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第35話 コロネ、家造りに挑戦する

「ここの土地を借りてもいいの? ドロシーのお店と随分近くない?」

「うん、大丈夫。この辺は巨木を家として使っているのが多いから、この辺なら家を建てるのにちょうどいいと思うよ?」


 その『夜の森』の中は幻想的な風景が広がっていた。

 すごいよ!

 だってだって、森が自然を残したまま、同化した町のようになっているんだもの。

 巨木、と呼んでいいような大きな幹の樹。

 その樹のうろというか、空洞部分を上手に使って、樹がそのまま家になっている、そういう『木のおうち』が何軒もあって。

 一本の樹がマンションのようになっていたりもして。

 その部屋部屋に妖精さんみたいな種族の人や、ちっちゃな動物さんが服を着たような人たちが住んでいるんだもの。

 本当に、おとぎ話の世界に迷い込んだような、そんな印象を受けるのだ。

 自分が不思議の国のアリスになったかのような。

 フェアリーテイルって響きとマッチした場所だよ。


 ドロシーのお店もそんな森の中にたたずんでいた。

 さすがは地主さんだけあって、森でも真ん中辺りに位置しているのかな?

 とっても立地の良さそうな場所に生えた大木を、まるまる一軒のお店として使っていた。

 そして、その周囲は比較的、樹が密集しておらず、空いたような土地もあったから、その中からドロシーと相談しつつ、適当な場所を見繕っていくことになった。


 それで、小一時間後。

 ちょうどいい場所を選ぶことができたので、ここに決まったんだけど。

 大変なことを思い出した。

 うーん。

 ほとんど無償で土地を借りれるのは嬉しいけど、本当に更地なんだよね。

 となると、まず、考えなくちゃいけないのは家を建てる手段だよ。

 こっちの世界だと、お店を建てるとなると、どのぐらいのお金が必要になるんだろ?


「ドロシー、大工さんの知り合いとかって知ってる?」

「あれー? コロネ、自分で家を建てられない?」

「えっ? わたしが?」


 いや、随分と無茶振りじゃない?

 さすがに今まで生きてきて、自分で家を建てた経験なんてないよ。


「そもそも、家の建て方なんて知らないよ」

「そうじゃなくて。コロネ、『チョコ魔法』が使えるよね?」

「うん、それは使えるけど……」


 『チョコ魔法』が使えたらどうなんだろう? と首を傾げるわたしに対して。


「だったら、簡単に作れるよ? 『お菓子の家』」

「はい? え……? ええっ!? 『お菓子の家』っ!?」

「そうそう。あれー? コロネって、確か、『チョコ魔法』の『形状変化』はできるって前に言ってたよね?」

「できるけど……」

「だったら大丈夫だよー」

「ちょっと待って、ドロシー! さすがにチョコレートで家を作っても強度が弱すぎてもたないってば!」

「大丈夫大丈夫。そのために私がいるんだから」


 さすがにチョコレートで家を作ったら崩れちゃうよ、と困惑するわたしに対して、笑顔で胸を張るドロシー。


「『魔女の図書館』にある『異界図書(バイブル)』ね。その中に『お菓子の家』に関する書物もあるんだけど、それを見たおばばが本当に食べ物で家を作ったことがあったんだって。だから、『魔女』の間ではそういう家の作り方も伝わってるのね」

「……そうなの?」


 びっくりだよ。

 さすがゲーム。

 本当に『お菓子の家』を作っちゃおうなんて思わないものね。


「でね? 用意するもの……食べ物の『形状変化』ができるスキル持ちをひとり。それと一定レベル以上の『魔女』。というわけで、私とコロネがいれば、『お菓子の家』を作ることもできるってわけ。というか、私も興味があるから、この機会にちょっと試してみたいしねー」


