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8-9 集いし魔

 雪が降りしきる城の前に一人の魔物と、一人の青年が降り立った。


「なんだここは、こんなに寒いなんて聞いてないぞ」


 降り立った二人はグライズとイヴァンだった。


 イヴァンは少々厚着はしてるものの、雪が降りしきる場所としては不釣合いの服を着ており、震えながら寒さに文句を言っている。


「何か服はないのか?」


「いえ、私共は特に寒くはありませんので、そのような物は用意しておりません」


 イヴァンの言葉をスッと流して、グライズが城の中へと入っていく。


「くそ、俺は客人なんだろ、なら相応の歓迎があるべきじゃないのか」


 ぶつくさと言いながらイヴァンも城の中へと入って行った。


 城の中は幾分外よりはマシな寒さになっている。


 イヴァンは城の中に飾ったままの調度品を見ながら城の中をグライズに付いて歩いて行った。


 ここは3年前まで大国ドニーツェがあった場所。


 それは今ここに居る魔王軍によって滅ぼされたとは聞いていたが、まさか本当に人が一人も居ない国になっているとは。


 以降、人と魔王との戦いは続くも、戦況としては人にとって厳しいものとなっており、戦線は後退を続けている。


 そんな中で人の軍が一度も攻め入る事が出来ていない魔王軍の本拠地に足を踏み入れたことに、優越感がイヴァンの中に生まれていた。


「なあ、何でここの調度品はそのまま残してるんだ?」


「特に意味はございませんよ、ただここを破壊せずに占領できたので残っているだけです」


「美術品に興味はないんだな」


 イヴァンに聞かれてグライズはふと、廊下に飾ってある絵画を見てみる。


「そうですね、特には」


 本当に興味なさげに目を直ぐに離し、廊下を歩いていく。


 こいつらが持っていても宝の持ち腐れだな。


 別段イヴァン自身も美術に詳しいわけではないが、自身のステータスとしてこの絵画たちは貰って帰ろうかとイヴァンは思った。


 グライズが扉を開けて部屋の中に入る。


 部屋の中には眼鏡をかけた全身に触手が蠢く人型の魔物、四天の一人ストレッジが待っていた。


「お疲れ様でございます。それで彼が件のイヴァンとかいう人間ですね」


 呼ばれたと思いイヴァンが前に出る。


「俺の名前はイヴァン・サレス、貴方達が欲していた情報を」


「ああ、良いです、良いです、こちらで見ますので」


 ストレッジから触手が伸びてイヴァンの頭を掴む。


 イヴァンの頭に電流の様なものが走り、頭の中が掻き乱される。


 ストレッジが記憶を読み終わり、触手を離した。


「ご協力ありがとうございます。ではこれはどうしましょうか?」


「用が無いのなら処分してよいのでは」


 頭がふらつくイヴァンの前で、二人の魔物がイヴァンの処遇をさも興味がないように話していく。


「待ってくれ、処分ってどういう事だ!?俺は魔王軍に入る為にここへ」


「おや、入りたいのですか?」


「決まってるだろ!それを、俺を殺すだなんて」


「そうですねぇ」とストレッジが顎らしき場所を撫でる。


「いえ、良いでしょう。貴方は力を欲していましたね?」


「あ、ああ」


 突然聞かれたことだったが、確かに力は欲しいので答える。


「では私が研究している強化の検体となって貰いましょう」


「実験体になれと?」


「はい、しかしそう構える事はありません。命にもあなたの心にも影響はありませんので。寧ろあってもらっては困ります」


「それと」とストレッジが手を上げた。


 それに答えるように、奥からメイド服を着させられた目が虚ろな女性がやってくる。


「これを貸し与えておきましょう。貴方の寝る場所や衣服、食事はそれに聞いてください」


「こいつは?」


 容姿は綺麗だが、どうみても普通の様子ではない女性の顎を上げイヴァンが聞く。


「さあ?ここを制圧した時に残っていたので、ここの管理をさせている人間の一人です」


 なるほど、操り人間って訳か。


「それでは後ほどそれを通して呼びますので、部屋で休んでいてください」


「わかったよ。じゃあ俺は休ませて貰う」


 ストレッジに言われてイヴァンは女性から案内を受けながら部屋から出て行った。


「実験と言いましたが、あれは使えるのですか?」


 出て行ったイヴァンを目で追って、グライズが尋ねる。


「素質としては相当な物がありました、むしろあそこまで腑抜けているのが不思議なぐらいです。中身を弄くれば相応の強さを発揮できるでしょう」


「そうですか、まぁ期待してますよ」


「何やらご不満のようで」


 何処かやる気の無いグライズにストレッジが疑問に思った。


「いえ、あれを拾った場所で良い人間に会いまして。あの様な者の後に、あれの愚痴やら何やらを聞かされて正直殺してしまおうかと思っておりましただけで」


「成る程、グライズ様には気苦労をお掛けしてしまった様ですね」


「気にするほどではありません」


 そうは言うがグライズは溜息を付いている。それ程にイヴァンと一緒に居た時間に疲れていたのだ。


