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第31話 コロネ、スタンピードに巻き込まれる

「――――これは!?」

「ぷるるーん!?」


 壊れていく世界。


 即座に感じた印象はそれだった。


 さっきまで晴れていたはずの空は薄暗く厚い雲が立ち込め、同時にわたしたちが立っている場所を含めた広範囲に渡って、ハリケーンのような暴風が吹き荒れる。

 バチバチッという轟音は火花だろうか?

 あるいは、電気、雷を伴った嵐のような。

 その場に立っているだけで、チリチリと身を焦がすような軽めの衝撃に襲われる。


 ……え? 軽い?


 明らかに、竜巻のような強風と電磁波が入り混じったような嵐の空間で、軽めの衝撃で済んでいることに驚いて、自分の身体を見るとかすかに白い光の膜みたいなもので包まれていることに気付いた。

 胸の前で抱えているショコラも白い膜が薄皮一枚の状態になっていて。

 同様に、少し離れたところで倒れていた『盗賊』たちの身体も白い光が纏われていて。

 その光が周囲の異変を弾いていることがわかった。


 ――――これって。


「――――リディアさんが?」


 そう、わたしが横にいたリディアさんへと視線を向けると。


「『みだれうち』」

「――――っ!?」


 リディアさんがほぼ全方位へと向けて、さっきの『しょっと』を無数に放つのが見えた。

 その無色透明な攻撃は、しかし、周囲の昏い歪みのようなものをまっすぐに切り裂く形ではっきりと飛んでいくのが視認できた。

 やっぱり、小さめな銃弾のような見えない弾がありとあらゆる方向へと飛んで行って、闇を切り裂いていく。

 一部、わたしやショコラがいる場所や、さっきの『盗賊』たちが倒れているところだけ、射線を外しているようで、それ以外の場所は銃撃――――『みだれうち』が繰り広げられていく。


 そして、わたしが突然のことに圧倒されていると、『それ』は起こった。


「……えっ!?」


 リディアさんの無数の弾丸がばらまかれた直後、それらが直撃した嵐の中から、突然、数多くの、多種多様な『魔獣(モンスター)』たちが姿を現したのだ。


 いや、違う――――。


 産まれたんだ、たった今。


 さっきまでエリさんたちから簡単な説明を受けていたから、わたしにもわかる。

 これが『はぐれ』の魔獣(モンスター)が産まれる瞬間なんだ。

 地面についている状態で。

 空中に浮かんだ状態で。

 それこそ、今見渡せる範囲内のあらゆる場所から、次々と『魔獣(モンスター)』が産まれては――――次々とその直後に銃弾に貫かれて倒れていく。


 本当に、この世のものとは思えない光景が目の前で広がっていた。


 まるで、リディアさんはどこに『はぐれ』たちが現れるのかわかっているかのように、次々と『しょっと』を『みだれうち』しては、それらを葬っていく。

 と同時に遠距離からも次々と死体の回収も行なっていて。

 どんどん、リディアさんの持っているアイテム袋へと吸い込まれていくのも見えた。


 リディアさんの両手が振るわれるのと共に、周囲を取り囲んでいる圧倒的な暴威が撃墜されて払われている。

 まるで、オーケストラの指揮者のような。

 あるいは、不浄の空間を祓う聖者のように。

 ただ、淡々とした動きで、慣れた手付きで、いつも通りの無表情なまま、『魔獣(モンスター)』の死体を量産していく様からはまったく現実味が感じられない。


 今、初めてわかった。


 これが凄腕の冒険者たるリディアさんの力なのだろう。

 何がすごいと言っても、周囲にいるわたしたち――――わたしやショコラだけではなく、先程リディアさんが打ちのめしていた『盗賊』たちも含んだ存在――――をすべて、それ以上傷つかないように護りながら、周囲の異常に対しても冷静に対応している。

 その姿には、思わず圧倒されてしまう。


「リディアさん、これって……」

「ん、ごめん、コロネ。思ってたより規模が大きかった」

「いえ、あの、これは何なんですか?」

魔獣暴走(スタンピード)

「え……?」

「『虚界の容量過多(スタンピード)』。それによって、『はぐれ』が大量に発生する。『虚界』の側だと割とよく起こる現象」

魔獣(モンスター)の大量発生?」

「そう。コロネも『町』に住むのなら、知っておいた方がいい。ここ、『虚界』に近いところに町を作ったから、安定するまでは他の地域よりもスタンピードが起きやすい。外へ出かける時は注意」


 そうだったの!?


 いや、あの、わたしの問いに答えてくれている間も、リディアさんによる攻撃も、ポコポコと『はぐれ』が湧き出す現象も続いているんだけど。

 だから、ゆっくりと話している場合じゃないだろうね。

 わからないことは、後で誰かに聞いた方がいい気がする。

 あんまり、リディアさんの邪魔をして、今よりも危なくなっても困るし。


「思ったより、大規模。コロネ、ひとつお願い」

「何ですか?」

「チョコレートを飛ばして。口めがけて」

「リディアさんの口に、ですか?」

「そう」


 この状況で?

 一瞬、想像もしていなかったお願いに、ぽかんとしてしまったけど。

 そんなわたしにリディアさんは頷いて。


「このままだと、もうしばらくでガス欠になる。今も攻撃を加減してるけど。スタンピードが落ち着くまでもたせるために」


 あ、そっか!

 このリディアさんの攻撃も無限に繰り出し続けることはできないんだね。

 それはそうだろう。

 たぶん、これも魔法の一種だろうけど、だったら自分の魔力を使って現象を引き起こしているはずだから。

 当然、フィナさんからも教わった通り、使い続けたら魔力が切れてしまう。


 と、そこまで考えて、あれっ? と思う。


「あの、リディアさん、わたしの『チョコ魔法』、魔力を回復する力はないですよ?」

「心配ない。それでいい」


 えっ? ということはリディアさんが使っているのは魔力じゃないの?

 うーん。

 何だかよくわからないけど、割と危機的な状態だろうから、すぐに言われた通りのことを行なう。

 いつもショコラにやっている要領で、リディアさんの口めがけて、『チョコ魔法』を発動して飛ばす。


「ん、美味しい♪ その調子でどんどん」

「わかりました!」


 言われた通り、次々とチョコレートを生み出しては、リディアさんの口へと飛ばしていく。


 わたし、チョコを作って投げる。

 リディアさん、それを食べて、魔獣(モンスター)を攻撃する。

 ショコラ、わたしの真似をして、『チョコ生成』で生み出したチョコをリディアさんへと飛ばす。

 やっぱり、リディアさんはそのチョコも食べる。

 そういう循環ができあがって。


 というか、ショコラが生み出したチョコレートも普通にチョコレートなんだね?

 『ん、美味しい』って、リディアさんが言っていたから、後でわたしも味を見てみよう。

 何となく、ショコラの身体を食べる感じになりそうだから、今までは試したことがなかったんだよね。

 でも、さっき、ショコラもチョコレートを生成して飛ばせるようになったし。

 これなら、試しても問題なさそうだもの。


 そんなこんなで。


 リディアさんの存在のおかげで、周囲の異常へも冷静に対応できるようになって。

 まあ、ゲームってこういうものだろうと心の中で納得しつつ。

 せっせと、チョコレートの生成を繰り返すわたしなのだった。

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