表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/144

8-6 吹き荒れる暴風

 戦闘が行われている広場に向かってエイミーとリーナが走っている。


 走る途中で二度の大きな爆発が響き、今は重く響く戦いの音が聞こえてきていた。


 エイミーが城壁から出ていたのは、呪具が破壊された事に気が付いたからだ。


 涼が広場にて呪具を破壊した時に流れ出た呪いのエネルギーに、他の聖職者の人達も気が付いていた。


 その中で何が起こっているのか把握できたエイミーは、仲間に伝えに行こうと涼とリーナの位置を感知したが、涼が居るはずの城壁の上におらず、まさかと確認した呪具が破壊された場所の近くに涼が居ることに気付き、思わず外に駆け出していた。


 今その涼の気配が消えていこうとしていた。


 やだ……やだ……


 懸命に手を振りエイミーが走る。


 走る先で一際大きな打撃音が鳴り空からレオが降って来た。


 建物の屋根に剣を突き立て、勢いを無理やり殺し踏みとどまる。


 着地したレオが向かってくる二人に気が付き、叫んだ。


「向こうの広場にリョウが!」


 レオは一言だけ叫び、直ぐに前を向き構える。

 

 疾風を纏った影がレオを弾き飛ばし、暴風を巻き起こしてレオを追撃していく。


「なんなのあれ!?」


 目では追えぬ高速の戦闘をリーナが必死に目で捉えようとする。


「ええい、エイミーはリョウの所に、あっちはアタシが!」


 空中で激闘を繰り広げるレオの元へとリーナが走り、エイミーは涼の元へと向かった。


 辿り着いた広場は凄惨な光景だった。


 かつてあったであろう風景は瓦礫と化し、辺りにはバラバラに千切れた人の死体が散らばっていた。


 目の前の光景に吐き出しそうになるのを必死に堪え、涼を探していく。


 瓦礫にうつ伏せに倒れこみ、右腕を失った涼の姿を見つけた。


「リョウさん!リョウさん!」


 涼の体を治していきながら名前を呼ぶも、彼の意識は戻らない。


「お願いです。どうか、どうか……」


 涼の体を抱きしめながらエイミーは彼の生存を祈った。




 レオは空中での攻撃に必死に耐えていく。


 縦横無尽に空を駆けるグライズに対して、レオは防御に徹する事しか出来なかった。


 グライズから下へと叩き付ける蹴りが炸裂する。


 街道に叩きつけられたレオが起き上がると、グライズも街道に立っていた。


「どうやら空中戦は苦手なようで、趣向を変えましょう」


 グライズが手を振るうと周囲の石造建築の家々が寸断されていき、振るう手に合わせてレオへと石の弾丸と化した家が襲い掛かった。


「無茶苦茶な!」


 迫る攻撃にレオはグライズに向かって加速していく。


 左右から放たれる大質量の攻撃を避ける活路は、敵の正面を突き破るしかない。


 押し寄せる街の下を、臆せずレオが突撃する。


 爆発的な加速を乗せた渾身の突きをグライズに向かって放った。


 直撃を取れるとそう思った刹那、グライズが肘と膝で突きを捕えて挟み止めた。


「な……」


 自身の渾身の一撃を回避するでも、防御して受け止めるでもなく、完璧に剣を見切れ捕られレオが絶句する。


 事態に思考が一瞬停止してしまった隙に、強烈な一撃がレオの胴を貫く。


 剣を手放し後方へと殴り飛ばされたレオが、落ちる瓦礫に飲み込まれて行った。


「さて……」


 落ちていたレオの剣をグライズが拾い上げて、剣を見てみる。


「ふむ、中々に良い剣ですね」


 感心するように何度か振るって、剣の出来を暇つぶしに確かめていると、瓦礫が轟音を上げて崩れ、中から魔力を放出させたレオが出てきた。


「おかえりなさいませ。ではこれはお返ししますよ」


 出てきたレオにグライズが剣を投げて渡す。


 受け取ったレオは構えはするも、最初の様な闘志は崩れ始めていた。


「おやおや、少々魔力は上がってきましたが、これでは見込みが無かったのかもしれませんね」


 少し残念そうにグライズが息を付く。


 もう仕留めてしまおうかと考えていると、強力な雷が背後から放たれた。


「ほう?」 


 グライズが魔力で防壁を作りそれを防ぐ。


 グライズが振り向いた先にリーナがマントを煌かせ再び魔方陣を構えていた。


「人としては相当な力ですが、今は邪魔なだけですね」


 グライズの殺意がリーナへと向けられた時、レオの魔力が膨れ上がった。


 溢れ出る魔力による力任せの加速でレオがグライズに迫る。


 レオが放つ一撃を再び掴もうとグライズは構えるも、その速さと剣圧に防御へと切り替える。


 魔力が風の塊となり正面に現れ、レオの進撃を阻む。


「このおおお!!」


 叫びと共に気合で踏み込んだ剣が風を両断した。


 振り下ろした剣を即座に構えなおし、グライズへと踏み込む。


「なんと」


 迫るレオから距離を開ける為にグライズが後ろへと跳ぼうとする。


 しかし、グライズの背後に突如として氷の壁が形成されそれを阻んだ。


 風で壁を瞬時に砕く。だがその僅かな差でレオがグライズへと追いついた。


 振り上げられた一閃がグライズの魔力を裂いて、浅くではあるものの剣がグライズへと届いた。


 切れた頬から流れる血をグライズが拭う。


「ようやく本気となれましたか」


 風の刃を生み出しレオへと放った。


 リーナが雷を風にぶつけ、威力が弱まった所をレオが切り裂きグライズへと向かう。

 

