12-7 怒りの雷鳴
怒りに燃えるレオから途方も無い魔力が吹き出る。
レオの手に巨大な魔方陣が描かれ、雷鳴が空に轟いた。
正確な雷がストレッジ達の下へと降り注ぐ。
「これで倒せたとは思わないけど」
雷光の中に飲み込まれる敵を見て、リーナ達の下へと駆け寄る。
リーナは倒れては居るものの、ロンザリアが上手く庇ってくれたお陰で二人とも致命傷は免れていた。
二人に手を置き、魔力を集中させ治していく。
「レオォオオオオ!」
イヴァンが叫び放った闇が雷光を切り裂き、地面を抉り消滅させながら迫る。
この魔法は過去の世界で見た、消滅させる力は無限じゃない、それ以上の力をぶつければ!
巨大な魔方陣を描き出し、放つ強力な雷が闇の刃と衝突する。
「貫け!!」
溢れる魔力を存分に使った力任せの雷が消滅の力を上回り、闇を打ち破っていく。
その雷をストレッジが水の渦と触手の塊で作った壁で受け止めた。
受け止め弾けた触手が当たりに飛び散り、爆発し広がった水蒸気の向こうからイヴァンが怒り震え目を見開いていた。
イヴァンの手に魔法陣が再展開される。
このままここで戦うわけにはいかない!
「リョウ、後はお願い!」
涼へとこの場を頼み、立ち上がり駆け出した。
リョウやバルトロさんみたいに上手くは出来ないけど!
魔力を風に変えて身に纏い疾走し、ストレッジとイヴァンに掴みかかる。
「てめぇ何を!?」
「街から、出て行け!!」
掴んだまま空へと飛び上がり、
「うおおおおお!!」
上空で空に踏み込み、街の外へと二人を投げ飛ばした。
イヴァンは兎も角としてストレッジからは何か妨害が来ると思ったが、そのまま街の外へと追い出されていく。
それをレオも空中を蹴り出し追って行った。
ストレッジが街から離された事で呪いが無くなり、人々は苦しみながらも正常な意識を少しずつ取り戻していく。
「エイミー、大丈夫か?」
顔が蒼白になり震えているエイミーを抱き起こす。
抱き起こされたエイミーがこちらを向き、ほっとしたような顔を浮かべた。
「私は……大丈夫です。でも、まだ動けそうにありません……」
「そうか、いや無理しなくて良いよ」
「すみません」と謝るエイミーの頭を撫で、横に寝かせ休ませる。
「何とかなったね」
振り向くと目覚めたロンザリアが立っていた。
腹部を押さえているのはまだリーナを庇った時の怪我が完治していないのだろう。
「お前もありがとな、おかげで本当に助かった」
「んふふ、どういたしまして~」
そう笑うロンザリアはやはりまだ辛そうだ。
「でもちょっとロンザリアは先に帰っとくね」
「え、まだ傷も治ってないんだろ?ここで大人しく休んでろって、直ぐに助けも呼んでくるからさ」
俺の言葉にロンザリアは少し寂しそうに首を横に振った。
「ううん、良いの。多分ここに居たら、いやもう遅いかもしれないけど、お兄ちゃん達に迷惑が掛かると思うから……だからね、またね」
そう言ってロンザリアは出てきた地面の裂け目へと姿を消して行った。
「迷惑って何の事だ?」
そう疑問に思ったが、考える暇もあまりない。皆の救助の為に頭の中を切り替えていく。
けど、レオからここを任されたが、俺はレオの助けに行ったほうが良いんじゃないだろうか……
いや、任されたんだ。レオも向こうは一人で何とか出来ると算段があるのだろう。
それに俺が行ってどれだけ助けになると言うのか。
今ここで動けるのは俺だけなんだ、俺はここで俺が出来る事をやろう。
倒れている人達を助け出すために、涼は行動を起こした。
空中から投げ出されたストレッジが触手を伸ばしてイヴァンを掴み、他の触手を地面に突き刺し勢いを殺して草原に着地した。
「随分遠くまで飛ばされましたね」
事も無げにそう呟き、遠く空を翔けて来るレオを見る。
「あいつがぁ……何故生きている!」
空を行くレオにイヴァンが闇の槍を幾つも打ち出すが、レオが素早い動きでそれを全て避けていった。
中々に速いですね……
レオの動きを感心するようにストレッジが観察していく。
動きとしては四天のグライズ様に近いでしょうか、戦った事もありますから無意識に真似ているのでしょう。
顎部分をなぞりながら「うんうん」とストレッジが頷く。
「何をそんなに余裕そうにしているんだ」
その態度を見てイヴァンがストレッジを睨みつけた。
「いえいえ、申し訳ありません。しかし少々嬉しくありまして、あの者がこれ程までの力を有していることが」
それは正直な気持ちだった。自分が作り上げた力、それの真価を見るのは実に嬉しかった。
あれがこちらの手に入らなかったのは実に惜しい、ですが最終段階へと入ったと考えましょうか。
ともすれば……
「イヴァン、貴方はこの場から逃げてください」
触手を蠢かせながらそう告げる。
「はぁ?何で俺があいつから」
「貴方が居ても戦局に変わりはありません、それに貴方には別の役目がありますから」
「それとも」と深い金色の光をイヴァンに向ける。
「私の言う事が聞けませんか?」
その光に萎縮して、イヴァンは舌打ちだけを残しその場から走り出した。
「逃がさない!」
空を飛ぶレオが風の魔法から雷へと切り替え、逃げるイヴァンへと雷が迫る。
「いえ、逃がしますとも」
ストレッジの触手に魔法陣が展開され、辺りを多い尽くす霧が噴出した。
視界の確保も難しい濃い霧が雷を減衰させ飲み込んでいく。
深い霧の中でストレッジは戦闘態勢へとその身を膨らませ変化させる。
レオが目覚めた時、ストレッジは思わず首を落とせとイヴァンに命令した。
それは自身の命の危険を感じたが為に。
「あれが恐怖と言う物。このまま素直に逃げても良いのですが、これも魔物の性と言った所ですか……」
あの力を見て、恐怖と共にあの力と戦いと思い始めていた。
闘争は魔物の本性とも言うべき物、魔物として作られた四天もそれは変わらない。
「さて、楽しませて貰いましょう。この戦いを、貴方の力を」
再び風を纏い上空に居たレオは霧の中を目を凝らしていく。
相手の魔力で位置を探ろうと思ったが、霧が何か特殊な物なのか他の感覚すら曖昧になっていた。
「厄介だけど、今ならこうやって」
気が付けば枯れ果てている地上に降り立ち、両手の間に魔力で風を生み出していく。
唸りを上げて集まっていく暴風の渦を作り出し、それを解き放った。
強風が当たりの霧を巻き込み広がっていく。
思ったよりは霧は霧散しなかったが、視界は確保できるぐらいには薄くなった。
「何だ……あれは?」
霧の向こうに見えたものに思わずレオが驚いた。
異形の怪物がそこには居た。
醜悪な触手が無数に蠢く下半身と、ぬるりと伸び膨らんだ胴体、肥大化した頭からはまた多くの触手が伸びている。
先程までは辛うじて人型と言えたストレッジの見た目が大きく変貌していた。
もはや何の生物かとは形容しがたい怪物が金色の瞳をこちらに向け、胴から腕と巨大な羽根を生み出し、空へとその身を羽ばたかせた。




