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1-4 最初の朝

 朝になり目が覚めると、立っているリーナがこちらを見下ろしていた。


「おはよ、中々起きないから蹴り起こそうかと思ったわ。朝食は用意してるから食べて支度しなさい。アンタが食べたら出発するから」


 そう言うとリーナは椅子に座り、本を読み始めた。


 寝ぼけた頭で起き上がり、借りていたシーツを畳む。


 慣れない野宿で寝付けないかと思ったが、不安と違い良く眠れた。


 用意されていた朝食はパンに燻製の肉に目玉焼きと、昨晩食べさせてもらった時と同じように食事は元居た世界とあまり変わらないようだ。


 量は少なく感じるが、元は二人旅の予定だったものを俺にも分けてくれているのだから当然の事である。


「朝飯俺の分まで用意してもらってありがとな」


 俺の言葉にリーナが顔を上げると「気にしない」と手をヒラヒラさせて答える。


「お腹なんて誰でも空くものだし早く食べちゃいなさい」


 そう言われて「頂きます」と手を合わせて食べようとした時、ふと気が付く。


「そういやレオは何処だ?」


 聞かれてリーナが向こうと指した方を見ると、少し離れた所でレオが剣の素振りをしている。


 離れた距離でも感じる振りの強さを見て、朝食を持ち近くへと向かう。


 横で見ていようと思っていたが、レオはこちらに気がつき手を止めた。


「おはよう。今朝はよく眠れたみたいだね」


 汗を拭いながらレオが聞いてきた。


「お陰様でぐっすりと寝させてもらったよ」


「よく寝てるものだからリーナが起こしても中々起きないって怒ってたよ」


 笑いながら剣を収め、脱いであった上着を取る。


「あれ、素振りは終わりなのか?」


「リョウが起きたし、止めておこうかなって」


 それを聞いて待ったをかけた。


「いや、ちょっと俺が見たいからさ、レオさえよければ続けて欲しいな」


「僕はいいけど……そんなに見ていて楽しいものでは無いと思うよ?」


「いいから、いいから」


 言われてレオは服を置き、剣を構え素振りを再開する。


 最初は見られていると言う気恥ずかしさもあったのか、遠くで見ていた時よりも迫力がなかったが、徐々に顔が真剣になっていき、一人で竜巻でも起こすのかと思うほどの連撃が始まった。


「すげぇ……」


 自然と口から感想が漏れる。


 空を切り裂く音と、地面を踏みしめる音が響き、目の前の空間が両断されていく。


 何となく幾つかの型や切り方を連携しているのだとは思うが、とてもじゃないが目が追いつかない。


 試しに俺ならどう避けるか考えようとしたが、一瞬で細切れにされるのが関の山だと思い止める。


 すげぇな、俺もこれぐらいの力が目覚めたりするんだろうか


 そんな事を頭の片隅で思いながら、朝食を取りつつレオの動きを見ていた。


「やっ」と気を吐き、レオが動きを止めた。それを見て俺は思わず拍手を送る。


 突然送られた拍手を照れくさそうに頭を下げてレオが応えた。


 片づけが終わり出発する。


 旅の格好はリーナは長い髪を後ろに束ね、長袖と短パンにタイツ姿でマントを一枚羽織っている。


 煌びやかな星や文字の刺繍が施されている夜空色のマントだ。


 俺とレオはお揃いの長袖と長ズボン。


 レオは更に上からプレートを付け剣を腰に帯刀しており、他にも荷物や予備の剣を背負っている。


 椅子や机は組み立て式でコンパクトにはなっているのだが、調理器具などもあり中々の荷物になっていた。


 何もしないのは悪いと荷物を持たせてもらったが、これが意外と重い。


「大丈夫?」


「いや、これぐらい俺も働かないとな」


 額に汗をかきながら拳を握り、強がって見せた。


 目的地の町の途中にある村に着くのが昼過ぎになると言われて若干気がめいりそうになるが、旅とはこういう物なのだと自分に言い聞かせて歩き続ける。


 するとリーナがこちらに話しかけてきた。


「そういえばリョウの世界の話って殆ど聞いてないけど、どんな世界だったの?」


「なんでいきなり」


「アタシが気になったのと、アンタが辛そうな顔をしてるから。話してたら気も紛れるでしょ」


 それもそうだな。


「聞きたい事ってなにかあるか?」


「そうね、アタシ達に聞いたみたいにそっちの技術とか住んでた場所の話とか?その辺色々喋って頂戴。何か聞きたい事が出来たら、その時にまた聞くから」


 その後はリーナとレオの質問に答えながら、特にこの世界と違う部分を話していく。


 二人の関心はリーナの方は技術面に関して興味があるようで、俺が知識や技術を持っていないことにガッカリしていた。


「車だったり電話だったり、アンタが機械の技術者ならねー。色々と面白い事も出来そうなのに」


「無茶言うなよ、俺はそのタイプの異世界人じゃないんだ」


「そのタイプってどのタイプよ」


「居るんだよ、そうやって技術とか滅茶苦茶持ってるタイプが。俺は多分後で力が覚醒するタイプだな」


「あっそう」


 レオが興味を示したのは技術や歴史ではなく、その際に出た人達が行った場所についてだった。


「リョウの居た世界の人たちは凄いんだね。海に山や森の奥地に、空……宇宙か」


「そうか?魔法が使えるこっちの世界の方が凄くないか?」


 聞いた俺にレオが言う。


「魔法は僕達からしてみれば当たり前にあるものだし、凄いとは感じないかな。勿論それを努力して使いこなす人は凄いと思うけど。でもリョウの居た世界の人たちは自分達の足で、僕達の世界よりも多くの事を知れている。それも本当に凄い事だと思う」


「まぁ……そうかな」


「そうさ、それにリョウが居た世界の話をしている時は本当に楽しそうに喋ってた。だからリョウだって本当はそう思ってるよ」


 そうだろうか……いや、そうなのだろう。


 結局自分自身で元の世界を歩かなかっただけで、やはりあの世界も未知が詰まった素晴らしい世界だったのだろう。


 しかし俺は今は異世界に居る、異世界に来れたんだ。


 そうさ、魔法だって使えるようになるだろうし、元居た世界では決して出来ないような偉業を成せる筈なんだ。


 話を続けている間に森を抜け、開けた道へと出た。


 道の先には畑も見え、この先に村があるのだろうと分かる。


 だが、辺りに放置された農作業の道具と静かな道の様子が村の異常を伝えていた。

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