 グライズが疲れた様子を出していると、後ろのドアが開き二人の魔物がやって来た。


「あ!グライズお久しぶり!」


「ケーヒニもお久しぶりです。フラウも」


 呼ばれてフラウがグライズに頭を下げる。


「こちらこそ。しかし何やら疲れているようだが、何かあったのか?」


「いやなに、気にする程ではありませんよ。しかし四天が全員揃うとは……」


 言葉を区切り、グライズが部屋の王座へと向く。


 部屋の置くから魔王が姿を現した。


 その姿に四天の全員が跪く。


「今日は良き報告がある筈だとストレッジから聞いているが」


 魔王の言葉にストレッジが答える。


「はい魔王様、グライズ様が連れて来た人間の記憶から、神器が隠された場所の手がかりを掴めました、後はそこの封印を解く方法を作り出すのみとなります。それともう一つグライズ様から」


 ストレッジから言われ、グライズが報告を続ける。


「私は情報を持った人間が居た街で件の青髪の少年と交戦致しました」


「ほう、あれとか。それで見込みはあるのか?」


「はい。器とは成れずとも、磨けば鍵としてならば」


「そうか、ではケーニヒよ」


「はいっ!」


 呼ばれてケーニヒの耳と尻尾が起きる。


「その者の元へと行き、力を振るえ」


「良いんですか!?」


「よい、許す。弱ければ生かせ、強ければその力を引き出せ」


「やった!久々に戦える!」


 ケーニヒの尻尾が喜びでパタパタと揺れた。


「魔王様、一つだけ宜しいでしょうか?」


 揺れる尻尾がストレッジの言葉にピタッと止まる。


「なんだよ、俺は行くからな」


「いえ、それは構いませんが一つ、現在ケーニヒ様の傘下であるドラゴンの部隊が行っている戦闘を先に終わらせてもらいたく思いまして」


「そうか、ケーニヒよそれで良いな?」


「はいっ、その戦いを終わらせてから、その……何だっけ?」


「レオ・ロベルトですね」


 思い出せないケーニヒにグライズが答える。


「そう、そのレオとか言うのと戦ってきます!」


 ケーニヒの言葉に頷き、魔王は椅子から立ち上がった。


「では我が作りし四天よ、己が力を振るい作られた意義を全うせよ」


『はっ!』


 四天の言葉を聞き、魔王は闇の中へと姿を消した。


「そう言えばあれが居たバルレッタとかいう街がまだ残っているようでしたが、それは何故でしょうか?」


 魔王が居なくなった所でストレッジがグライズへと聞いた。


「その理由次第では魔王様へと報告しますか?」


「いえ、言った所で全ては些細な事だとお許しになるでしょう。単純に私個人の探究心です」


 その言葉にグライズが顎を撫でて微笑みながら答える。


「そうですか、ではお答えしましょう。単に負けたからですよ」


「あのレオとか言う少年にですか?」


「いえ、リョウと言う少年にです。私がその軍の司令官を仕留めようとした瞬間を見事防いでのけました、正しくただの人間が」


「リョウ……」フラウはグライズが言った名前を何処かで聞いたようなと思い出していた。


「なあグライズ、それはサナダ リョウとか言う少年か?」


「はい、そうですが」


 グライズの言葉にフラウが口元に手をやり苦笑する。


「フフフ、私の部下も何故だかは知らないが、その男を気に入っていたよ」


「なるほど、そう言えば貴方の部下も戦ったと言ってましたね」


「なあなあ、そのリョウってのは強いのか?」


 ケーニヒが興味ありげにグライズへと近付き聞いた。


「そうですね、強さで言えば少々鍛えた人間と特別変わらないと言ったところでしょう」


 その言葉にケーニヒが「なーんだ」と肩を落とす。


「しかし、良い眼をしていましたよ。あの眼を、あの奥に光る物を私達は持っては居ませんが、あの光を人は何と呼ぶのでしょうね」




 イヴァンは女性に案内され、城の中の一室へと着いていた。


 少々埃っぽい感じはあるが、元が王族が暮らしてたのであろう部屋は非常に豪華な家具が揃っていた。


「おいお前、ここはお前に掃除しろと言えば全部やってくれるのか?」


 言われて女性は「はい」と返事をして頷き、掃除道具を取り出して掃除をし始めた。


「なるほど、便利だな」


 椅子を引いてイヴァンがそこに座り、何となく掃除する女性を見る。


 文句一つ言わず、表情一つ変えず、黙々と美しい女性は部屋を掃除していく。 


「ふうん」


 イヴァンが立ち上がり女性の下へと行き、膝を付き床を掃除している女性の横腹を蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされた女性が痛みを感じる素振りも見せずに元の位置に戻り、掃除を再開していく。


 それを見てイヴァンが大声で笑い始めた。


「アッハハハハハ!最高じゃないか!この部屋も!宝も!芸術品も!この女も!全部俺の物だ!」


 掃除を続ける女性の後頭部を踏みつけ高笑う。


「それに力もだ!やっと俺にも力が手に入る!あの化け物になんて負けない力が!」


 一人だけの笑い声が、魔の城の一室に響いた。

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