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第27話 コロネ、女王さまと出会う

『うむ、よく来たのぅ。ゆるりとくつろぐとよいぞ』

「ん」

「あ、はい」

「ぷるるっ!」


 わたしたちが案内されたのは、あの立体的なコンテナハウスの中の一室だった。

 そして、目の前の椅子に乗った状態で相手をしてくれているのがエリさんだ。


 エリザベート・クインマンス・18世。


 通称、エリさま。


 この部屋まで案内してくれた親衛隊の蜂さんより、一回り小さい体躯。

 頭の上には小さな王冠を付け、手に杖のようなものを持っている以外は、どこからどう見ても蜂さんのモンスターにしか見えない姿。

 この魔獣(ひと)こそが、この世界におけるハチミツの権威でもあり、『中央大陸(セントラル)』でのハチミツの生産をほぼ独占しているという、甘味を牛耳っている女王でもある、と。


 だから、たぶん、もの凄い(ひと)なんだろうけど。


 その割には質素な部屋というか。

 案内された一室も他の個室と同じ造りのようで、『塔』でわたしが使わせてもらっている部屋よりも狭いのだ。

 『宮殿』という言葉とは大分かけ離れている印象というか。

 お妃さまがいるお部屋かというと、ちょっと想像と違っていたので驚いた。


「随分と慎ましやかなお住まいなんですね」

『まあのぅ、(わらわ)はここの孤児院の長でもあるからのぅ。己ひとりが贅沢をするわけにもいかぬのじゃ。無論、我が子たちは身の回りの世話などはしてくれるがな。ふふ、良いご身分じゃろ?』

「そういうのは、自分で言わない方がいい」

『ぬ? ふはは、それをリディアに言われるとはのぅ。お主も言葉を紡ぐのは苦手な部類じゃろうに』

「ん、否定しない」


 リディアさんの指摘に楽しそうにエリさんが笑う。

 やっぱり、ふたりとも仲が良さそうだ。

 少なくとも、エリさんの顔がはっきりと笑っている、とわたしでもわかるぐらいにほころんでいるからね。


 それにしても、『孤児院』か。


 今さっき、この建物が『教会』の『孤児院』だと教わった。

 名称は『サイイース孤児院』。

 この大陸の中では最東端にある孤児院なのだそうだ。

 そして、エリさんはこの孤児院の長の役目も担っているらしい。

 見た目は巨大な蜂さんだけど、やっぱり仕事はできる女性って感じらしい。


 そこで暮らしている『子供たち』にはびっくりしたけど。


「こちらの孤児院にいる子供たちは?」

『うむ、見てもらえばわかるとおり、元ははぐれモンスターだった者たちじゃな』


 そう。

 ここは『モンスターの孤児』のための施設なのだ。

 『孤児院』っていうから、てっきり人間の子供とかが多いのかと思ったけど、そういう子たちは『サイファートの町』の中に別の施設があるのだとか。


『無論、ここでも人の子も受け入れてはおるがのぅ。まあ、妾が長をしているのもそういう事情があるからじゃな』

「モンスターさんにも孤児がいるんですね?」

『まあ、親なしとは少し意味合いが違うがの……そうじゃ、コロネよ。お主、迷い人であったな? では恐らく、はぐれモンスターについても詳しく知ってはおるまい?』

「ええと……はぐれモンスターって、魔獣さんのことですよね?」

『いや、間違ってはおらぬが、正しく認識もできておらぬようじゃな』


 ふむ、とエリさんがわたしの方を見て。


『これもここの長の務めじゃ。軽く説明しておいてやるかの。いいか、コロネよ。この世界の生き物は大きく分けて、ふたつに分けられるのじゃ』

「えっ? ふたつですか?」


 たったふたつ?

 今まで教えてもらった話と少し違うよね?


