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2-2 定まらない心

 町に着き宿の部屋を取った後、レオ達は町の役所へと向かった。


 ついてくるかと聞かれたが、あまり乗り気が起きずに断り一人宿のベットの上で寝転がる。


 特に何をするでもなく天井を見つめていたが、どうも落ち着かず外に出た。


 町は最初に見た村と比べて石造りの建物が目立つ。


 前の小さな村が木造で建てられていただけで、石造建築が主流の国なのかもしれない。


 雰囲気としては地理の教科書で見たイタリアの街並みに近い気がする。赤い屋根に白い建物がお洒落だ。


 周りは人通りも多く活気があるように思える。


 人の居る方へと何となく歩いていくと市場に出た。


 多種多様な店が並んでおり、中でも目に付いたのは武器防具屋や魔法関連の物が置いてある店だった。


 普段ならテンションが上がり店の中を見て回ったのだろうが、どうもその気になれない。


 何か見たいものや目的があるでもなく、ぶらぶらと歩いていると寂れた店が一軒あった。


 中に入ってみると雑貨屋のようで、埃が溜まっている棚に筆記具や旅の道具が置いてる。


 潰れて放置されているのだろうかと思いながら見ていると、奥からしゃがれた声をかけられた。


「小僧なにをしてる」


 言われそちらを向くと老人が奥の椅子に座っている。無人かと思っていたがそうではなかった。


「いや、ちょっと店の中が気になって」


「ここが営業してるように見えるのか?ここはもうやってはおらん、何か買いたければ他に行けい」


 そう言うと老人はこちらを睨みつけてきた。


「良いだろ別に、ちょっと見るぐらい」


 何故だがその目に反抗したくなり店の中に居座る。


 店の中は埃だらけだった。


 床にも薄っすら積もり、商品に蜘蛛の巣が張っている物もある。掃除はしないのだろうか?


「お前さん見ない顔だな。余所者か?」


 無視しようかとも少し思ったが質問に答える事にした。


「ああそうだよ。別の所から旅をして来たんだ」


 その言葉に老人が「くっくっくっ」と小さく笑う。


「なんだよ」


「いやなに、旅は思っていたのと違ったか?」


 そう聞かれ言葉が詰る。


 思っていた旅。俺が思っていた異世界の旅。


 それはどんな物だったか、それを考えると確かに今の状況は違う。


 でも、それを言い出すつもりにもならなかった。


 黙っている俺を見て老人は話を続ける。


「旅をする者の理由は幾らでもある。それを楽しく思う者も、辛く思う者もそれぞれじゃろ。だが今のお前さんの顔は不満の顔をしとる。まるで手に入れた玩具が、自分が頼んでいた物と違った時の子供のような顔を」


「あんたに俺の何が解るって言うんだ!」


 老人の言い方に思わず叫んでしまう。


「ふっふっふ、解るものか、お前さんとは今あったのだ。だが不満たらたらな顔を見ればそれ位解る。伊達に年は取ってらんのでな」


 笑い続ける老人がこちらに聞いてきた。


「それでお前さんは何処から来たのかな?そう遠くから来たようにも思えんが」


 そう問う老人を驚かせてやろうと思い言い放つ。


「いいか良く聞け、俺はここの世界じゃない他の世界から来たんだ」


 それを聞き老人が大声で笑い始めた。


 笑う老人を見て怒りが湧いて来るが、そもそも異世界人なんて言い出したら普通は笑う物だろうと思い何とか堪える。


「はっはっはっ他の世界から来たときたか、それは大層な事だ。どうした?この世界はお前さんの御眼鏡には適わなかったか」


 馬鹿にするような言い方に怒りが噴出した。


「ああそうだよ!この世界に来て、力に目覚めて!俺はこの世界で勇者をやる気だったんだよ!それがなんだ!レオ達の方が遥かに強い、感謝されるのはあいつ等だ!俺には何の力もない!」


