11-4 旅路の続き
王様との昼食の後、程なくして俺達の日程は決まった
当初の通り10日後に予定された連合国会議に出席する事となった、場所はフレージュにある都市アルビ。
ヴィットーリアからは7日の予定の距離、距離だけ見るとどちらかと言うとイサベラから近い位置にある都市である。
出発式の後、千人近い多くの兵士の方達と共にアルビへと向かって行った。
道中は俺達の方では特に問題はなく今日はもうこれで5日目、既にフレージュへと入国している。
問題が起きていたのは俺達が出発して4日目の事、元ドニーツェ領内の魔王軍と交戦していた戦場である。
そこに四天の一人グライズが来襲した。
その力で戦場に大打撃を与え、連合国側の軍を撤退させている。
動きが小規模になっていた魔王軍がここでグライズを出してきたのは、何らかの意思表示の様に感じられた。
連合国会議が行われる事は恐らく魔王軍も察知しているだろう。
「なら、今回の会議に襲撃もあるのかもしれないな」
「ん、何か言いました?」
頭の中でぐるぐると考え事をしていると、思わずぼそっと一言出てしまった。
「いや何でも、ただの独り言」
「そうですか」
隣で座っているエイミーはそう言って、読んでいる本に目を戻す。
俺も馬車の窓の外へと目を戻した。
外には赤と黄色に染まった並木が見える。
折角の異世界2つ目の国ではあるが、馬車移動で観光目的でもなく、道中の宿泊も国が用意した場所に言われた通りに泊まるだけなので、あまりその国を楽しむという事は出来なかった。
しかし、国の違いの様な物はそれでも感じられる
北へ北へと進んでるのもあってか、気温が結構下がっている。どちらかと言うとイサベラが暖かかったのかもしれないが。
街の雰囲気も変わり、建物の屋根は黒や茶色が多くなった気がする。
華やかで陽気なイサベラと比べると真面目な雰囲気に見え、道行く人々も何となくきびきび動いているように感じた。
魔法も科学も活発な開発の国との事だから、科学者や職人気質の国って事なのかもな。
しかし、ぼーっと流れていく景色を見るも正直飽きてきた。
馬車の居心地は別に悪くない、寧ろ良いぐらいだ。だが、正直一週間も馬車移動は堪えて来る。
まぁ、それもあと少しか。
馬車の中に目を向けると、正面に本を読むレオへと、それにリーナが寄り添い座ってマントを編んでいる。
あのパーティ以降二人の距離は一気に近くなったように思う。隣に座る時はリーナは大抵くっ付いているし、大体の場面で手を握っている。
もしかすると、告白が上手く行ったのかもしれないな。
二人の雰囲気を見ていると何となく顔がにやけてしまう。
からかいたくもなるが、そこはぐっと我慢した。
そのまま目を横にやり、エイミーへと向ける。
俺がそちらを見ているのには気付かず、静かに読書を続けていく。
本の内容をチラリと確認すると、教会の教本のようだ。
それを細い指が時折ひらりと捲っていく。
何となしにその指の動きを目で追っていった。
思えばパーティの時に俺もエイミーから告白紛いの事を言われていた様な気がする。
しかし、エイミーのその後の様子は特に変わっては居ない、何時も通りに接してくれている。
仮に勘違いでなく本当にそうだったとしても、俺はエイミーにどう答え(やっほ~、お兄ちゃんお久しぶり☆)
突然頭に響くロンザリア声に意識が「はっ」となる。
(そんなに驚かなくても良いよ、今日はお話しに来ただけだから)
「どうかなさいました?」
突然顔を上げた俺にエイミーが声をかけた。
「お、いや、ちょっと寝ぼけてただけだから、大丈夫」
「そうですか?」
慌てて誤魔化したせいか、エイミーの声が心配そうな声になっている。
(ちゃんと内緒にしてくれてるのは偉いよ~)
「ほら馬車旅も長いしさ、それでウトウトしてただけだよ」
「それなら良いのですが」
何かロンザリアの気配でも感じ取っているのだろうか?腑に落ちない顔でエイミーが読書を再開しようとするも、こちらの事を気にしている。
(お前エイミーにばれたりしてるんじゃないだろうな?)
頭の中でそう尋ねる。
(エイミー?ああ、あの女。勘が良ければ分るかもね)
(ばれたら困るんじゃないのか?)
