9-5 明けの決闘
森の中を駆けて皆が待つキャンプへと戻ってきた。
俺の姿を見て、エイミーが真っ先に走ってくる。
「リョウさん!大丈夫ですか?何か酷い事はされませんでしたか?もう操られてはいませんか?」
エイミーが俺が自分で殴って作った顔の怪我を治しながら、体に他に異常がないか調べていく。
「いや、特に危険な目はなかったから大丈夫だって、顔の怪我も自分で殴ったやつだしな」
「自分でなんてどうして?まさかあのサキュバスに操られたりして」
「いやいや、何と言うかこう、自分に渇を入れる為にってやつだからさ」
渇を入れる為と言うにはやり過ぎな痕を見て、本当に大丈夫なのだろうかとエイミーが目を向ける。
「本当に大丈夫だからさ、怪我は治してくれてありがとな」
エイミーの頭を撫でて皆の元へと向かう。
「リョウ、無事だったか」
軍の人達が俺が無事に戻ってきた事に歓迎してくれた。
「すみませんでした。一人で解決しようとして、皆さんを危険に巻き込んで」
「いや、俺達もリョウを助ける手段がなかったし、敵がこちらより一枚上手だっただけだ、気にする事じゃない。それで敵からは何かあったのか?」
「はい、村二つを人質に取っていると、そしてそれを解放する条件が」
言葉を区切りレオの方へと向く。
「レオ、リベールがお前と一対一の勝負をしたいと言ってる」
「リベールが?でも、何で?」
まさかの申し出にレオが理由を聞いてきた。
「リベールもあいつなりに決着を付けたいんだろ、それに多分……あれだ、お前と戦ってみたいんだ。正面から堂々と、自分の全てを懸けて」
何となくリベールの気持ちが分ってしまうのが嫌で、何となく言いよどんでしまった。
「そうか……うん、わかった。それで僕はどうすれば良いの?」
「時間は明日の夜明けの後、場所は俺が案内するよ」
「では時間まではお前達はゆっくり休んでいた方が良いな。見張りは俺達が交替でやっておこう」
兵士の人にそう言われ、俺達は約束の時間まで休ませて貰うことにした。
一応エイミーとリーナに、ロンザリアからの精神攻撃がまだ残ってないか調べてもらった後に横になる。
日が変わり、静かな朝の光に包まれた森を抜けてリベールが待つ場所へと向かう。
凍りついた湖の上にリベールが大剣を携えて待ち構えていた。
「周りには他の魔物は居ないようです」
エイミーが周りを感知して、リベールが一人で待っていることを確かめる。
ロンザリアも近くにはおらず、本当に一人で待っているようだ
「本当にレオと一対一で戦いたいって訳ね。じゃあお望みどおりぶっ飛ばしてやりなさい」
「うん、行って来る」
送り出されてレオがリベールの元へと向かう。
「なぁ、リーナ」
レオを見送って俺はリーナに一つの疑問を聞こうとした。
「ん、なに?」
だが「レオは人間じゃないのか?」なんて質問は、リーナの目を見たら聞くことが出来なかった。
話しかけてきたのに黙ってしまった俺を見て、リーナが首を傾げる。
「なによ、何か言いたい事があるんじゃないの?」
「いや……良い」
「そんな顔で良いわけ無いでしょ」
リーナが俯き顔を逸らす俺の頬を持って引っ張る。
「いたい、いたい、いたい」
「ほら、ちゃんとこっち見て話す」
強制的にリーナの方へと向かされた。
何を言うべきか迷うも、一つ心に決めている事だけを伝えた。
「俺は、何があってもレオの事は信じるからな」
突然の事でリーナがぽかーんとなるも、何故突然俺がそれを宣言するようになったのかリーナは聞かず、少し考えてから答えた。
「当たり前よ、アイツを裏切るような事をしたらアタシが許さないんだから」
その言葉に頷くと、エイミーが横でオロオロとしている事に気がついた。
行き成りの会話の内容に着いて行けず、どうしようかと迷っている。
エイミーを落ち着かせる為に頭を撫でる。しかし、誤魔化されているようでエイミーの顔に不満が表れた。
「大丈夫、俺の道を再確認しただけだから。今はレオの応援をしよう」
エイミーは何かを言おうと思ったが、仲間達の事を今は信じ、頷き前を向く。
目の前の湖の中央ではレオとリベールが対峙していた。
「来たかレオ・ロベルト、こちらに有利な戦場とさせて貰ったが受けてもらえるな?」
周りは凍りついた湖の上だ、水と氷の魔法を得意とするリベールには都合の良い戦場だろう。
「大丈夫、これ位は気にしない」
そう答えて剣を構えた。
その構えを見て、リベールの手に魔法陣が3つ浮かび発動した。
「これで呪具の効果は消えた。もっともこればかりは信用してもらうしかないがな」
「信じるよ、リョウが貴方の事を信じてたから」
「そうか」
リベールが大剣を構える。
「一つ聞きたい」
リーベルへとレオが聞いた。
「何をだ」
「どうして人質を解放したんだ?」
本人の口からその答えを聞いておきたかった。
「ふ、何故だろうな。恐らくはあのリョウに当てられたのだろう、お前と戦いたいと思う俺の力がな!」
答えてリベールが大剣を振りかざし突撃してきた。
前よりもまた速くなっている!
