8-3 軍事都市バルレッタ
イヴァンさんの案内を受けながら基地の中を歩いていく。
案内するイヴァンさんは最初の違和感は何処へやら、普通の気さくなお兄さんといった感じだ。
「そうだイヴァン、アタシ達ボアフット以外の事で軍に報告しておきたい事があるの」
そう言ってリーナは呪いを発生させる円盤を取り出した。
「この魔王軍の兵器なんだけど」
イヴァンはその円盤を受け取り、驚き見ている。
「へー、これを何処で手に入れたんだ?」
「ここに来る前にロンザリアってのを倒して、そいつが持ってたのよ」
「そんな事まで。リーナ達に再開してから俺は驚かされてばかりだな。それで、これは俺が渡しておけば良いかな?」
「うーん、ボアフットの報告の時に序でで良いんじゃない?」
リーナの言葉に「それもそうだな」とイヴァンが円盤を返した。
基地内を進んで行き、司令室と書かれた扉の前に着いた。
「さて、ここだな。失礼します、イヴァン・サレスです。ボアフットを討伐した方達をお連れしました」
イヴァンがドアをノックをして呼ぶと、中から返事が返ってくる。
返事を聞いて失礼しますと言いイヴァンが扉を開けて中に入る。俺達もそれに倣って部屋の中に入って行った。
部屋には、書類が山積みとなっている机に座った髭を生やした初老の男性と、机の横に立っている四角くゴツイ顔をした軍服を着た男性が居た。
「イヴァン、ご苦労だった。それで君達があのボアフットを倒したと?」
初老の男性に聞かれ、リーナが証明書を渡した。
「はい、こちらが討伐の証明書になります」
証明書を渡されてた男性が目を通していく。
「ふむ、間違いはないようだ。自己紹介が遅れたな、私はフレッド・ラノッテ、ここの総司令を任されている者だ。君達の名前は既に聞いている、長旅ご苦労だったな」
自己紹介を受けて、俺達は頭を下げた。
名前を知っているのは恐らくイヴァンさんが先に報告していたのだろう。
「さて、本来ならばボアフットを倒したとなると勲章物の働きだが、如何せん色々と手続きが必要でな、先に簡単だが私から礼を言わせてくれ」
フレッドが席を立ち、レオに握手を求める。
「ボアフット討伐、本当にご苦労であった」
握手を少し恥ずかしそうにレオが応えた。
「うむ、では追って賞金や勲章などは用意しよう。そして突然不躾なのだが、君は軍に入隊する気はないかね?」
「え?」
突然の申し出にレオが驚きの声を上げてしまう。
「そう驚く事は無いだろう、君はこれ程の戦果を上げたのだ、軍としてはスカウトするのは当たり前だと思わないかね?」
「いや、僕はまだ軍に入るとかは……」
「君さえよければ我が軍の五本目の槍として地位を確約したいのだが」
「え、ええと」
詰め寄られてレオが困っていると、軍服を来た男性が止めに入った。
「指令、彼も困っておりますのでその辺にしておいた方がよろしいかと」
「おっとすまない、つい興奮してしまってな。いやしかし、期待してるよ」
「ハッハッハッ」と笑いながらフレッドが手を離した。
「申し訳ありません、指令が無茶を言って。自分は四本槍の一人、バルトロ・ゲディーニと申します。あのボアフットを倒したのが君の様な子供だったとは、いやはや自分もまだまだ鍛錬が足りないと実感しますな」
「いえ、僕もまだまだですから」
「はっはっはっ、謙遜なさるな、レオ殿の強さはボアフットと何度も戦った自分が分っております」
突然の自身の戦力の評価に、レオはどうしたものかとオロオロしている。
その中で、俺は一つ気が付いてしまったものがあった。
それは直ぐに影を潜めた。でも、これは……
「すみません、一つ他に報告したい事があるんですけど」
レオに構いっぱなしな二人にリーナが切り出す。
「何かね?」
「この魔王軍の新兵器についてです」
リーナが円盤を取り出して見せた。
「これは……何かね?」
「これ一つで街を覆う呪いを発生させる装置です」
リーナの言葉に、二人が大きく驚いた。
「これ一つで呪いをだと?どのような……いや、これは触っても大丈夫なのか?」
「はい、調べてみましたけど簡単には作動しないようになってます。それと」
円盤をフレッドに渡した後、リーナが紙の束を取り出した。
「こちらがシルヴィオ市長からの報告書と、これがアタシが出来る限り調べた内容になります。ご活用下さい」
ちょっとドヤ顔気味にバロルトへと資料を渡す。
バロルトはそれに急いで目を通していく。
「どんなものかね内容は?」
「これは、凄まじいでありますね」
二人が目を通して行く資料は驚愕の内容で満載だった。
発動までは少々の時間が掛かってしまうものの、たった一つの小物を置くだけで音も無く辺り一面に呪いを撒き散らす。
