10-7 哮る炎狼
巨大なドラゴンを討ち取ると同時に、力が空に展開された。
それはドラゴンの死体の近くへと降り立ち、力を解放させる。
解放された力が炎と化し、人も魔物も区別無く周囲全てを焼き尽くした。
「オオオオオオオオオ!!!!」
何もかもが焼き消えた灼熱の大地の上に、自らの力を誇示する獣の咆哮が鳴り響く。
戦場に居る者達はその意味を理解した。
これからは四天が支配する戦いとなる。心の根源に訴えるかのような圧倒的な恐怖を持った四天との。
ケーニヒの前方に巨大な魔法陣が展開し、炎の嵐が戦場を無尽に燃やしていく。
サヴォーナ砦ではレオを殺してはならないとの命令があった為に全力は出せてはいなかった。
だが、今回は違う。例え相手が何であろうと構う必要はない。
何もかもを焼き滅ぼして良いと魔王から許可は貰っている。
炎を突き破り、自らに挑みかかる者であっても!
放たれた雷と共に立ち向かう者達へと、ケーニヒが力を振るう。
目の前で行われる死闘を涼は悔しく思いながら見ていた。
自分があの戦闘に参加できない悔しさに。
バルトロさん達から他の兵と共に四天との戦いから離れるようとの命令が出されていた。
「さっきのドラゴンを倒しただけで大金星だ、いざと言う時の為に動けるように回復してもらってろ」
そうラウロから言われていた。
分っては居る。万全な状態でようやく役に立てるかもしれない戦場に、ドラゴンとの戦いでこんなに消耗した状態で行った所で足手まといにすらなれないと。
それでも戦いに参加すら出来ない自分の弱さが悔しかった。
獄炎が渦巻く戦場にレオ、リーナ、バルトロ、ラウロの4人が立ち向かっていた。
ケーニヒが吼えて放つ炎の中をラウロが無理やり突入していく。
自らの体が焼け焦げる事を躊躇うことなく、大斧を振り下ろす。だがそれをケーニヒは素手で掴んだ。
ラウロが顔を歪めて逃げようとするよりも早く、燃え盛る拳が胴を貫こうとする。
それにレオの剣が割って入り、バルトロの突きがケーニヒを下がらせる。
高く後ろへと回り跳び上がったケーニヒに、リーナが渾身の雷を放つ。
その轟音を上げて放たれた雷を魔方陣から放たれた炎の蛇が飲み込んだ。
炎の蛇はそのまま地上へとその牙を剥き、4人が張る全力の防護壁を噛み砕く。
炎の中へと包まれてしまった4人にケーニヒが両手を構えて魔方陣を作り出す。
膨大な魔力が灼熱となり、大地を抉り溶かしながら迫り来た。
「リーナ!」
レオの言葉に答えて、剣に雷が宿る。
迫る灼熱へと雷の刃を撃ち放った。
凄まじいエネルギーもぶつかり合いによって大地が揺れ、ひび割れる。
「おおおお!!」
気合を込めた一閃が灼熱を突き破り、轟雷がケーニヒを飲み込んだ。
爆音が鳴り響き、大地が吹き飛ばされて舞い起きた土煙の向こうに、防護壁を張り無傷でケーニヒが仁王立っている。
4人はそれでも立ち向かう。
即席のチームではあったが、連携は完璧と言ってよかった。
それは圧倒的な強者であるケーニヒに対して、全員が極限まで集中していたからだ。
しかし、それでもケーニヒへは届かない。
剣が槍が斧が魔法が、人類最高峰の力が四天には届かなかった。
ケーニヒは4人の強さを認めていた。
だが、それと同時にがっかりともしていた。
レオの力はこの前よりは格段に強くなっているとはいえ、それでも魔王が求めるほどの力ではなかった。
全力は確かに出している。
だが、ここが今の彼の全力なのだ。
グライズが言うように今回の戦いで素質は感じただけに残念であった。
「まぁいいや、そろそろ決着付けようか!」
ケーニヒが炎を纏った剣を抜き振り払う。
途方も無い熱量が空間を薙ぎ払った。
その中をレオが一人その場で耐える。
耐えた先にケーニヒの強烈な剣戟が振り回された。
速い、そして重い……!
