12-1 忍び寄る影
巨大な翼の生えた船は優雅に空を舞う姿とは違い、荒々しく音を立てて地上に降り立った。
墜落したのでは?と思いたくなるような着陸の仕方だが、着陸時に船から出たアンカーやら、魔方陣から出る体勢を保つ為の強風を見るに、恐らくこれがこの船の着陸の仕方なのだろう。
「何だか思ったよりもヤバイのが来たわね、これってアンタの居た世界の飛行機には似てたりするの?」
何とか無事着陸した船を見て、驚きと呆れが入り混じった顔でリーナが聞いてきた。
「いいや、俺が居た世界のはもっとこう……」
魔力を形作り、空中に旅客機を描いていく。
「こんな感じで船そのまんまな見た目じゃないな」
出来上がった少々不恰好な飛行機を「ふーん」と、リーナが見ていく。
「成る程ね、それが正解で、あっちは不正解って訳ね」
「そもそも何で船の形そのままなんだって話だしな」
それは完全に船に翼を付けました、そんな見た目をしている。
航空力学とかには別に詳しくは無いが、それでも飛ぶに適してない事ぐらいは見れば分る。
しかもこの着陸の仕方的に、飛べはするけれど飛ばすつもりはなかった、未完成品とも聴いているしそんなつもりだったのだろう。
「でーもー、これが正解だって分るのは今は君しか居ないんだからあの形でも仕方ないわよね」
何時の間にか背後にアンナさんが来ていた。
「成る程ー、本当はこうなるべきなのね。ちなみに着陸はあの飛空艇と同じ?」
飛空艇?なんともそれらしい名前だな。
「いえ、胴のほうから車輪が出る仕組みになってて、それで着陸するようになってます」
「へー車輪は何時もはしまってるのね、やっぱり飛ぶのに邪魔だから?後はこれはこれで飛べるようには見えないけど、どう飛ぶの?」
「ああ、この翼の下の部分に飛行機を飛ばす為に、何と言うか勢いを付ける道具が付いてるんだ。そこから空を飛ぶための力を噴出させて……」
リーナもそのまま会話に入り3人で俺の世界の飛行機と、この世界の飛空艇の違いを話していく。
技術に対して知識の無いレオとエイミーはそれを横で「へー」と感心するように聞いていた。
話を続けていると周りで歓声が上がった。
歓声に飛空艇へと目を向けると、飛空艇からスロープが降りフレージュの要人が現れた。
「あの中央の禿っぱおじさまがフレージュのガジミール王ね、それでその後ろに控えてるお爺ちゃんが大賢者アンセルム・ベルトン、この飛空艇を作ったのもあのお爺ちゃん」
アンナがフレージュの要人を解説していく。
「大賢者って名乗るなら強いの?あのお爺ちゃん」
「強いわよ相当ね、少なくとも今のリーナちゃんよりは」
意地悪そうに答えるアンナの言葉を聞いて「ふーん」とそっけなくリーナは答えるが、目は対抗の炎を燃やしている。
その後もアンナが何人か解説していくと遠くからバルトロがこちらを呼びながらやってきた。
「皆さん方ー」
「どうしたのー?」
やってくるバルトロにアンナが聞き返す。
「いやー探しました、それでレオ殿達にガジミール王達が会議の前に会いたいとの事でしたので」
「僕達に?」
「はい、レオ殿とリョウ殿に」
「あれ?俺もですか」
達ってのはレオの序でかと思ったが、俺も含んでの事だったようだ。
「リョウ君は異世界人だしね~、向こうも会ってみたいんでしょ」
そうか、異世界人と聞いたら会いたくもあるか。
「なーんかアンタ達有名人になりそうね」
「にしし」とリーナが笑う。
「別に目立ちたい訳じゃないんだけど……」
変に目立ってしまわないかと少し嫌そうなレオの肩を「大丈夫さ」と叩く。
「良い意味で名が売れることは良いことさ、今後何をするにしてもな」
今後の戦いを考えれば各国のお偉いさん達にレオの事を知ってもらうのは良いことだ。
それに俺の存在が役に立つのなら幾らでも使ってもらおう。
この世界が勇者と共に歩んでいけるように。
