたいだけど、一応は『町』の中にあるから、お役所的な手続きとか必要なのかな? って思って聞いてみると。


「うーん……この中限定でやる分には問題ないかな。ここも『果樹園』と一緒で、特殊な権限が認められてるからね。簡単に言うと治外法権みたいな感じ? ほら、他国の外交官が駐在するお屋敷と同じような扱いだねー」

「えっ!? そうなの!?」

「うん。さすがに『魔女』を敵に回したくないって話だよ。何せ、『魔女』と親しい『幻獣種』も敵に回るからね。この『町』の運営に関わってる人なら、その辺の事情に精通してるから、『商業ギルド』ぐらいなら強くは言ってこないって」


 大丈夫大丈夫、とドロシーが笑う。


「まだ慌てなくていいんじゃない? まずは『夜の森(ここ)』でお店をやってみて、人気が出てきてから考えればいいんだよ。ダメならお店をたためばいいの。ほら、一瞬でできたお店なんだから」

「うーん……それもそうだね」


 そもそも、『はぐれ』魔獣(モンスター)ちゃんたちの一件が片付いていないから、あんまり目立たないようにする、って話だったものね。

 今はもうちょっと落ち着くまでは、この『夜の森』でひっそりとお菓子を売ってみる感じがいいのかも知れない。

 ドロシーの言う通り、あっという間に作れてしまったお店だし。

 何かあった時に店じまいするのも、そこまでがっかりする感じじゃないものね。


 うん!

 今はやれることをやろう!

 考えることはいくらでもあるし。


 とりあえず、当面は焼き菓子をメインにしようかな。

 生菓子を置くのなら、冷たくできる設備が必要だし、可能なら、このお店の空いているスペースでお菓子を作れるようにしてからじゃないといけないだろう。

 エミールさんのところに卸しているコンフィチュールも大丈夫かな?

 しばらくは、『塔』の調理場を借りて、そこで作ったお菓子をこっちのお店に持ってきて販売するって形になりそうだよ。


 それで利益が出たら、設備を少しずつ増やしていく方向で。

 ハンドミキサー以来、『パティシエール』のスキルで製菓用品が当たってくれないけど、そっちが出てくれたら、またジーナさんたちの工房にお願いできるよね。


「ふふ、わくわくするね!」

「ぷるるーん!」

「コロネ、私も手伝えることがあったら言ってね。協力するから!」

「ありがとう、ドロシー」


 突然、降ってわいてきたような話だけど。

 わたしのお店。

 わたしのパティスリーだ。

 

 本当の意味でのパティシエとしての生活が始まるんだ。

 そのことに胸が打ち震える。

 ひとりでも多くの人にお菓子の美味しさを知ってもらいたい。

 そして、いつか必ず、わたしはわたしが目指す味を作り出すことができるようになって。


 そして――――。


 世界一のパティシエになってみせる――――!


 ――――今日がわたしにとっての記念すべき日だ。

というわけで、コロネがお店を持つところまで来ました。

ちょっとだけ感無量です。

旧版ですと、400話を超えてもたどり着けなかったのに……。

話の展開というか、テンポって重要ですね。


ここまでの流れが2章になります。後は閑話を挟みまして、第3章となります。

引き続き、裏では色々と別の話が進行してますが、コロネの方には影響したりしなかったりします。

興味がある方は、『このキャラの話が見たい』と感想を頂けましたら、そちらの閑話を書いたりするかもしれません。


これからも、ほのぼの空気でまったりと行きたいと思いますので、続きをまったりとお待ち頂けると幸いです。


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