型や筋がある訳では無く、まさに振り回しているだけな剣であったが、デタラメな強さを持つケーニヒが振り回す剣は何よりも強力無比であった。
死ぬ物狂いでレオがその剣を捌いて行く。
「よく防ぐけどさ!」
ケーニヒの体から炎が噴出す。
「なに、速い!?」
炎を推進力に変えてケーニヒの剣が更に速く、力強くなる。
爆発的な加速を持った剣がレオの反射を追い抜く。
ケーニヒの剣がレオの胴を大きく切り裂いた。
「があっ!」
「これで、終わり!」
血を吐くレオにケーニヒが止めの一撃を放とうとする。
剣が振り切られるより速く、レオの体に光の鎖が巻きつき後ろへと引き飛ばした。
飛ぶ方向にリーナの傷を治すエイミーが居る。
その間に立つように涼が待ち構える。
「邪魔をするな!!」
「それ位させろ!!!」
マントを煌かせ火球を放つも、ケーニヒはそれを微塵も気にせず襲い掛かる。
魔法陣が光り、ケーニヒの拳に炎が宿る。
「負けて、堪るか!!!!」
マントを手に巻き、炎の拳にぶつける。
己の持つ力をその一点に込める、魔力を増大させるマントにただ込める。
ケーニヒの炎にマントが跡形も無く燃え尽きると同時に、込めた魔力と、込められていた魔力が爆発した。
迸る魔力に涼の右腕が消し飛び、自身も吹き飛ばされるも、確かにケーニヒの攻撃を相打つ。
地面へと受身を取る涼にケーニヒが魔方陣を構えようとした時、背後に二つの力が迫った。
ケーニヒが振り返ると、両者共に炎で焼き爛れたバルトロとラウロが、それでも鬼気迫る二人が突撃してくる。
死に損ないが。と最初ケーニヒは思ったが、二人の目を見て認識を改める。
二人の己を越えた攻撃がケーニヒへと放たれた。
これは死に損ないじゃない、死を越えてきたんだ!
「「おおおおおお!!」」
二人が雄たけびを上げ、ケーニヒが放つ炎を切り裂いて行く。
こうなったらもう、簡単には止まらない。
「なら今度こそ殺してやるよ!」
切り裂かれたレオは戦場を見ていた。
この戦いは負ける。
涼も起き上がり二人の援護を始めるが、マントを失った今の涼では戦力となるのは難しい。
バルトロとラウロも死力を尽くして己を越えた動きを見せるが、それでも尚ケーニヒには届かない。
この戦いはこのままでは負ける。
バルトロとラウロの武器が砕かれ、二人が爆炎に飲み込まれる。
もはや気力で立っていた涼にも炎が放たれる。
エイミーがそれを助けようと鎖を伸ばすも、涼は炎に包まれた。
でも、だからと言って諦める訳にはいかない、諦めたくない。
だけど今はそれだけじゃ駄目なんだ。
負けたくない気持ちだけでは足りない、諦めない心だけでは足りない、命を懸ける覚悟だけでも足りない、己を越えてもまだ足りない。
力が欲しい。
皆を守れる力が、四天を打ち破る力が、この敗北を覆す力が欲しい。
アデルさんは言っていた、僕には運命があると。四天は言った、僕の力を示せと。
そんな物があるかは分らない。
でも、もしもあるのなら、内に眠る力がまだあるのならば。
力が、欲しい!
レオは心から願った。
どんな力でも良い、敵を討ち滅ぼす為の力を。
その心が己の中に封じ込めていた何かを呼び覚ました。
それは小さい頃に目覚めた力、少女が恐怖した力、己の原点となった力。
その力が今、再び目覚めた。
レオの体から魔力の奔流が巻き起こる。
横に居たエイミーとリーナが奔流に押しのけられた。
その魔力はレオの傷を完全に治し、涼達の体を包み、炎を打ち消しその命を繋ぎ止めた。
その魔力は優しくとも恐ろしい力であった。
純粋なる力、人々が魔と呼ぶ物の力。
立ち上がり剣を構えレオが疾走する。
見開く双眸は金色に輝いていた、人ならざる物の光を輝かせていた。
それに相対するケーニヒだけが気が付いた。
その眼を、その力を見てケーニヒは笑った。
これだ、これこそが求めた物、これこそがお前の存在意義。
「さあ来いよ!レオ・ロベルトと名乗る奴!俺達の存在意義はここにある!!」
両者の力が激突する。
「僕は、お前を越えてみせる!」
溢れ出る力をそのままに剣を振り上げ、ケーニヒを空へとガードの上から殴り飛ばす。
空へと打ち上げられたケーニヒが炎を噴出し、制動をかけ数多の魔方陣を作り出した。
降り注ぐ炎の中を切り裂き、レオが空へと空中を蹴り上げ駆ける。
魔法で風を作り出すでもなく、純粋に力で空中を走っていく。
剣が打ち合い、空に力が轟いた。
「すげぇ、すげぇ!でもまだだ、まだ俺達ならやれる!!」
レオの力に呼応するようにケーニヒの力が更に増していく。
切り掛かったレオを逆に弾き飛ばし、獄炎が空を焼いた。
空を埋め尽くす炎をレオが魔力を放出して遮り、炎の中を来たケーニヒの剣を打ち払う。
天地を揺るがす力が戦場を駆け巡った。
もはや常人を寄せ付けぬ戦いが繰り広げられていく。
ケーニヒの炎は天を焼き払い、レオの剣戟は大地を砕いた。
戦場に居るものは人も魔も違わずその力のぶつかり合いを見ていた。
この二つの力が戦いの勝敗を付けるのだと、全員が理解していた。
駆け巡る二つの力は拮抗している。いや、まだほんの少しケーニヒの方が上回っている。
それは力が目覚めたばかりが故の差、力の使い方の理解と、その力への恐怖の差。
レオの中に生まれていく自分すら飲み込む力への恐怖。
「お前ならもっと先に行ける!何を迷ってるんだ、もっと力を解放しろ!!」
恐怖はある、でもこれは迷いじゃない!