 怒りを爆発させる俺に、老人が笑みを浮かべたまま問う。


「ほう、お前さんの言う勇者とやらはわしには解らんがどのような物なのだ?」


 その問に言いよどみながら答える。


「それは……強くて、勇気があって、仲間達に囲まれて」


「その勇気とは?」


「……困難に立ち向かったり、恐怖に打ち勝つ」


「お前さんにそれがあるようには見えんが?」


「なにを」


 心臓が痛いほど脈打つ。自分の行いを、自分の言葉を、自分の心は解っていた。


「お前さんが先程言ったのは全部我侭だろう。あれも欲しい、これも欲しい、そうは言うが貰うだけで居たい。それが叶わなかっただけで誰かに当り散らす姿はお前さんの言う勇者にも勇気にも見えんな」


 完全に図星だった。


 それを隠すように老人へと掴みかかる、思ったよりも軽い体を襟元を掴み持ち上げた。


 持ち上げられた老人は笑うのを止め静かにこちらを見ている。


 何かを言おうとした。殴ろうとまで思ったかもしれない。


 しかし、何も出来なかった。


 掴んだ手を放すと老人が力なく崩れ落ちようとする。


 それに驚くも何とか老人を受け止めた。


「下ろすなら椅子に下ろしてくれんか」


 抱えられそう言う老人の体を見ると、やせ細った四肢にようやく気が付く。


 足も力なく曲がっており動かないのが解る。


「足悪いのか?」


 そう尋ねながら椅子に座らせた。


「お前さんなんかに心配されるようなことじゃない」


 大きく息を吐いて老人が答えた。


「前々から調子が悪いとは思っていたが、気が付けばこんなものじゃ」


 ぺしぺしと力無く足を叩く。


 その様子を見てこの店が埃だらけな現状の理由も合点がついた。


 周りを見ていた俺の目線に老人が話していく。


「この店も管理するものが居なくなってこの様、前は若いもんが見に来てくれておったが鬱陶しくて追い返してしまった」


「どうして」


「言ったろ、鬱陶しかったんじゃ。もうこんな老い先短いジジイに情けを掛けてる様に思えて惨めじゃった。無論向こうは善意じゃろうて、わしにはそう取れるだけの余裕が無かった」


 そう言う老人は自分の行動に後悔しているのだろうか、寂しそうな、申し訳なさそうな顔をしていた。


「お前さんにも少し言いすぎたかもしれんの、誰かと話すのも久々で少しからかいたくなってな。気に食わないならジジイの戯言と流すのがええ。だがな、思う事があるなら今の内に考えて、いつか答えが見つかるとええな」


 俯きその言葉を聞く。思う事はあれど、顔を上げ話すことは出来なかった。


 しばらくし顔を上げ老人の顔を見た後、一度礼をして店を後にした。


 宿に戻るとレオ達も戻っていた。無事おつかいは済んだらしい。


「それで、アタシ達は明日になったら村に帰る予定だけどアンタはどうするの?」


「どうするのって」


 リーナに尋ねられるも何も答えが浮かばない。


「アタシ達の村に来る?それともこの町に住む?他の場所に旅を続けるって選択肢もあるけど」


 案を上げられても答えを出す事が出来ずに居た。


「まぁ今日一日じっくり考えてから返事を頂戴、出来ることならアタシ達も協力してあげるから。それじゃあアタシは部屋で休んでくるわ」


 そう言い残してリーナは自分の部屋へと向かって行った。


「俺はどうすればいいんだろうな」


 呟きにレオが答えてくれる。


「僕は僕達の村に来るのがいいと思うよ。リョウが思っているものとは違うかもしれないけど、皆温かく迎えてくれると思う。この世界で何かをしようと考えるのも、その後で良いんじゃないかな」


「そうか、そうかもな」


 優しくかけられた言葉。その言葉を聴き自分が更に惨めになっていく。


 夕食を食べ終わり、ベッドに寝転ぶも気分は晴れなかった。


 数日振りのベッドの筈なのに今日は良く寝付けずに居た。


 昨日の出来事と、老人の言葉と、自分の行いが頭の中を渦巻き、ようやく眠りへとつく。


 翌日の朝、目覚めは魔物の咆哮と共に起こった。

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