7-9 動き出す運命
扉を出て俺達は二人の下へと帰ってきた。
「それでどうだった?壁の向こうの様子は」
「アデルさんに会ってきたよ。そこで幾つかの話を聞いた」
レオが下での出来事を話していく。
あの悪夢が過去だった事、神がそれを封印している事、真実を知りたいなら神に会う必要がある事。
話していく中でレオは自身に告げられた運命は話さなかった。
「ヘレディア様が、どうして過去を隠すような事を……」
エイミーは自身に力を与えてくれている神が、何か世界にとって重要な事を隠している事にショックを受けている。
「アデルさんの雰囲気的には別に悪い事をしてる訳ではないと思うよ。何か隠しておかない理由はあるんだろうけどさ」
アデルさんの口調からして神に悪意があるとは思えないが、やはり今まで信じてきた物が揺らぐのは精神的には結構くるものがあるだろう。
落ち込むエイミーを元気付けようと頭に手を伸ばす。
その手にエイミーが気付いた。
「最近私が落ち込んだら頭を撫でれば良いと思ってませんか?」
伸ばした手がびくっと止まる。
「嫌だったか?」
最初に出会ったときに落ち着かせる為に頭を撫でて落ち着かせたのもあって、何となくエイミーへの励まし方は「頭を撫でること」と思い込んでいたのかもしれない。
「いえ、落ち込んでいるのでよろしくお願いします」
「お、おう」
何だか分らないが、良いなら良しとしよう。
「神ねぇ……どうする?神様には会いに行く?」
レオから聞かされた話に頭を悩ませながらリーナが聞いた。
「僕は……いや、分らない」
レオの暗い表情にリーナは少し不思議そうな顔をした。
「んー、まぁ行きたくないなら別にアタシもそれでも良いけど。行くにしてもちょっと遠いしね」
リーナ自身は正直行ってみたい気持ちがあったが、レオの顔を見てそれは黙っておく事にする。
「さてと、アタシ達はこの島からは出ないと不味いのよね?船が無いから救援をどうにか呼んで、それからになっちゃうけど」
そう言ってリーナが海の方を見ようとした時、島が大きく揺れ始めた。
「なになになに?」
揺れにリーナがずっこけてしまう。
「これってもしかして島が無くなったりするんじゃないのか!?」
「え、私達どうなるんですか!?」
島は大きく揺れ動く。
俺達が「どうする、どうする」と慌てふためいていると、地面が光り輝いた。
気が付くと人が賑わう街に立っていた。
「えっ……と?」
辺りを見渡すと港町ヴィエステへと戻ってきているようだ。
「なんか、一応戻ってこれたみたいね」
「なんだよ脅かしやがって」
色々とあった疲れがどっと体に押し寄せてきて道に座り込む。
「島がなくなった事とか、僕達が戻った事はディーノ市長に報告した方が良いよね」
「そうね、それが終わったら宿に戻って今日はゆっくりしましょう」
疲れた体を押して市長の下へと向かった。
が、
「島への調査ですか?いえ、その様な事は現在しておりませんが」
何故か役所の窓口にてそう告げられた。
「え、いやあんなにデカい島が出たり、幻覚出たりでパニックになってたじゃない」
「はー……いえ、そのような事件は起っていないはずですが」
リーナの言葉に面倒そうに係りの人が最近の記録をぺらぺらと捲っていく。
「すみません俺達ちょっと出直してきますんで、本当お手数おかけしました」
係りの人にまだ何か言いたそうなリーナを無理やり引っ張り役所を出た。
「何がどうなってるの?」
役所から出たリーナが憤っている。
街の人に聞いていっても、やはりあの島や幻覚は全て無かった事になっているようだ。
「これが神の力ってやつか」
「あの島や出来事を無かった事になんて、そんな事まで」
「あれ?でしたら何故私達はその事を覚えているのでしょう?」
エイミーが疑問に頭を捻る。