唸りを上げて振り下ろされる大剣を横に大きく避ける。
大剣が打ち付けられた氷が舞い散り、その舞った氷を振り払うかのように大剣が素早く横に振りぬかれていく。
横へと避けていたレオが後ろへと跳び距離を離した。
「逃がさん!」
リベールの手に魔法陣が浮かび、吹雪がレオへと放たれる。
「それはもう見てる!」
吹雪を放つ魔法は足止めとしては厄介な魔法だったけど、範囲はさほど広くない!
魔力を脚に込めて氷を踏み抜く。
吹雪の範囲から抜け出し、一気にリベールへと距離を詰めた。
両者の剣がぶつかる音が響き渡る。
「何故だ、何故本気をださない、レオ・ロベルト!」
「別に、加減をしているつもりは無い!」
リベールを押し込み、突き飛ばす。
追撃をしようと踏み出した道に、リベールが魔力で周りの氷を使った氷柱を作り出す。
進撃は阻まれたものの、レオはその氷柱を両断し、剣の腹で氷柱をリベールへと殴り飛ばした。
飛ばされた氷柱を反射的にリベールが大剣で迎撃して砕く。
砕かれた氷で視界が白く染まった。
それを切り裂き、レオがリベールへと迫る。
鋭い連撃がリベールを襲う。
正に目にも止まらぬ斬撃がリベールが構える大剣の防御を掻い潜り、その身を切り裂いていく。
「ぐおおお!」
レオの目の前を遮るように大剣を氷に突き刺し、連撃を無理やり止める。
突き刺した大剣を、そのまま氷を掘り返すように持ち上げた。
足場として居た氷が爆発したかのような力で掘り起こされ、氷ごとレオが飛ばされる。
強い、あいつはこれ程までに強い。
しかし、これは人としての域はまだ超えていない。
俺が戦いたいのはレオ・ロベルトの本当の力!
「貴様の全力を見せてみろ!」
リベールの魔力で氷の下にある湖がレオを巻き込み、空へと巻き上がる。
レオはその水を魔力を放出し、周りの水を弾き飛ばした。
「まだだ!」
リベールが氷の大槍を作り出し、レオへと放つ。
レオが水柱を蹴り出し、空中で槍を両断する。
「まぁだだ!!」
リベールの顔に血管が浮かぶ。自らの技量を超えた魔法で周りの氷を変形させ、凄まじい勢いでレオへと氷柱を伸ばす。
二本の巨大で鋭い氷柱がレオへと迫る。
直撃すれば身は貫かれ、死は免れない。
レオの魔力が膨れ上がった。
レオの膨大な魔力を纏った剣の一撃が氷柱を捻じ伏せ、直撃を避ける。
「それだ!!!」
残った氷柱をレオが滑り下りて迫る。
迫るレオにリベールが大剣を構えて迎え撃つ。
魔法陣が作られ、大剣に氷が纏った。
「レオ・ロベルトォオオオ!!」
「はあああああ!!」
両者の渾身の一撃がぶつかり、レオの魔力を込めた一撃がリベールの氷の大剣を打ち砕いた。
勝てぬか……俺では……
大剣を砕いたレオが、リベールへと最後の一撃を放とうとしている。
だが、それならば、望む事はただ一つ。
「負けるなよ、レオ・ロベルト」
その言葉にレオが驚き、目を見開いた。
一閃がリベールを切り裂き、その巨体が後ろへと倒れこむ。
湖を覆っていた氷が戦いに耐え切れず崩壊し始めた。
砕ける氷の中に飲み込まれるリベールへと、思わずレオが手を伸ばす。
しかし、その手はリベールを掴む事はできず、リベールは湖の中へと落ちていった。
「……いけない、ここから離れないと」
ハッと我に帰り、レオもその場から避難していく。
避難する先でエイミーが光の鎖を放ち、レオを陸へと引っ張り上げた。
「お疲れ様、途中助けに行こうかと思ったけど何とかなったわね」
リーナがレオへと声を掛けるも、レオは砕けていく湖の方を見てぼーっとしている。
「ん?どうしたの?」
「リベールが僕に最後、負けるなよって……」
レオはその言葉の意味が理解できずに居た。
殺される寸前に、殺そうとした相手へ贈った激励の言葉、その意味が。
そのレオが分らない意味を、何となく俺は分った。
「リベールはお前と戦って、自分ともお前とも向き合えたんだろうな」
「それで、どうして負けるなよって僕に?」
リベールの気持ちは何となく分ってしまった。
否定はしたが、やはり何処か根っこは似ているのかもしれない。
「レオに負けて欲しくないんだよ。自分を打ち負かした力が、自分が、憧れた力が負けて欲しくないんだ」
そう言われてもレオは、敵から送られた激励の言葉にどう応えれば良いか分らずにいた。
ただ、沈み行く氷を見ていた。