「違う、僕はもう迷ってはいない!でも、この恐怖も捨てない!」
ケーニヒが打ち出す灼熱を切り払いながらレオが叫ぶ。
「恐怖に勝つ事は恐怖を捨てる事じゃない、恐怖を乗り越え自分の物にする事!恐怖も忘れて暴れる力はただの暴力!」
避けるケーニヒを追ってレオが叫ぶ。
「僕は、僕のままでお前を越えていく!!」
「でもお前の力じゃ俺は倒せない!!」
迫るレオへと炎槍を放つ。
「僕達なら越えられる!!!」
迫り来る炎槍へとレオが速度を緩めずに突撃する。
直撃するその刹那、雷が轟き炎槍を打ち破った。
「なに!?」
「おおおおお!!」
レオがケーニヒへと切り掛かり、剣が何度も打ち合う。
剣の腕前はレオの方が上回る、力も限りなく近くなった今なら剣の打ち合いならケーニヒを越えられる。
それを理解しているケーニヒが距離を離そうとするが、リーナの魔法がそれを阻む。
リーナの力は二人の力と比べて小さき物である。
だが、限りなく拮抗した戦いの中で、その力は大きく意味があった。
引こうとする動きを、距離を離させようとする魔法を阻害し、レオの力を極限まで引き出させる。
「レオ、やっちゃえ!!!」
ケーニヒの守りを打ち破ると同時に、レオの剣に雷が纏う。
崩れた体制からケーニヒも炎剣を振るうが、雷がそれを飲み込んだ。
ケーニヒの炎が雷に破られ、剣が砕ける。
「がああああああ!!」
剣がその身に届こうとした時、ケーニヒが己を中心に大爆発を起こした。
爆風に押されてレオが距離を離され、ケーニヒは空へと舞い上がる。
息を荒くしながら、眼下で構えるレオを見た。
「そうか、これがお前の力……」
空を覆う魔法陣が展開される。
「なら示して見せろ、お前の力を!王が創り出した力の前に!!」
四天の最後の力が太陽と見紛う大火球を作り出した。
「お前の力で越えてみせろぉ!!!!」
獣の咆哮と共に、地上へと大火球が迫る。
迫る大火球をレオは見て雷の剣を構えた。
でも駄目だ、四天の一撃を打ち破るにはこれではまだ足りない、僕の全てを一撃に爆発させる必要がある。
だからこそ、レオは両手で構えていた剣を片手に持ち替えた。
エイミーに抱きかかえられ、涼は朦朧とした意識の中でレオの戦いを見ていた。
ああ……何て強い、何て凄い、何て遠い……
それでも、それでもと心に思う、
それでも追いつきたい、それでもそこに共に並び立ちたい。
もはや人の及ばぬ力だとしても、そこへ……
「エイミー、剣を……レオに」
涼の言葉を汲み取り、エイミーが頷き剣を受け取る。
涼が前に左手を伸ばした。
魔力は生命のエネルギー、なら命を賭せば己の限界を超えた魔法が放てる。
創り上げる魔方陣は幾度と無く見た物。
左手から血が吹き出ようと構わず描く、血反吐を吐き出し描きあげる。
俺も、一緒に!!
「レオさーん!!」
エイミーが叫び、剣を投げ渡す。
レオが受け取り構えた剣に、涼が作り出した燃え盛る炎が纏った。
炎と雷、二つの剣を持ち構える。
迫り来る大火球へとレオが駆け上がった。
「炎雷の双刃、受けてみろおおおおお!!!」
二つの力が唸りを上げて大火球を打ち破り空を衝き抜け、ケーニヒを十字に切り裂いた。
空で交差した二人が地上へと落ちていく。
地面に激突し、立とうとするレオの剣が二本とも崩れ落ちる。
全ての力を出し切ったレオの前にケーニヒが立ちあがった。
ケーニヒが十字に深く切り裂かれた胴と、切られ失った両腕を見る。
そして、四天を打ち破ったレオと、その力を与えた仲間達を見た。
「あぁ……強かった……」
その顔に笑みを浮かべ、レオが切り開いた青空を仰ぎ見て、四天ケーニヒが後ろへとゆっくりと倒れた。
沈んだケーニヒを見て、レオが一つ、また一つと息を付く。
信じられなかった光景が少しずつ実感出来ていく。
「うおおおおおおおお!!!!!」
拳を握り締め、勝利の雄たけびを上げた。




