表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちょこっと! パティシエ少女は異世界でおどる  作者: 笹桔梗
第1章 はじまりはじまり編
1/51

プロローグ

「アルバイト……ですか?」


 目が覚めると、わたしは真っ白な部屋のベッドの上に寝かされていた。

 あれ? おかしいな、とか。

 ここはどこだろう、とか。

 現状、何が起こっているのかわからない私の前に、ひとりの、白衣を着た女の人が現れて、いきなり、いくつかの質問を投げかけてきたのだ。


 ――――自分の名前はわかるか?

 一瞬、わからなかったがすぐに思い出した。

 わたしの名前は須賀(すが)心音(ころね)だ。


 ――――年齢は?

 19歳だ。


 ――――職業は? 出身地は?

 職業は『パティシエ見習い』だ。パティスリー『ニルヴァナ・ミレット』の従業員として、今はまだ研鑽を積んでいる身だ。出身地は東京……かな?


 その他にもいくつもの質問が投げかけられて。

 それに答えていくうちに、少しずつ、自分が置かれている状況がわかってきた。

 白衣の女性……名前は涼風(すずかぜ)雪乃(ゆきの)さんというらしい。その人が説明してくれたところによると。


 どうやら、わたしが日本に帰国する際に乗った飛行機が着陸直前に爆発を起こしてしまったのだそうだ。


 うん、大事故だね。

 

 そんな大事故に巻き込まれて、よく命があったものだ、と感心してしまう。

 いや、動揺はしているよ?

 たぶん、気持ち的に現実逃避しているというか、頭がふわふわしているから、そのせいなのかもしれない?


 ……え? わたしが?


 涼風さんによると、どうやら、ちょっと前にわたしは一度、気が付いていたのだそうだ。その際に、自分の身体がまったく動かせないことにパニックを起こして……錯乱?

 うわあ。

 それで、薬で一度眠らされた、と。

 今の説明を聞いたうえでも、びっくりするほど落ち着いているのは、その薬のおかげでもあるのだそうだ。

 そりゃあそうだよね。

 もう治療の見込みがない、って話を聞いて、それで平静を保てるわけないもん。


 ……はあ。

 そっか。

 やっぱり、わたし、もう……パティシエになれないんだ。


 絶望という感情がどこか欠落しているけど、そんなわたしがぽつりと放った一言。

 それを聞いた涼風さんが、投げかけてきたのが冒頭のわたしに対する問い、だ。


 ――――だったら、アルバイトをする気はないか? って。


「アルバイト……ですか?」

「そうだ。須賀(すが)心音(ころね)。君がどういう人間かは確認させてもらった。その若さで、かの有名店のパティシエールへの昇格が内定した――――そうだね?」

「はい」


 今回の一時帰国からお店に戻れば、晴れて、『パティシエール』としてお店で働くことが決まっていた。

 日本に帰ろうとしていたのも、そのことをお世話になった人たちに報告するためだ。

 もう、その意味もなくなってしまったけど。


「それならば、ちょうどいい働き口の話がある、ということだ」

「でも、わたし、今、動かせるのは目と口ぐらいですよ?」


 正直なところ、自分のパティシエとして積んできた経験が生かせるとは思えない。

 だけど、涼風さんは、そんなわたしの言葉に笑って。


「案ずるな。現実の身体は関係ない。何せ、私が頼みたい仕事はゲームの中の話だからな」

「ゲーム、ですか?」

「ああ。厳密には少し異なるが……そう捉えてもらって構わない。ゲームの中の世界…………『ツギハギだらけの異世界』と呼ばれる世界の、とある町で料理人として働いてもらいたい。そのパティシエとしての経験を活かして、だ」

「『ツギハギだらけの異世界』……?」

「通称『ツギハギ』だな。名前の通り、複数の世界から要素を受け入れる、少しばかり珍しいタイプの世界、だな。まあ、だからこそ、興味深いとも言えるのだが」


 そんなことより、と涼風さんが続ける。


「どうする? ゲームの世界とさっきは言ったが、既に技術的には現実と変わらない程度には整備されているぞ? 少なくとも、今の君の憂いを晴らすにはちょうど良いと思うのだが」

「……やります」


 ゆっくりと、頭の中で頷きながら、わたしはそう答えた。

 だって。

 今の、頷く、って行為すらも、今のわたしの身体ではままならないんだもの。

 だったら、ゲームの世界だろうと、パティシエのお仕事ができる場所に行った方がいい。

 涼風さんも補足してくれたけど、今はゲームの方も進歩していて、まるでゲームの中にトリップしたかのような感覚で遊ぶことができるのだそうだ。

 へえ、って思った。

 わたし、ずっと、パティシエになるために必死だったから、ゲームとか一切触れたことがなかったけど、今ってそんな感じになってるんだ?

 だからこそ、ゲーム内でも料理を食べるって要素が重要らしくて。

 だから、プロの料理人、か。


 そうだよね。

 そもそも、プロとして働いている料理人さんが、今のお仕事をやめて、ゲームの世界で腕を振るってくれ、って言ってもほとんど引き受けてくれないだろう。

 料理の世界は、お菓子作りも含めて、第一線で働くには、日々の成長が不可欠だから。うちの店長もそうだけど、有名店のトップで、一流として名を馳せているからこそ、一日一日の努力が必要なのだ。

 未だに、朝出勤すると、料理科学の研究ルームで寝落ちしている店長を見かけることがあるし。

 わたしも見習わなくっちゃ、って思ったし。


 正直なところ、わたし程度の腕でパティシエを名乗るのはおこがましいかも知れないけど、そもそもわたしには選択肢がないのだ。現実の世界ではお仕事を続けるのは不可能だし。

 だから、たぶん、店長も許してくれるだろう。


 うん。

 せめて、涼風さんには、店長にわたしの現状について伝えてもらって。

 お世話になった人たちにも言葉を伝えてもらって。


 それで。


 わたしは、ここから新たに人生をやり直すことにしよう。

 気持ちの切り替えの速さだけは、わたしの取り得。

 嘆いている暇があったら、前へ進め。

 だって、わたしは生きているんだから。


 そう、心の中でもう一度頷いて。


 わたしは改めて、涼風さんの依頼を受けることにした。

 今の技術なら、ずっとゲームの世界と繋いだ状態で、生命を維持することも可能、と。

 もし何か、身体が危険な状況に陥ったら、こちらに呼び戻されることもあるが、そうでなければ、ずっとゲームを続けることができる、と。


「ならば、それはもうひとつの現実と変わらないだろう?」


 そんな涼風さんの言葉に、心の中で頷きを返して。

 こうして、わたしはゲームの世界で『パティシエ』として生きることになった。


 だから。


 わたしはそこで世界一の『パティシエ』を目指す。


 これがわたしの新たな第一歩だ。

はい。というわけで、『ちょこっと』の新版スタートです。

以前は、設定を練っていなかった部分や、伏線として放置しておいた部分が多かったのですが、そちらも消化できてきましたので、そろそろチャレンジしようかな、と書いてみました。


旧作との修正点は『調理描写は控えめ』『短編(or中編)連作型』『時間が飛びます』『他のキャラの視点も多めに入れます』『ストーリーを進行させます』『コロネの能力を強めに』、という感じです。


どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