(お兄ちゃんとの話を邪魔されるのは嫌かな~、じゃあ次に泊まる街の近くで待ってるよ。また頭にお邪魔して呼ぶからそれじゃあね)
その言葉を最後に頭の中に居たロンザリアは居なくなった。
話って何の用だ?特に何か要求する訳ではなかったし、話の内容も聞いていない。
俺は今はマントを持っていない。明日、明後日頃には作り終わるとリーナは言っていた。
今の俺一人で行くのは危険かもしれない。しかし、頭の中でぼんやりと見えたロンザリアの心の様な物は悪意がないようにも思えた。
最後の中継地の街へと辿り着き、俺は一人で街の外の森の中へと向かっていた。
他に人も呼ぼうかと思ったが、その後頭の中にまた現れたロンザリアから一人で来るように指名を受けたのと、人質を取っている何て事もなく、ロンザリアにやはり悪意が無いように思えたのでそれを信用する事にした。
「こんばんは、リョウお兄ちゃん」
月明かりが静かに差し込む森の中で、ロンザリアが一人待っていた。
「俺に何の用だ?」
周りに他に敵は居ないように思うが、それでも警戒するに越した事はない。
「そんなに怖がらなくても良いよ、それにロンザリアがお兄ちゃんと戦う気がないって事は分るでしょう?」
確かにロンザリアが言うように、近付くほどに相手に敵意が無い事は心で理解出来た。
「これは何なんだ?お前の心が俺の中に入ってくるみたいな感覚は」
「前も言ったよね、ロンザリアとお兄ちゃんは繋がってるの。それをもっと深いところまで繋げて、ロンザリアの全部をお兄ちゃんが見れるようにしてあげてるの」
ロンザリアが自分の胸元をを手でなぞりながら答える。
「何だか気味が悪いな」
「ふふっ、本心から言われるとロンザリアでも傷つくんだよ?」
「そうは思ってないくせによく言うよ」
呆れて言う俺を見てロンザリアが「くすくす」と笑っている
「で、何の用だよ」
何時もと雰囲気が違うロンザリアを見ると、警戒するのも馬鹿らしくなってきた。
「言ったでしょ、お話したくなっただけだって」
本当かよ。
「本当だよ。もうお兄ちゃん達とは戦う気ないし、魔王軍にも飽きたし」
くるりくるりと回りながら近付き。手を後ろで組みこちらを上目遣いで見る。
「お兄ちゃん達は絶対に、絶対に、ケーニヒには勝てないと思ってた、でも勝っちゃった。だからね、その続きが見たくなったの」
「そんな事で魔王軍から抜けたのか?」
「元々楽しそうだから入ってただけだしね~、今興味があるのは、お兄ちゃんたちの頑張りの方。だから~お兄ちゃんを通して戦いを見ていたいの、駄目~?」
ロンザリアが指を口元に置き、妙に可愛らしい仕草でおねだりをしてくる。
「嫌だって言ってもどうせやるんだろうが」
「んふふ~、でも誰かに告げ口したりしないでねってお願い☆」
それを聞いて、頭を抱え諦めの溜息を吐いた。
「勝手にしてろ」
「ありがと~」
そう笑顔で答えたロンザリアの顔が、別の笑顔へと変わり俺に聞いてきた。
「お兄ちゃんはレオ・ロベルトが不安定な場所に立っているのは知ってる?」
「まぁ、何となくな」
レオと日課の鍛錬中に本人から聞いていた。
ケーニヒとの戦いで生まれた力はとても危険な力だと、自分を飲み込みかねない力だと。
でも、その力に負けないよう強くなるとの宣言も聞いている。
「だけど、俺達なら負けないさ」
「そうかもね、お兄ちゃん達なら何とか出来るかもしれない。魔王が作り出していくと思っていた時代を変えちゃうのかもしれない」
話していくロンザリアの顔が変貌していく。
「レオ・ロベルトが自分を保っていられるのは人の言う愛、それとお兄ちゃんが言う勇気、それが魔王の前に何処まで通用するか、最後までお兄ちゃんを通して見させて貰うよ」
そう告げるサキュバスの顔は、正しく悪魔と言うべき妖艶な顔を浮かべていた。
自分が楽しければそれで良い、それだけに興味がある魔物の顔に。
しかし、その顔を見ても、心が繋がっている俺には一つ聞いて確かめたい事があった。
「魔王軍は来るんだよな?」
「来るよ、絶対に。お兄ちゃん達を殺す為に」
それは分ってる、だからその続きを。
「なあ、俺達と一緒に魔王軍と戦ってくれないか?」
俺の心にロンザリアが驚きの表情を浮かべた。
ロンザリアは笑い、くるりくるりと離れて、そして、子供の様な笑顔を向けて答えた。
「や~だっ」
そう答えてロンザリアは闇夜の中へと姿を消した。




