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第26話 コロネ、シャボン玉の内側に入る

「着いた。ここが目的地」

「ここですか?」

「ぷるるーん?」

「ん、サイファートの町から真東の森の中。サイイースの居住区」


 リディアさんに案内されてたどり着いた場所は、見た目がとっても不思議なところだった。


「シャボン玉の膜……?」


 森の中を進んで、少し開けた空間に出たと思ったら、目の前に現れたのは半透明の巨大なテントで覆われたような場所だった。

 まるでシャボン玉でできたような薄い膜。

 それがかなり広めの空間をすっぽりと包み込んでいるのだ。

 大きな半球状……なのかな? ドームって言ってもいいかも知れない。


 ……さすがにこんなものは今まで見たことがないよ。


「ん、町の周囲を囲う結界と同じ。はぐれモンスターなどが中に入れないようになってる」

「あ、これって結界なんですか?」

「そう。感触はスライムに近い。なので、通る時にも穴が開かない。すぐ修復される」


 へえ、そうなんだ?

 あ、そういえば、ピーニャも言ってたっけ。

 町というか、人が住む場所には必ずモンスター避けの処置がされてる、って。

 そうしないと、いつはぐれモンスターに襲撃されるかわからないから、と。


「つまり、この中に教会の施設があるんですね?」

「ん、『サイイース孤児院』。早速、中に入る」


 そう言って、わたしの手をつないだまま、リディアさんがシャボン玉の膜の中へと身体を近づけて。


 ――――と。


『――――お客様コード確認――――』

『――――お客様コード確認――――』

『――――お客様コード確認――――』

『――――適性検査クリア――――』


 シャボン玉が震えるように振動したかと思うと、どこからともなく無機質な声が響いた。

 まるで機械のような音声だ。

 今のって、何か調べられたのかな?

 わたしがそんなことを考えている間も、リディアさんは表情を変えることなくまっすぐと進んでいく。

 そして、そのまま、むにゅにゅにゅっという触感を感じながら進むと、いつの間にか膜の内側へと入り込むことができていた。


 後ろを振り返ると、普通にシャボン玉の膜が張られたままになっているね。

 すり抜けた、というか。

 膜を貫かずに通過したというか。

 リディアさんの言う通り、穴なども一切開いていない。

 何となく、空港でのスキャニングに近いというか、食品工場などでの全身消毒に近いというか。

 不思議な感覚だったよ、うん。


 まあ、中に入れたってことは問題ないってことだよね。

 そして、改めて、中の様子を見てみると。


 そこには一面のお花畑が広がっていた。

 お花畑の中央、ここから大分離れた場所には木でできたログハウス風の建物が連なっているのが見えた。

 ひとつひとつの規模は小さいのかな?

 数多くの小さめなコテージが連なって、大きくて広い建物を形成しているように見える。


 その中でもひとつだけ目立つ建物があった。

 周囲のコテージは平面に広がっているのに対し、その建物は個室っぽいログハウスが立体的に積み上げられているのだ。

 イメージとしては、ハニカム構造のデザイナーズマンションに近いかな?

 あるいはコンテナハウスというか。

 人はいっぱい住めるけど、何となく奇妙な個室がいっぱいの建物。


「……確かに人はいっぱい住めそう」

「ん、この辺りはエリの支配地でもある。だから、孤児院もあの造りになってる。そうすれば、エリが喜ぶ」

「そうなんですか? えっと……リディアさん、そのエリさんってどういう方です?」

「ハチミツ作りのプロ」

「……ということは?」


 つまり、ここでハチミツを作っている責任者の人かな?

 わたしがそう尋ねると、リディアさんが頷いて。


「ん、教会のハチミツはすべてエリの管轄。仲良くなるとうれしい」

「そんな偉い人が、ここにいるんですか?」


 ちょっとびっくりした。

 一応、この辺りって、大陸でも辺境って扱いだと思ったから。

 でも、リディアさんの説明によると、そのエリさんが『神聖教会』における、ハチミツ事業の総責任者みたいな立ち位置に就いているらしいのだ。


「そう。ほら、迎えが来た」

「えっ?」


 そう言って、リディアさんが指さした先を見ると。

 全身に鎧を身に着け、手……いや、足に槍のようなものを持っている蜂の集団が、こちらへ向かってホバリングしてくるのが確認できた。


 えーと。

 随分と大きくない?

 遠目で見ても、たぶん、わたしよりも身長が高そうだよ。

 数は十より少し多いかな?

 そんな武装した巨大蜂さんたちが、綺麗に隊列を組んでこっちへ向かって飛んでくるのだ。

 多少は、このゲームの世界に慣れたとは言え、結構怖い。

 ガネーシャのガーナさんもそれっぽかったけど、こっちの蜂さんたちも一切の遊びなく、昆虫の『蜂!』という感じの蜂さんなんだもの。


「エリの配下の親衛隊蜂。虫系統の魔獣(モンスター)

「あの……もしかして、エリさんも?」

「ん、一応、魔獣(モンスター)だったはず」


 ……やっぱり、そうなんだ。

 うん、別にここ一か月で、町中でもモンスターさんと会う機会はあったから、そういうものだとは思うんだけど。

 でも、ちょっと困るのがコミュニケーションなのだ。

 わたし、まだ『モンスター言語』がわからないから、正直、エリさんって人がモンスターだとすれば、細かい部分でも意思疎通が取れるか心配だもの。


 この親衛隊の蜂さんも、いかにもなモンスターさんだし。


 ――――と。


 その蜂さんたちが、わたしたちのすぐ側まで近づいてきたかと思うと。

 直後、ピシッと地面に降り立った。


『お待ちしておりました。リディアさま、コロネさま、ショコラさま』

「――――っ!?」


 えっ!?

 今のって、羽の音……だよね?

 一番前に立っていた蜂さんが羽を震わせたかと思うと、理解できる言葉が聞こえてきたよ?


 わたしが内心びっくりしている横で、淡々としたままリディアさんが頷いて。


「ん。エリは自室?」

『はい。お妃(エリ)様はそちらでお待ちです。我々がご案内しますので、先導に従ってください』

「ん、わかった。コロネ、行く」

「あ、はい!」

「ぷるるーん♪」


 再び、隊列を組んで飛行を始める蜂さんたちの後ろへ。

 そのまま付き従う形で、お花畑の真ん中を走るまっすぐな道を歩く。


『あちらがお妃(エリ)様がおわします宮殿です』


 案内されたのは、さっきからずっと遠目でも見えていた、あの不思議な建物だった。

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