 いいでしょ? と上目遣いでこっちを見つめるドロシー。

 いや、できるのなら、わたしも嫌じゃないけど。


「どうすればいいの?」

「うん、それじゃあ、ちょっとやってみようか」


 そんなこんなで突然、『お菓子の家』作りが始まった。



◆◆◆◆◆◆



「コロネが魔力切れを起こしても良いように、回復用のポーションを持ってきたよー。これで、いくらチョコレートを出しても大丈夫だよー」

「まあ、わたしも自分のお店のためだから頑張ってみるけど……」


 今まで限界量まで出したチョコレートの量を考えても、たぶん、きちんとした一軒家を建てるための量には全然足りないと思うんだよね。

 だから、精々が簡易的な小屋ぐらいが限界だと思う。


 ドロシーが言うには、だ。

 わたしが頑張って、めいっぱいの量のチョコレートを出して、それを『形状変化』で家の形にして配置してしまえば、あとの手順は何とかしてくれるらしい。

 でもねえ。

 これだと、大きな家型のチョコレートができあがるだけのような。

 さすがに中に入ったりしたら、チョコレートの床がわたしたちの重さで壊れちゃうと思うんだけどなあ。

 まあ、ドロシーも自信ありげだから、何か確信があるのかな?


 だったら、わたしはわたしの工程をきちんと作るだけだね。

 一応、家型のお菓子とかなら、向こうのお店で作ったことがある。

 チョコレートだけのものとか、飴細工加工込みのものとか。

 マジパンとかだと割と作りやすいんだけどね。

 でも、今はそんな準備はないから、チョコレートだけで頑張るしかないのだ。

 どちらかと言えば、『お菓子の家』じゃなくて、『チョコの家』になりそうだよ。


 ともあれ。


「じゃあ、行くよ――――『チョコ魔法』っ!」

「ぷるるっ♪」

「――――っ!?」


 えっ!? ショコラ!?

 わたしが『チョコ魔法』を発動して、家型のチョコを出そうとするのに合わせて、一緒にショコラの身体も光りだしたのだ。

 これって、ショコラの『チョコ生成』?

 もしかして、手伝ってくれているのかな?


 一瞬、そんなことに驚きつつ。

 そのまま、魔法の発動に集中を戻す。


 ――――やっぱり。

 

 今の状態だと、いつもより発動が楽になっている気がする。

 これもショコラのおかげかもしれない。


 うん。

 これなら。

 もう少し大きめな家でも大丈夫そうだよ――――!


 向こうのお店の、簡易販売の店舗を思い出しつつ、そのイメージのままで生み出したチョコレートの塊を変形させていく。


「よし――――できたっ!」

「ぷるるーんっ!」


 魔力枯渇の悪酔い症状が出るギリギリっ!

 何とか、イメージ通りのチョコレートの家を生み出すことができた。

 色見は余裕がなかったので一色だけど、形だけ見れば立派な小型店舗という感じだ。

 ……さすがにホワイトチョコとかを同時に混ぜてる余裕はなかったからねえ。


 そのまま、ドロシーの方へと目を遣ると。


「――――えっ!?」


 ドロシーの身体が紫色の光に包まれて、揺らめいているのが見えた。

 うわ。

 何だか、リディアさんが大技出そうとする時の前触れみたい。

 凄みのような雰囲気が肌感覚として伝わってきて。


「うんー! いいね、コロネー! 後はドロシーちゃんにおまかせっ! 大技いっぱーつ――――!」


「………………(『現象固定』!)


 ぼそり、とドロシーが口元で何かをささやいた直後。

 ドロシーがまとっていた紫色の光が、わたしの作った『チョコの家』全体へと広がっていったかと思うと。

 しばらく周囲を回転した後で、そのまま『家』へと吸収されたしまった。


「よーし! これで完成っと! やったね、コロネ、きちんと『お菓子の家』ができたよー♪ ふふっ、私もこれ作るの初めてだから嬉しいよー!」

「えっ!? ドロシー、初めてだったの!?」

「いや、だって、めったにこんなこと試す機会なんてないし。そんなことより! 早速、中に入ってみようよ!」

「……大丈夫かなあ?」


 確かに『家』はできたけど。

 どこか強度に対する不安を覚えつつも、ドロシーに促されて、中へと足を踏み入れるわたしたちなのだった。

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