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第34話 コロネ、魔女のお店を目指す

『私のお店の側に空いている土地があるから、良かったら使ってみる?』



◆◆◆◆◆◆



 ドロシーにそう言われて、パン屋のアルバイトが終了した後で待ち合わせをすることになったのが、この場所だ。

 『サイファートの町』の南西部。

 無料の乗り合い馬車を使わないと、『塔』からはちょっと大変な距離にある場所。

 一応、この辺りも周遊タイプの馬車のルートではあるから、余裕がある時に一度散策をしに来たことはあったんだけど、ここって、『町』の中でもほぼ未開拓のところだと思っていたんだよね。


 自然公園っぽい雰囲気といえば聞こえがいいけど、あんまり家とかが建っていないので、どちらかと言えば、ハイキングなどが似合うところなのだ。


「……ドロシーのお店って、この辺にあるのかな?」

「ぷるるーん?」


 そう。

 ドロシーってば、わたしと同い年でもうお店を経営しているんだよね。

 『魔女』お手製のアイテムを売るお店。

 前に雑談で聞いて、メイデンさんからも結構評判が良いって教わったんだけど。

 でも、確かその時はそのお店って、『町』の中心部にあるって話だったような気がしたんだけど。

 わたしの聞き間違いかな?

 もし仮に、この町外れのエリアにお店があるとしたら、毎日ここから通うのって、結構大変な気もするし。

 意外とプライベートに関しては、ドロシーってば謎が多いんだよね。


 ともあれ。

 約束なので、ここ『昼の森公園前』の停留所でしばらく待っていると。


「お待たせー、コロネ、ショコラ」

「大丈夫、今来たところだよ」


 ドロシーが笑顔で姿を現した。

 いや、というか、それなりに周囲を見渡していたはずなんだけど、いつの間にか側にやってきていたというか。

 だから、ちょっとだけ、おやっ? と思ってしまった。

 それに加えて、ドロシーもいつも目にしているパン屋さんの制服姿じゃなくって。


「ドロシー、その服って」

「うん、こっちが『魔女』の正装かなー。私は色的にあんまり好きじゃないんだけど、まあ、着慣れてるからねえ。それに、こっち(・・・)のお店の時はきちんとしてないと色々とうるさいんだよ、外野が。アラディアのおばばとか、ルナルとか」


 そう言って、苦笑するドロシーだけど。

 でも、わたしはよく似合っていると思ったよ。

 紫系統のナイトドレスに、マントを羽織るような感じで。ところどころにレース編みがされていたり、宝石のようなもので装飾されているので、ちょっと大人びた感じの印象になっているのだ。

 普段のドロシーよりも大分エキゾチックな雰囲気を醸し出しているというか。

 それに頭のとんがり帽子、と。

 うん。

 何というか、プロトタイプの『魔女』さんの衣装って感じだね。

 それを着こなしているのはすごいと思うもの。


「やっぱり、ドロシーって、魔女さんだったんだねー」

「ぷるるっ!」

「ふふ、そうそう。何を隠そう、私、実は魔女だったんだよー」


 冗談はさておき、とドロシーが続けて。


「それじゃあ、コロネ、私のお店に案内するね」

「本当に、ここにお店があるの?」

「うん、そうだよー。一応、『塔』の側にも出店(ショップ)は出してるけどね、そっちはあくまでも一部を繋げてるだけだから。本当のお店はこっちだよ。ふふ、まあ、一般のお客さんは出店(ショップ)の方がいっぱい来るかな?」

「そうだったの?」


 なんと。

 ドロシーってば、この『町』の中に複数の店舗を抱える経営者さんだったらしい。

 パン屋に来るお客さんに紹介するのも、基本は『町』の中心部にある出店(ショップ)の方なのだとか。


 あれ? ということは?


「もしかして、こっちのお店ってあんまり教えてないの?」

「んー、というか、顧客を選んでるって感じかな? そもそも、私がお店にいれば、別に出店(ショップ)の方でもある程度は同じ品物を扱えるしね。どっちかと言えば、本店の方にたどり着けるかどうか、その資格の有無で顧客を選んでるって感じ?」

「うん? 何だかよくわからないけど?」

「ふふ、大丈夫大丈夫ー。ぱんぱかぱーん♪ コロネはここ一か月の評価で、見事、『夜の森』に足を踏み入れる資格を得ましたー! だから、私もこっちのお店に案内もするし、空いてる土地を使っていいよ、って話になるわけ」

「そうなの?」


 何だかよくわからないけど。

 どうやら、いつの間にか、わたしはドロシーのお眼鏡にかなっていたらしい。


 というか。


「その『夜の森』って何?」


 停留所の名前は『昼の森公園前』だから、何か関係があるのかな?