「多分俺達はそれを実際に見たからとか、そんな所だろうな。でもそれならこの事はもう誰かに話すべきじゃないな」
俺の言葉にレオが頷いた。
「うん、あれは隠しておかなくちゃいけないものだって言ってたし、これ以上誰かに言わない方が良いと思う」
「あーーーーー!!」
突然リーナが悲鳴を上げた。
「どうしたの?」
「やばい、今日って昨日の明日じゃない」
何を言ってるんだこいつは。
「とりあえず落ち着け、何か今日が今日な事に問題でもあるのか?」
「アタシ達が船に乗って出たのが昨日の昼で、今はその明日の昼なのよ」
ん?ああ、そうか。空間を移動したり過去に飛んだりで時間の感覚が滅茶苦茶になっていたが、何時の間にか日を跨いでいたのか。
「それで、明日になってしまった事に何か不都合でもあるのかよ」
「アタシ達は次の日何をする予定だったと思ってるの!?」
別に怒鳴らなくてもと思いつつ、何をする予定だったか思い出す。
えーっと、島が出現したから調査に向かっただけで、元々の予定は……
「げっ」
俺もレオもエイミーもようやく気が付いた。
「宿に急いで出発の準備をするわよ!」
リーナに言われて全員が全力で走り出す。
今日出航予定の船の時間が目の前に迫っていた。
暗い城の廊下を一人の美しい女性が歩いていく。
背に蝙蝠の様な羽根を生やした女性は魔王軍四天の一人フラウである。
彼女は魔王への報告の為に城へと訪れていた。
扉を開け、謁見室へと入る。
「おや、フラウ様がどのような用件で城へ?」
部屋に居た同じく四天の一人であるストレッジが全身の触手を蠢かせながら尋ねる。
「部下が少しトラブルを起こしてな。計画には問題はないがその報告だ」
「ロンザリアが作っていたテュポーンの心臓の事ですね。話は聞いておりますよ」
フラウはストレッジの事が苦手だった。
見た目の嫌悪感もさることながら、知っていた筈のことを事も無げに聞いてくる態度が嫌いだった。
「計画に問題はない、あのテュポーンは間違いなく私が創り上げる」
「ええ、期待しておりますよ」
ねっとりとした声をこちらにかける。
やはりどうもこいつは苦手だな。
「それで、お前の方は何の報告だ」
「それが面白い情報を手に入れまして、それの回収をグライズ様に頼みたくその伺いを」
「四天にわざわざ頼むような事か、それに自分で行けばいいだろう」
「申し訳ないことに私も多忙を極めており、それに四天を向かわせる理由はございます。何故ならあの神器の場所が分るやもしれませんから」
神器の名前が出てフラウは驚いた。
それは嘗て魔王と戦い、魔王を退けた力であった。
「それは本当なんだな?」
「はい、また巧妙に隠された様ですが、グライズ様に回収して頂く情報を」
話す後ろで大きな音を立てて扉が開いた。
「フラウー!」
なにがフラウに飛びつき、フラウがそれを抱きとめた。
それは狼の耳と尻尾を生やした、少年と言っても差し支えない風貌の魔物であった。
「ケーニヒか久しぶりだな。しかし、どこか戦場に居ると思っていたが」
フラウに抱きついている四天の一人ケーニヒが、むすっとした顔をストレッジに向ける。
「だってストレッジが戦うのを止めろって言って城に戻したから」
「ケーニヒ様が計画外のことを続けるからですよ」
わざとらしいため息を付きながらストレッジが答える。
「そうなのか?」
「うん、王にも言われた。だから城で我慢してる」
「そうか、それは偉いな」
フラウがケーニヒの頭を撫でると、ケーニヒはパタパタと嬉しそうに尻尾を振っている。
「なにやら私の時と態度が大きく違うように思いますが」
そうぼやくも、ストレッジのぼやきはケーニヒに無視されてしまった。
「まぁ良いでしょう、魔王様が来られますよ」
その言葉を聞きフラウに抱きついていたケーニヒも離れ跪く。
魔王が奥から姿を現した。
「それでは、話を聞こうか」