『そうじゃ。種族の分類とはまた別じゃな。この世界の生き物は大きく分けるとたったのふたつじゃ。ひとつは魂の宿ったモンスター。そして、もうひとつが魂の宿っておらぬ、器のみを似せて生まれたモンスターじゃ。前者が妾やコロネのような者で、後者がいわゆる『はぐれモンスター』じゃな』

「魂、ですか? それに、わたしもモンスターなんですか?」

『うむ。そうじゃな。魔獣(モンスター)という響きに抵抗があるのなら、『動植物』と『器のみ』と言い換えても良いぞ。もっとも、魔素が身体に定着している以上は『魔獣』であることに変わりはないのだがの。お主ら人の子が魔法が使えるのも『魔獣』であるからゆえ、じゃ』


 なるほど。

 そういうことか。

 つまり、魔法を使える種族はすべて『魔獣(モンスター)』になるってわけだね。


 うん? あれ? そういえば。


「あの、ドワーフは魔法が使えないって聞きましたけど?」

『ドワーフは鍛冶の際に魔素を用いるのじゃ。それは魔法を使っておるのと変わらぬな。ふむ、少し話が逸れたようじゃな……話を戻すと、いわゆる『はぐれ』と呼ばれる者たちは他の『魔獣』とは生まれかたが異なるのじゃ。彼奴らは『虚界』に蓄積されてあふれた魔素から産まれた者じゃからな』

「え? え?」


 ちょっと待って?

 いきなり意味がわからなくなったよ?


「ん、コロネ、さっき倒したモンスターもそう。いきなり生まれる」

「えっ!? そうなんですか!?」

『まあ、そういうことじゃな。この世界はそういうものじゃから仕方ないとしか言えぬのぅ。コロネ、お主のように魂を持って流れてくれば問題はないがな。『はぐれ』はあくまでもあふれたエネルギーが器を持って具現化しただけに過ぎん。それゆえに生物としての大切なものが欠いておるのよ。であるから、倒すしかない。普通の『はぐれ』はそういうものじゃ』


 だがのぅ、とエリさんが続けて。


『そんな『はぐれ』の中にも特殊個体のようなものがおってな。ごく稀に、ただの器に魂を宿すものがおる。そうなれば、普通の魔獣(モンスター)と変わらぬからの。そういったものたちを『孤児』として受け入れておるのが、ここなのじゃ』

「ん、教会の試験的施設」

『反対する阿呆も多いからのぅ。であるから、妾が長を務めておるのじゃ。ふふ、表立って妾に敵対しようとするものは『教会』の中でも少ないのでな』


 ふうん?

 細かい部分はよくわからないところもあったけど、何となく、ここの孤児院とエリさんの立場についてはわかったかな。

 ハチミツの報酬目当てのクエストで意外なことが聞けちゃったね。


 あ、そうだ。

 そもそも、ここを訪れた目的だよね。


「エリさん、それでクエストについてなんですけど……」

『おお! そうじゃったな。妾もエミールから話を聞いてな。それでコロネの『お菓子』とやらに興味を持ったのじゃ』


 エミールもこの集落に家があるからのぅ、とエリさんが笑う。


『何? オサムが太鼓判を押して、ウーヴの阿呆が騒ぐ甘いものじゃと? 甘いものと聞いては、妾も黙ってはおれぬからの。ぜひ、食してみたいと思ったわけじゃな。もっとも、わざわざここまで来てもらうつもりもなかったのじゃがな。すまぬとは思うが、コロネの側からの要望じゃろ? であれば、断る理由もなかったしの』

「ん、おいしかった」

『って、リディアよ、お主、既に食したんじゃな!?』

「それが報酬」

『……まったく、悪びれん奴じゃのぅ。楽しみにしておるものの前でそういうことを言ってはダメなのじゃ。コロネよ、妾にも食べさせてくれぬか?』

「はい、わかりました」


 これが本題。

 早速、わたしはエリさんに頼まれるがままに、持ってきたお菓子を取り出した。

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