「貴方が本気となる為の鍵は彼女ですか、ならば!」


 グライズの腕を覆う魔力が風になり、拳が暴風を纏う。


 レオの強力な剣戟を風の拳で迎え撃った。


 鋭い剣と拳の応酬が繰り広げられ、ぶつかり合う音が響き渡る。


 回転の速いグライズの拳がレオの剣を押し始めた。


「くそっ!」


 何とか切り崩そうと大振りになってしまったレオの攻撃を避け、正拳がレオを殴り飛ばす。


「貴方の力、引き出させて貰います!」


 グライズが踵を返し、リーナへと迫る。リーナを殺し、レオの奥に眠る力を目覚めさせる為に。


 リーナの胴を軽く千切り飛ばす四天の一撃が迫る。


「死ぬかあああああ!!」


 リーナが自分を中心とした膨大な雷を放出した。


 グライズに対して魔法を放っても容易く避けられてしまう。ならば、取るべき攻撃方法は敵が狙う自身すら巻き込んだ範囲攻撃。


 雷の嵐にグライズが阻まれる。


「良き執念!」


 阻まれたグライズが雷を受けながら後ろへと振り返る、体勢を建て直し怒りに瞳を燃やすレオが目前へと迫っていた。


 迎撃に放たれた拳をレオが寸前で避ける、拳と交差するように剣がグライズの胴を切り抜けた。


 追撃の剣と雷を避ける為にグライズが空へと飛んでいく。


「リーナ、大丈夫!?」


 雷によるダメージでふら付くリーナにレオが聞いた。


「正直微妙ね」


 リーナの答えを聞いて、空のグライズを見る。


 胴を切り裂かれても相手はまだ余裕に見えた。


 でも、やるしかない。


「次で決める」


「いけるの?……いい、分った。じゃあ、特大のを一発ぶちかましてやりなさい!」


 リーナが巨大な魔方陣を作り出す。


「最後の一撃と言った所ですかな」


 グライズは紡がれていく強大な魔力を空から見ていた。


 雷がレオの剣に落ち、それを魔力で練り上げ纏わせる。


「では、こちらも相応の攻撃を」


 グライズの背に魔法陣が展開する。


 暴風が竜巻となり、グライズの体を包み込んだ。


 レオがリーナが作り出した風の塊を蹴り、空へと跳ぶ。


 グライズが空を駆け、竜巻を纏った強烈な蹴りを繰り出す。


 雷の剣と竜巻の蹴りが空で衝突し、衝撃に天が震えた。


「「おおおおお!!」」


 両者の雄たけびと共に雷と竜巻が爆散し、両者の一撃が交差した。


 グライズの一撃で肩から大きく切られたレオが空から落ちてくる。


 リーナの風で地上に降り、左手が上がらぬレオはリーナに支えられ空を見た。


 空に居るグライズは蹴りで繰り出した右脚を失くしていた。


 膝から先を失った右脚を見て、グライズは笑顔を浮かべる。


「合格としておきましょうか、約束ですから貴方とその仲間の方は見逃します。では、また何れ」


 空中で一礼したグライズが視界から居なくなった。


「助かった……」


 脅威が去った事により、レオの緊張が解けてリーナの腕に倒れこんだ。




「さて良き収穫がありましたが、残る仕事は終わらせますか」


 グライズが風を纏い街を駆ける。


 来るなら……ここに……


 このバルレッタを落とすために、ここの中心を目指して駆ける。


 戦いはレオが勝ち取った……なら……


「居ましたね」


 グライズが表に出て指揮を取っているフレッド司令を捉えた。


 地面に降り立ち、常人では気づく事すら出来ない速さでフレッドの首を落とすために迫る。


「ここ!!」


 迫るグライズと気付かぬフレッドの間に炎が膨れ上がった。


 突如現れた炎にグライズがフレッドを見失う、突如現れた炎にフレッドが身を避け、剣を構える。


 グライズの手刀がフレッドの構えた剣を砕き、突き抜けた手刀の衝撃でフレッドが吹き飛ばされた。


「まさか……」


 外す筈の無い攻撃を外した。フレッドは吹き飛ばされはしたものの、まだ生きている。


 突然の襲撃に兵士が囲んでいく中、殺し損ねたフレッドを見て、遠く先程の炎を放った人物を見つけた。


 全ては偶然だったのかもしれません。迫る私に合わせたタイミングも、私が炎に気を取られほんの少し手刀がずれた角度も、あの男が避けた方向も、構えた剣の位置も、全ては偶然の上で成り立った結果なのかもしれません。


 しかし、確かにこの偶然を叶えた少年が居る。


 遠くの建物の上で、少女に支えられてこちらを見る少年が。


「3度も止められたとあっては、四天の名が泣きますね」


 取り囲む兵達を死なぬ程度に風で吹き飛ばし、少年の下へと飛ぶ。


 少年の前に辿り着くと、少女が震えながらも庇うように少年の前に立った。


 自分では決して敵わぬと分っていても、細い手に聖職者の印を構えて立ち塞がっている。


「そう怯えずともこの場で貴方達へ危害を加える気はもうありません。それで一つ彼の名前を教えていただきたいのですが」


 グライズに呼ばれ、涼がエイミーの肩を掴み前に出た。


 エイミーに支えられながらも、グライズに対する瞳はまだ光を失っていない。


「改めて名乗りましょう。私は魔王軍四天が一人、グライズと申します。貴方の名は?」


「涼……真田 涼……」


「サナダ リョウ、その名前確かに覚えました。何れまた戦場でお会いしましょう」


 優雅に敬意を持った一礼を涼に向けて、グライズが軍への撤退の光を空に上げ、風と共に空へと消え去った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