ロンザリアはアルビ近くの森の木の枝に座って、街の様子を涼を通して見ていた。
涼があまり頭の中を覗かれるのを好きではなかったようなので、今回は気付かれないようにこっそりと頭にお邪魔している。
「へ~、人間って面白いもの作るんだね」
飛空艇は魔物のロンザリアから見ても珍しい物だった。
実の所魔王軍でもっと途轍もない物の心臓部分を作ってはいたのだが、それの詳細をしらないロンザリアは素直に感心していた。
それに涼の頭の中に浮かぶ涼の世界の機械類はロンザリアを大いに楽しませている。
「あ~あ、リョウお兄ちゃんの世界に二人で行ってみたいな~。それが出来たら~、二人で幸せに好きなことを好きなようにして暮らしたりして~、お兄ちゃんが向こうでやりたかった事を何でも叶えてあげるのに~」
体をくねくねさせながら妄想の中で二人の幸せ計画を練っていく。
もっともロンザリア自身これは全部妄想で終わる事は分っている。
仮に涼が元の世界に帰る方法を見つけて、自身もそれに付いて行く事が出来、自身の魔法が問題なく発動し、涼の元居た世界でやりたかった妄想を実現できたとしても、それが本当に叶ってしまうとなれば涼は嫌がるだろう。
それに、心の奥底にあったもう一つの願い、それは誰であっても叶えられない願いだった。
「俺の物になってくれ何て告白された時はどうしようかと思ったけど、あの人の山の中に付いていくのはな~」
頭の中で勝手に改変した台詞を思い返す。
「まっ、良いや。ここから見てるだけでも楽しいし、夜になったら今日はまたお話しちゃおうかな~」
思いに浸っていると誰かが近付く気配を感じた。
「う~ん誰かな~?」
木から下りて振り向いた先に金髪の男性が現れた。
「ロンザリアだな?」
初対面から相手を見下すように男が喋った。
「相手に聞く前に自分が名乗りなよ」
男の態度が気に入らないロンザリアがうざったそうに答える。
しかしその言葉を聞いても男は、裏切り者のイヴァン・サレスは態度を変えない。
「サキュバス如きが俺に口答えするな」
そう言い放ちイヴァンは剣を抜いた。
「はっ、言ってくれるじゃん。で、貴方様々は何の用?もうロンザリアは魔王軍とはつるまないから他所をあたってよね」
「魔王軍を抜けるつもりか」
睨むイヴァンをロンザリアはせせら笑った。
「そうだよ、もう飽きたし。それにアンタみたいな男よりもリョウお兄ちゃん達のほうが魅力的なんだも~ん」
男から滲み出る心はロンザリアが見た部類の中でも底辺に属する男だった。
他者を拒絶し、蔑み、踏み躙る事でしか自分を表現できない、そんな男。
この様な魔物よりも下種な心を持つ人間は時折見るが、そんな人間をロンザリアは嫌いだった。
「人間って不思議だよね~、リョウお兄ちゃんみたいにカッコいい人もいれば、アンタみたいな下らない人も居るんだもんね~」
その嫌いな人間を馬鹿にしてロンザリアが笑う。
「俺があんな異世界から来ただけのガキに負けてるとでも言いたいのか」
明らかな怒りで顔を歪めるイヴァンを見て、ロンザリアの笑いが大きくなった。
「アッハハハ!当たり前じゃん、寧ろ勝てる要素あると思ってるの?それに~」
ロンザリアの顔が「ニヤ~」と笑顔に歪む。
「アンタ、モテないでしょ?誰にも」
ロンザリアの挑発にイヴァンの顔が更に怒りに染まるが、すっと冷静な顔になった。
いや、冷静を装った顔になった。
「まぁ良い、お前の戯言にこれ以上付き合うつもりは無い。俺の命令を聞けないのなら、もうお前は必要ないな」
そう、事も当然の処理の様に言ったイヴァンの魔力が膨れ上がった。
その力を見て、ロンザリアは目を見開き、息を呑んだ。
イヴァンが発するその力は、あのレオ・ロベルトの力に似ていた。
「死ねよ、サキュバス」
イヴァンの手に魔法陣が描かれ、暗く黒い光が放たれた。




