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13-2 神が居る国

 飛空艇は順調に進み、海を渡りイザレスへと辿り着いた。


 眼下には大きな島が見える。


 大きさとしては……四国?いや北海道?うーん、その二つじゃ大分差があるな……


 とにかく上空からは一望できない程度には大きな島国だ。


 島には何やら巨大な湖に囲まれた、更に輪をかけて巨大な桜の木がある。


 その湖の周りも桜並木が広がっているし、あれが神様が居る場所なんだろう多分。何と言うか凄くそれっぽい。


「それでサンロメアってあの大きな建物がある所で良いのよね?」


 アンナさんが言うように桜の場所から少し離れた所に街があり、そこには一際大きな教会があった。


「はい、あそこがサンロメアになります」


「ようし、それじゃあ近くに……と言っても降りれる場所がないか。何処か開けた場所はないかなー」


 ぐるりと見渡しても特には無かったので、街から離れた場所の平地へと下りる事にする。


 風が周りの草を巻き上げ、船体が地面をガリガリと削りながら着陸した。


「今度はこの着陸の仕方も改良してから渡して欲しいものね。それでリーナちゃん大丈夫?」


「うー……何とか……」


 気分悪そうにヨロヨロとリーナが立ち上がる。


「これ……また帰り乗るのよね?」


「まぁ、そうなるだろうな」


「うぅ……」


 心底嫌そうな顔をリーナが浮かべた。


 災難だとは思うが、こればっかりは我慢してもらうしかないな。


「それじゃあ少しだけ休んで、神の塔を登る許可を貰う為にサンロメアへと向かいましょうか。レオ君とロンザリアちゃんはちょっと目立っちゃうからお留守番ね」


 アンナさんの言葉に二人が素直に返事をした。


 リーナの調子が戻るまでしばらく休んだ後、徒歩で目的地へと向かう。


 飛空艇のある場所から一時間程、ようやくサンロメアへと辿り着いた。


 街の中にも桜が道沿いに咲き、木造建築の丸く可愛らしい家々は、何と言うか……とてもファンタジー的な雰囲気がある。


 いや、俺の元の世界と比べれば何処もそうな筈だが、イサベラもフレージュも魔法関連や二昔前の雰囲気以外は、街並みに俺の居た世界と変わりはなかった。


 しかし、ここイザレスは他の国とは明らかに違う隔絶した世界のようだ。


「なんか街の雰囲気がイサベラとも俺の世界とも全く違う感じだな」


 キョロキョロと辺りを見渡していく。


「そうですね、幻想的と言いますか、とても素敵な街並みです」


「離れた島の国で他とあまり交流がなかったから独自の文化が発展してるのかもね」


 エイミーとリーナも目を輝かせながら街を見ている。


 やはりこんな雰囲気の街は女性受けが良いのだろうか。


 その街並みを見ながら歩いていくと教会の前に付いた。


「すげーな」


「本当、凄い事になってるわね」


 リーナと二人して間抜けに口を開けて建物を見上げる。


 近くに来るとその大きさと、細かく掘り込まれた壁の模様に圧倒されてしまった。


 別に宗教的な物にはあまり興味は持っていない性分であったが、これは確かに神様への偉大さって物を感じる。


「アンタの世界にはこんな建物ってなかったの?」


「うーん、あるにはあったけど俺は行った事が無いな。今思うとちょっと勿体無かったかもな」


 こんな教会は日本にはなかったが、神社仏閣等は少しは見ておけば良かったかもしれない。


「みんなー、入って良いって事だからこっちー」


 教会の衛兵の人に大司教へと会えないか確認をしていたアンナさんが俺達を呼んだ。


 衛兵に連れられて教会の敷地内を歩いていく。


 一応は国の代表として来ている訳だが、どうしても教会の豪華な内装に頭と目がきょろきょろと動いてしまう。


(みっともないから前向いてなさい)


 そうリーナにこずかれて小声で叱られてしまった。


 確かにそうだと我慢して前を向くと、アンナさんの横でガッチガチになったエイミーが歩いている。


 まぁ緊張するのも仕方ないか、聖職者の人なら憧れの場所と人の下に行くわけだし。


 歩いて着いた大きな扉の向こうで柔和な笑みを浮かべた老人、大司教が待っていた。


 見た目はニュースとかで見る法王とかとあまり変わらない。


 結局どんな世界でも、何かのトップはこんな感じで豪華な見た目になるのだろう。


 そんな割と失礼な事を考えていると、アンナさんが大司教の前に跪いたので俺達もそれに倣った。


「お初にお目に掛かりますヨハネス大司教、私はイサベラの槍の一人アンナ・ヴィエーラ、三人はエイミー・メラート、リーナ・エスカロナ、リョウ・サナダと言います。私達は神の塔へと入る許可を頂きたくここに来ました」


 かりこまるアンナにヨハネス大司教が目を伏せて頷く。


「貴方方の事は存じております。フレージュより私達の元へ連絡がありました、近く魔王の器である少年が神の塔を登りに来ると」


 その言葉に俺は思わず顔を上げる。


「違う!レオは魔王なんかに」


 俺の言葉を大司教が手を上げて止めた。


「それにこうも聞いております。その少年を私に見極めて欲しいと」


「見極める?」


 不安げな俺に大司教が優しい笑みを向ける。


「彼は人でなくても悪では無いかもしれない。それがフレージュからの言葉でした。不安と恐怖の中でも紡いだその言葉、異世界からの友よ、貴方の友達の言葉は確かに世界に届いています」


「そうか……そうなんだ……ありがとうございます」


 何のありがとうかは分らないけど、そう口に出た。


「それでフレージュよりその少年の髪は青白く光り、眼は金色に輝くと聞きました。それは本当ですか?」


「え?あ、はい。レオは魔力を使う事で見た目がそんな感じに変化します。でもどうして?」


「いえ、そのような変化をする人が本当に居るのかと思っただけですので。気を悪くされたのなら申し訳ありません」


 頭を下げられて俺も反射的に下げてしまう。


 だが、どこかはぐらかされた気もした。 


「では私達はレオ・ロベルトを連れて出直したほうが?」


「お願いします。私に彼の運命を決める資格などないでしょうが、彼と会わせてください」




 俺達は大司教へと別れの挨拶をして部屋を出ていた。


「レオ君を連れてくるとして、あの目は目隠しでも付けさせましょうかね」


「そうですね、大司教さんは理解があるみたいですけど、やっぱり他の街の人に見られると騒ぎになるだろうし」


 教会の中を戻りながらレオを連れてくる際の事を話していく。


 レオの目は魔力を使わずに時間を置けば普通の目に戻る。


 でも完全に戻るまでに6、7時間程掛かってしまうし、今は目を隠して連れて来てしまうのが一番簡単だろう。


 この不思議な街並みを見ることが出来ないのは残念だろうが、まぁそれは次の日とかにでも我慢してもらおう。


(お兄ちゃ~ん)


 まだ教会の中を歩いている時、頭の中にロンザリアの声が響いたので立ち止まる。


「どうかしましたか?」


「ああ、ちょっとロンザリアが……それで、どうした?」


(う~ん、なんだか飛空艇が囲まれちゃったみたい)


 事態の割には緊張感の無い声でそう告げられた。

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