 わたしがそう尋ねると、ドロシーが不敵に笑って。


「ふふ、この世には『昼』と『夜』があるのでーす。つまり、『表』と『裏』ね。私たち『魔女』はその『裏』で生きる存在なのね。まあ、『裏』というか『隙間』というか。まあ、面倒な理屈は置いておいて。要はこの『昼の森公園』の裏側にある『夜の森』、ね。そこの管理者というか、地主が私なんだよー」

「ええっ!?」


 びっくりだよ。

 やり手の経営者かと思ったら、大地主でもあるなんて。

 いよいよドロシーが本当にわたしと同い年か疑わしくなってきたよ?

 『魔女』さんだけに、本当は数百歳とか言わないよね?

 おっかないから、年齢についてはあんまり深くは聞けないけど。


 でも、ちょっと納得したよ。

 それで空いてる土地を使っていい、って話になるわけだね。


「でも、土地なんて借りちゃっていいの? しかもただ同然で」

「いいのいいの。まあ、正確には管理してるのは私の召喚獣なんだけどね。まだ全然余裕もあるし、コロネも今はなるべく静かにお店を開きたいんでしょ? だったら打ってつけだと思うよ? さっきも言ったけど、『夜の森』って入るための条件がそれなりに厳しいから」

「……? わたしは問題ないの?」

「うん、大丈夫。その条件ってのはね――――『精霊種』『妖精種』『魔獣系統』などが好いてくれる、ってことだから。一応、昨日の話もルナルが裏を取ってくれたから、それで問題なしってことになったの」


 だから大丈夫、とドロシーが微笑む。

 どうやら、昨日のトラブルのおかげでもあったらしい。

 よくわからないけど、その偶然には感謝したいね。


「ありがとう、ドロシー」

「ふふ、いいのいいの。じゃあ、『夜の森』への道を開くよー」


 ついてきて、というドロシーの後に続いて歩いていくこと数分。

 公園の中にある、井戸のところまでやってきた。


「ここが入り口ね」

「ここって……この井戸?」

「うん、そう。私が一緒の時は、公園内のどこからでも道を開くことができるけど、コロネたちだけでやって来たいと思ったら、ここの井戸に飛び込めばいいよ」

「えっ!? 井戸の中に!?」

「そうだよー。あ、そうそう、コロネにはこれを渡しておくね」


 そう言って、ドロシーが渡してきたのは、手のひらサイズの金属でできたほうきだった。

 濃い青……藍色に近い色の金属がほうきの形に加工されたものだ。


「これは?」

「ここの『(キー)』だよ。井戸に飛び込んだ時、それを持ってると『夜の森』の井戸から出られるから」

「えっと? ちなみに『鍵』なしで井戸に飛び込んだらどうなるの?」

「『町』の外に飛ばされるようになってるよ。まあ、水没したりしないから大丈夫大丈夫」

「ええっ!? 全然大丈夫じゃないよ!?」

「でも、そうしないと、ね。不届き者とか排除できないからねー」


 だからコロネも気を付けてね、とドロシー。

 うん。

 さすがに変なとこに飛ばされるのは嫌だもの。

 このほうき型の『鍵』はなくさないようにしよう。


「まあ、今日のところは私が一緒だから、普通に道を開くよ」


 そう言って、ドロシーが銀貨を一枚、空中へと放ったかと思うと。


「『聖なる銀貨』を介し、ここに顕現す。我、ドロシーの名のもとに『夜の森』への道を開け!」


 辺りに響くのは呪文のような言葉。

 そのドロシーの呪文に呼応するかのように。

 辺りの風景が揺らぎ始めたかと思うと。

 次の瞬間、パンという弾ける音と共に、周囲の視界が変化して。

 わたしたちの視界の先に、新たな深い森が姿を現した。


「よーし。それじゃあ行こうか。ほら、コロネ、こっちこっち。早く入らないとまた入り口が閉じちゃうから。ショコラもね」

「あ、うん、わかった!」

「ぷるるーん!」


 そのまま、わたしたちは森の奥へと歩みを進めるのだった。

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