もしもこの兵器が何の前知識も無く戦場で、いや人の居住区で使われるようになれば、どれ程の被害をもたらすかは簡単に想像が出来た。
「君たちはこれを何処で?」
「鉱山都市のアベリーノで魔王軍配下のロンザリアって魔物と交戦して、その戦利品です」
リーナの言葉に「そうかそうか」とフレッドが頷きながら、バロルトと共に資料を読み込んでいく。
「これは早急に会議を開いた方が良いな。君たちとはまだ色々と話をしたいが、今日はここまでとさせて貰おうか」
フレッドの言葉にレオがほっとした表情を浮かべる。
「イヴァン、彼等を外へ案内してくれ」
「はい、了解しました」
イヴァンと一緒に部屋から出た。
「それでは、もうここに用は無いかな?ないなら外へ案内するが」
「ここの研究施設って見て回っても良いの?」
「うーん、それは流石に駄目かな。フレッド司令に聞けば多分許可はくれるだろうけど、今は忙しいだろうから後にしてあげた方が良いかもね」
「そっか、残念」
軍の魔法等の研究に興味があったリーナががっくりと肩を落とす。
「でもレオが軍に入るのなら施設中見放題なんじゃないか、なんせ四本槍が五本槍になるかもしれないのだから」
「あのー、その四本槍って何でしょうか?」
エイミーが手を小さく上げて、イヴァンに質問した。
「そうか、そうだね。あまり魔王軍との戦いの話は地方まで行かないか」
自慢げに、何処か大げさにイヴァンが語っていく。
「四本槍ってのはこの国で最高の戦士が呼ばれている称号さ、その名に憧れ自分も連ねられるよう皆努力してる程の凄い称号なんだ」
話しながらイヴァンはレオに笑顔を向けた。
「俺もレオみたいに才能があれば良かったけどな。けど俺も、最近は努力の方向が見えてきたから、それを目指して頑張っていくよ」
そう告げてイヴァンは基地の外へと送ってくれた。
基地から宿へと帰ってきて、俺はレオの部屋に来ていた。
「今大丈夫か?」
「別に大丈夫だけど、どうしたの?」
聞くかどうか悩んだが、やはりこれは聞いていたほうが良い気がする。
「イヴァンさんの事についてなんだけどさ、昔はどんな人だったんだ?」
聞かれてレオは考え答えた。
「……リーナも言ってたけど、悪い人ではなかったよ」
「じゃあはっきりと聞くけど、お前に嫉妬したり恨んだりとかは無かったのか?」
俺の言葉にレオはあまり良い顔をしなかった。
「あんまり、そうやって人の事を言うのは良くないと思うよ」
「分ってる。まだ全然話しても無い人をこんな風に言うのが悪いのは分ってるけど、どうしても気になるんだ」
俺の真剣な顔を見て、悩みながらもレオは答える。
「嫉妬って点では、多分あると思う。僕が後追いで剣を一緒に学んだけど、僕の方が強くなったから……でもそれで僕を恨んでるまではないと、思う」
とても失礼だと思う質問に、強くレオは答えてくれた。
「そうか、ごめん。変な事を聞いた」
「いいよ、リョウも心配して聞いてくれたんだろうから」
そう言ってレオは俺に優しい笑顔を向けてくれた。
「じゃあ序でに聞くと、どうしてレオは強くなろうと思ったんだ?」
レオは許してくれたものの、少しギクシャクとしてしまう雰囲気を変える為に聞いてみる。
「えーっと、5歳の頃だったかな。あんまり当時の事は覚えていないんだけど、外で遊んでいる時にリーナが魔物に襲われて、それを必死に助けた事があったんだ」
思い出しながらレオが話していく。
「その時の恐怖が忘れられなくて、もう二度とそんな目に合わなくて済むようにって、剣を大人の人たちに習いはじめたんだ」
つまりはリーナの為にって訳か、まぁ予想どうりだな。
「好きな人の為にか、レオっぽいし王道で良いな」
「好きな人とかそういうのじゃ……いや、そうなんだけど」
レオの言葉に思わず笑ってしまう。
「別に笑う事じゃないだろ」
「いやいや、ごめんごめん。でもレオも言うようになったなって」
腹を押さえて我慢している俺を見て、レオがむすっとした顔をした。
「じゃあリョウは何で戦ってるのさ」
聞かれて笑いがすっと、引っ込んだ。
「俺は」
何かを答えようと考えていると、ゴーン、ゴーンと街に鐘の音が響いた。
二人で窓から外を見ると、外を行く人は慌しく動いている。
「これは何だ?」
疑問に思い、魔法で上空から様子を見る。
すると、街の外に魔物の軍隊が戦列を整えているのが見えた。
「なんだ、魔物の軍隊?魔王軍か!?」
「でもどうしてここに」
横で俺の魔法を通してレオも上空から状況を確認していく。
「わかんねぇけど、俺たちも行こう」
「うん」
始まる戦に向かう為、俺たちは部屋を飛び出した。




